ハイ・カキン・パワー
そして今に至る。
オレの足元、チョコで殴り殺されて死んでいるのはツルヤティオダンジョンのボス、深き棺の悪魔(適正レベル35)。
『そんなバカな』みたいな顔をして死んでるけど、レア度Nの可能性を舐めたのが貴様の敗因だ。チョコだけに。
深き棺の悪魔の身体が光の粉末――KPとなって、オレのクエストカードに吸い込まれる。
『実績クエストクリア。中級ダンジョンをクリア』
『実績クエストクリア。ツルヤティオ・ダンジョンをクリア』
例の如ごとくクエストカードからアナウンスが流れる。
ふはははは。さすがオレ! さすが異世界転生者!
なんと! オレは冒険者1日目にしてオレは単独での中型ダンジョンクリアという偉業を達成してしまったのだ!
よし。じゃあ、ここまでにクリアした実績クエストを確認してみよう。
『ダンジョンの第二層を初めてクリア』⇒10万KP
『ダンジョンの第三層を初めてクリア』⇒10万KP
『ダンジョンの第四層を初めてクリア』⇒10万KP
『ダンジョンの第五層を初めてクリア』⇒10万KP
『中級ダンジョンの第二層を初めてクリア』⇒10万KP
『中級ダンジョンの第三層を初めてクリア』⇒10万KP
『中級ダンジョンの第四層を初めてクリア』⇒10万KP
『中級ダンジョンの第五層を初めてクリア』⇒10万KP
『レベルが10に到達』⇒10万KP
『ダンジョンを初めてクリア』⇒10万KP
『ダンジョンを低レベルでクリア』⇒10万KP
『ダンジョンを一人でクリア』⇒50万KP
『ダンジョンを武器を持たずにクリア』⇒100万KP
『中級ダンジョンを初めてクリア』⇒10万KP
『中級ダンジョンを低レベルでクリア』⇒10万KP
『中級ダンジョンを一人でクリア』⇒50万KP
『中級ダンジョンを武器を持たずにクリア』⇒100万KP
『ツルヤティオ・ダンジョンをクリア』⇒100万KP
その総額、なんと530万KP!
一般的な冒険者の年収が400万KP程度なので、ちょっとした小金持ちだ。
っていうか、カッチカチのチョコレートって武器の扱いじゃないのね。なんか得した気分だね。
「あばばばば! ナバルさん!
わたし、こんな数値のKP見たことないです! これならプレミアムどころかスーパープレミアムガチャ回せますよ!?」
オレが出したステータスウィンドウを見て、ウェンズディが大はしゃぎする。
「はは、そいつは無理だな」
スーパープレミアムガチャというのは世界のトップクラスの冒険者だけが回すことができるというガチャで、その額、なんと1回1000万KP!
最低SR保障で、URよりレアなLRという、いわゆる神遺物が0.001%の確率で排出される、まさにスーパーでプレミアムなガチャだ。
ともあれ、いまのオレたちが手を出せるものではない。
無理のないカキンをすること。それがこの世界の常識なのだ。
「よし、回すぞ!」
そして、たんまりとKPがあったなら何をするか。
決まっている! もちろんガチャを回すのだ!
「はい! プレミアムガチャ50回ですね!? いでよ、ガチャフィールド!」
いつもの通り、ウェンズディがガチャフィールドを出してくれる。
見慣れてくると、このパネルの数々も射幸心をじゃぶじゃぶ煽られてくる気がするな。
だけど、
「違う! 今回回すのは日用品ガチャだ!!」
「日用品!? ナンデェッ!?」
「うっせえ。アララララァァァァァイ!!!」
ポチポチポチチチチチチ!!!!
再び1秒間に10連打!
ブリーフ(N)。ブリーフ(N)。シャツ(N)。シャツ(N)。殺虫スプレー(N)、網タイツ(N)、ジャージ(N)。男性用ブラジャー(N)!
Nの嵐。Nの地獄! 見よ、プレミアムガチャなんて回した日には後悔する気しかしない、この不運!
「あびゃー」
Nしか出ないガチャの嵐に、ウェンズディの自尊心はぼろぼろだ!
日用品ガチャは一回500KP。
すなわち試行回数は1万回!
ぐえー。腱鞘炎になりそう。
結果発表!
R15個。あとの9985個全てN!
「おおう……。まさかSRすら1個も出ないとは……」
さすがのオレも絶句。
もしもプレミアムガチャを回していたら……と思うと空恐ろしいほどの圧倒的不運!
「アハハヤッター。Rガ15個もデテマスヨー……」
あんまりな結果にウェンズディの精神がやばいことになってる……。
でも、この結果こそがオレの計画通り!
「くくくく……」
「あ、あの……ナバルさん?」
確かにガチャは運だ。
URやLRなんていう極稀ごくまれにしか出ないアイテムは、どれだけ試行回数を増やしても運のない者には微笑えまない。
だが、しかぁし! NやRといった頻出するアイテムの排出数であれば話は別。
大数の法則に従い、試行回数を増やすことで限りなく期待値に近づけることができるのだ!
そしていまのガチャで排出されたアイテムの数々は、完全にオレの期待通りなのだ!
「やっぱりお前は最高だぜ。ウェンズディ!」
ツルヤティオ・ダンジョンははっきり言って不人気ダンジョンだ。
視界は悪いし、足場も悪い。おいしくない高レベルの階層ボスもいる。
ではなぜ、このダンジョンにやってきたか。
その答えは、いまゲットしたアイテム群と、このダンジョンの最奥にあるとある代物にある。