初めてのカキン
そして2時間後。
「GYAAAA!!!」
ずーんとオレの足元に倒れ伏したのは、ここツルヤティオ・ダンジョンのボス、深き棺の悪魔。
適正レベルはボスにふさわしく35。
もちろん本来なら今日ようやく冒険者になったようなやつが倒せる相手じゃない。
けど、
「ぬははっ! 脆弱! 脆弱ぅっ!」
オレはその屍の上で、血まみれの鈍器を片手に勝ち誇っていた。
ここまでの道程でレベルは上がって現在12。
一般的な冒険者であれば1年目でレベル5になっていれば順調というのだから、自分で自分の才能が怖い。
「あ、あわわ」
目を丸くするウェンズディに、オレは鈍器片手に微笑みかけた。
「笑えよ、ウェンズディ。お前のおかげだ」
「ああ、神様。なんでこんなことに……」
――どうしてこうなったかと言うと、時間は少々さかのぼる。
★☆
『実績クエストクリア。ダンジョンの第一層を初めてクリア』
『実績クエストクリア。中級ダンジョンの第一層を初めてクリア』
『実績クエストクリア。モンスターを10体討伐』
『実績クエストクリア。レベルが5に到達』
ダンジョンの第一層をあっという間にクリアしたオレに、アナウンスが告げる。それと同時にクエストカードにKPが報酬として与えられる。
これはいわゆる実績クエストと呼ばれるやつで、例えば『モンスターを討伐』なら、10体⇒100体⇒1000体というようにキリのいい数字で報酬が与えられるのだ。
そして入手した額、なんと合計40万KP!
「や、やりましたよ。ナバルさん!! レベル1からいきなし中級ダンジョンの1層クリアとかすごいです!」
興奮さめやらぬ様子でウェンズディがオレの背中を叩く。
そういや、こいつなんでオレについてきてるんだろう? 普通、ガチャ妖精ってガチャするときだけ呼び出すものなんだけど。
「い、いいじゃないですか!? 戻ってもやることなくて暇――じゃない。契約者の助力をするのもガチャ妖精の仕事なんです!」
疑問に思って尋ねると、ウェンズディはぷいっと顔をそむけた。
「そういえば、いま契約してる冒険者、オレだけって言ってたもんな……」
なんだこいつぼっちか。
まあ、そんなことはどうでもよろしい。
「よし、さっそくガチャだ!」
「ふぁっ!? 正気ですか!?
あの、せめて10連できる額まで待ってから引いたほうが! この調子なら2層も3層もいける……かもしれないですよ?
プレミアムガチャ10連ならSRが出るかもしれませんよ!?」
ガチャ妖精がガチャを拒むというのは自分の存在否定ではなかろうか……。
「ああ、ウェンズディ。君は何か勘違いをしているのだ」
「ほっ。そうですよね。さっきのは聞きまちが――」
「オレが求めているのは食料品ガチャだっ!」
「食料品!? ダンジョンのど真ん中でですか!?」
「ああそうだ。かまわん。やれ」
いま重要なのは、このガチャ妖精の仕様を理解すること。
そういう意味では1回100KPの食料品ガチャは試行回数を増やせるという意味で理に叶っているといえよう。
……それに、プレミアムガチャ回すのは嫌な予感しかしないし。
「え、いや……でも……」
「モンスターが来る前に早く! ハリーハリー!」
「ナバルさんがそこまで言うなら……。いでよ、ガチャフィールド!」
例のごとく、オレの足元からニョキニョキと光の格子が生えてきて、どのガチャを回すか選択を促してくる。
今回実施するのは、宣言通り食料品ガチャ!
パネルにはオススメURとして、食べるとステータスが2倍になる効果のある、めっちゃおいしそうな料理が並んでいる。
でもURなんて不運・ウェンズディには縁のない代物。気にしてもしかたない。
「ぽちっとな!」
食料品10連ガチャを押した瞬間、ガチャフィールドから空に向かって光が立ち昇り、すぐに光の球体が降りてくる。
ダンジョンの天井を突き抜けていくあたり、実態があるわけじゃなくてただのエフェクトなのかもしれない。
色は――青(N)が9つに紫(R)が1つ!
