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ゲスとメイドの少女

「軍師殿()、一兵たりとも失わずして人間を壊滅させることなど可能なのか?」


 化け物が尋ねる。


 余談だが、こいつの大餓の呼び方がどんどん立派になってきている。


「ああ、可能だ。俺一人では無理だけどな」

「我らは何をすればいい?」

「できる限り早く、ここに今から俺が言う者を呼べ」

「分かった」

「おっと、呼ぶ者は最小限にしろ。じゃないと、お前ら()()()痛い目見るぜ」

「ああ。」


 セリフの一部分を強調して言う。


 大我の言葉を聞いた化け物が、手際よく魔導士達に指示を出す。

 それを聞いた魔導士達は、扉を開け部屋の外に出ていく。


「そうだ。」


 部屋から出ようとしていた化け物が立ち止まり、振り返る。

 何かの用事があるのだろうか。


「もうすぐここに、我に使えているメイドがここに来る。何かあれば、そいつに言うがよい。」


 それだけ言うと部屋から出ていった。


 と、思ったが、もう一度だけ振り返る。


「軍師殿が召喚された時、()()の横に狼がいたよな?」


 あれ?今『お前』って言った?


 でも、その前は『軍師殿』って言ったよな?


 軍師としては信用されてはいるが、一個人としては信用されていないってことか?


 素朴な疑問を抱く大餓だったが、化け物に質問されたことを思いだし、その答えを探す。


「狼なんていたか?」


 駆け引きなしで言った。


「我の勘違いだったようだ。忘れてくれ。」


 それだけ言い残すと、今度こそ本当に部屋から出る。


 数分だけ待ってから、この辺りを探索するために化け物の後に続く。


「部屋から出てはいけません」


 部屋から出ようとする大餓の通り道を塞ぐように姿を現したのは一人の少女だった。


 この少女は、人間なら十二歳くらいだろう。まだ顔には幼さと可愛さが残っている。

 そして、小動物の体毛と同じ茶色のきれいな髪は、肩にかかるほどの長さがある。


 最後に、少女について特筆すべき事は二つある。


 一つは、アニメなどでよく出てくる白と黒のメイド服を着ているという事。

 おそらく彼女が俺の世話係のメイドだろう。


 二つ目は、犬の様な耳が生えているという事。

 チッラっとさりげなくおしりを見てみると、そこには尻尾が生えていた。


「今、私のおしりを見ていましたね!ゲス!スケベ!ロリコン!」


 うん。声も可愛い。言う事は可愛くない。


 と、思うのが世間一般だろうが、大餓は少女を、いや、女性を可愛いと思う心はかけらも持ち合わせていなかった。


 だからといって大餓は変な趣味を持っているわけではない。

 ただ、『恋愛感情』の『れ』の字も、頭に入っていないだけだ。


「何か言ったらどうです?

 私達『魔族』の魅力に愚かで下等な人間どもが魅了されるのは分かります。

 ですが迷惑です。

 今は主の命により愚者(おまえ)の世話をしますが、本来ならば変態(おまえ)を今すぐに殺していますわよ。

 第一、あのお方も……………………」


 この自意識過剰な馬鹿は一体何を言っているんだ?


 よし。分かりやすく整理しよう。




 この少女は大餓が自分に見とれていると思っている。


  ↓


 それが迷惑とも思っている。


  ↓


 なら、誤解を解けばいい。


  ↓


 誤解を解くには、自分が相手に興味がない事を示せばいい。




 大餓の中で考えがまとまった。


「安心しろ。俺はお前の事を魅力的だとは思っていない。」


 冷静に言う大餓。


「そんな事、言っちゃって…ホントは私達『魔族』のことを可愛いと思っているんでしょ?」

「ほかの子はどうか知らんが、少なくともお前みたいなまな板女を可愛いとは思わん。」


 少女が顔を真っ赤にして怒り出す。


「女の子にそんなこと言うなんて…酷い!」


 こいつ女だったのか…魔族にも性別があるのだな。


「もうあんたの言う事を聞いてあげないんだから!」

「お前、何か俺のいう事を聞いたか?」

「うるさい!うるさい!うるさぁい!」


 一番うるさいのはお前だ。


 まあいい。あの化け物は何かあればこいつに言えと言っていた。

 色々と聞きたいことがあるし、こいつじゃ不安だが、こいつに質問するか。


「お前。人間とお前らの関係を知っているだろ?人間と魔族の関係を答えろ」

「フン!人の事を『お前』って呼ぶ奴の質問なんかに答えるもんですか!」


 面倒なやつだな。


「お前の名は何だ?」

「この『ステラ』!人間なんかに名乗る名前はありません!」

「今、名乗ってたぞ。」

「あ」


 こいつ、正真正銘の馬鹿だ。


「名前は『ステラ』か…『カステラ』に似ているな…」

「お前の世界にも『カステラ』があるのか?」


 へぇ。この世界にもカステラがあるのか。


 カステラといえば、まだ親父が生きていたころ、頑張って貯めた小遣いで『十切れ限定!一切れ一万円の高級カステラ』を買ったことがあったなぁ。

 あの時は、ちょっと目を離したときに、カステラが皿ごと消えてしまっていたからびっくりしたな。

 俺、たくさん泣いたな。


 でも、あのカステラどこ行ったんだろうな?


 あのカステラ、今でも食べたいな。


「カステラってうまいよな!

 私がまだ小さかったころ、」


 小さかった頃って…まだ小さいじゃねえか。


 ステラはカステラの話題になって心を開いたらしく、楽しそうに話し始める。


「異界の菓子を召喚したことがあるんだ。

 異界の知識を持つ学者が、その菓子がカステラだという事を教えてくれたんだぁ。

 あのカステラ、美味しかったなぁ」


 大餓の中で一つの疑惑が生まれた。


「で、そのカステラが美味しかったから『成人の名』を『ステラ』にしたんだ。」

「『成人の名』?」

「ああ、人間界には無いんだね。

 私達は成人と同時に自分に名をつけるんだ。

 そして、幼少期に使っていた名は、ほとんどの場合、ミドルネームになるんだ。」


 日本の文化とだいぶ違うな。

 地球に無かった風習じゃないけど。


「でも…あのカステラの包みに貼ってあったあの文字は一体何だったのだろうな?」

「ん?どんな文字だったのだ?」

「えっとね…」


 言って床をなぞり始める。

 ステラがなぞった場所は何故か少し光って見える。


「こんなの」


 どうやら、書き終わったらしい。


 どれどれ…『一』…『万』…『円』。『一万円』と書いてある。


 大餓の中で疑惑が確信に変わった。


 俺のカステラを取った犯人はこいつだ!


「このクソガキ!

 よくも俺の高級カステラ取ってくれたな!」

「え?ちょ、君のだったの?」


 大餓はステラの襟首をつかみ片手でステラを宙に浮かせる。


「よくも…よくも…俺のカステラを返せ!」

「ひいぃぃぃぃ!?ごめんなさ~い」

「謝って済むかボケ!あのカステラ高かったんだぞ!

 お前みたいなクソガキがいるから世の中争いが絶えないんだ。

 分かってんのか?あ?」


 泣き叫ぶ少女に大餓はいつまでも怒鳴り続けるのだった。

 いつまでも、いつまでも…






 そのころ、扉のすぐ外では…


「作戦会議を一時間延期する。」

「「「異議なし!」」」


 貴族っぽい化け物の言葉に、従者と思われる者達は心の底から賛同するのだった。

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