「や、やりました! Rです。Rですよ! 5年ぶりのRの光です! 綺麗な紫色です!」
「5年ぶり……だと……」
ちなみに食料品ガチャにおけるRの排出確率は20%。
……なんて不運なやつ。
だがしかぁし! オレにはまだやらねばならぬことがあるのだ!
喜ぶウェンズディを尻目に、
「さらにぽちっと! ぽちっと!」
食料品10連ガチャを連打!
「ちょ!? ナバルさん!? いったい何してるんですか!?」
「ウェンズディ。君はさっきこういったな? ほしいものが出るまで回す。それがガチャ道だと」
「確かに言いましたけど!?」
「だったら回しまくるしかなかろうもん、なのだぁぁぁっ!!!」
「が、ガチャは節度を守ってまわ……あばばばばば!」
ウェンズディが狂った!?
びくんびくんと痙攣しだすウェンズディ。
……そういえば聞いたことがある。
ガチャとは神の奇跡。すなわちガチャを回す際はガチャ妖精は神々と交信するのだと。
つまりこれは、一瞬のうちに試行回数が増えすぎてアクセス過多を引き起こしているのだろう。
たった一人がガチャ連打しただけでこんなふうになるなんて……きっと今まであまりカキンされていなかったのだろう。不憫なやつ。
それはともかく!
「アララララアァイ!」
「あばばばばばぁあ!」
ぽちぽちぽちぽちぽちちのち。
秒間10連打のガチャの嵐!
しょっぱいクッキー(N)、黒ずんだパン(N)。もずく酢(N)、炒めもやし(N)に虹色デロデロスープ(N)!
NNNNNN・・・・無限に続くノーマルレアの地獄!
でも、構わない。
さっき取得した40万KPをすべて食料品ガチャに注ぎ込む!!
試行回数は実に4000回!
その結果。
「お前、ほんとに不運だよな」
「あうあう」
R9個。あとの3991個全てN。まさかのURどころかSRすらもなし! まさに不運!
――だが、わかったことがある。
(こいつのガチャ。廃止アイテムや、過去の期間限定アイテムを含めたすべてのアイテムが出てきやがるぞ)
レア度が低いのが難点だけど、それはつまり……
「エギャアアア!!」
「ひぇ!? こんなところにドラゴンが!?」
ガチャの光エフェクトに誘われたのか、突然、曲がり角の向こうから現れたのは2階の階層ボス、蠢く地竜!
巨大なモグラのような生物で、適正レベルは21。
適正レベルぎりぎりでダンジョンに挑むパーティを全滅させることで有名なモンスターだ。
だが、オレは落ち着き払ってウェンズディの頭を撫でてやった。
「ふっ。慌てるなよブラッキー」
「だれが不運ですか!?」
ガチャアイテムはいったんガチャ・インベントリと呼ばれる異次元にあるポケットに格納される。
オレは落ち着いて、ある物体をガチャ・インベントリから実体化させた。
それを見て、ウェンディが「ギャーっ」と悲鳴を上げる。なぜなら――
「ナバルさん! こんなところで食料品なんて出してどうするんですか!?」
ウェンズディが騒ぐ間にも、地を這うようにこちらに迫ってくる蠢く地竜。
あの大きな涎まみれの口に噛みつかれれば初心者冒険者なんて即死に違いない。
オレは落ち着き払って右手を振り上げた。
「こうするんだよ。どらぁ!」
「エギャイ!?」
めぎぃ。
気合一閃。オレがソレで殴りつけると、蠢く地竜の顔面が陥没した。
「えええええっ!?」
蠢く地竜は何が起きたのかわからない様子でピクピクしていたが、やがて光の粒子となってオレのクエストカードに吸い込まれ、
『コングラッチェレーション。レベルが上がりました』
脳天気にレベルアップのアナウンスが流れた。