ハッピー・ゴー・アンラッキー
「ふんふんふーん。久しぶりの契約だー」
ウェンズディがオレの手の甲に、不思議な光で文様を描いていく。
これがガチャ妖精との契約というものらしい。
「よしよし。これで契約完了です!」
「じゃあさっそく」
「はい! スタートダッシュガチャですね! えい! 出でよ、ガチャフィールド!」
ウェンズディが元気よくぱちんと指を鳴らすと、オレの足元から光の粒子が立ちのぼる。
「お、おお!?」
次の瞬間、地面から枝が伸びるようにしてぶぁっと光の格子のようなものが出来上がり、オレの周囲を囲む。
おお! なんかSFっぽい!
「では、ガチャの種類を選んでくださいな!」
オレの肩に乗ったウェンズディが言う。
格子の中に浮かび上がるのは、色とりどりの光り輝くパネル。
それぞれ別の種類のガチャで、それぞれ『ピックアップガチャ』『プレミアムガチャ』『食料品ガチャ』など、種類が選択できるようになっている。
でも、
「ナニコレ」
オレは思わずつぶやいた。
なんか、いままで見てきたガチャと違う。
オレはガチャ童貞だけど、他者がガチャをしているところをさんざん見てきている。けど、このガチャフィールドはいままで見てきたどれと比べても違和感がある。
――ケバい。
なんというか1世代……いや、5世代くらい前の色彩感覚をしてる。
しかも作りが雑というか……。
あ。あそこにあるパネル、説明文に『プレイヤーがじゃぶじゃぶ課金したくなるような射幸心を煽りまくる説明文章』とか書いてるし。
「ふふふ。そんなに目を丸くしちゃって! これだからガチャ童貞は可愛いですねー」
違う。そうじゃない。
何を勘違いしたのか。言葉をなくしたオレに対し、ウェンズディは超上から目線。
蹴りつけてやりたい気分になったが、ここはぐっと我慢。
オレは、なんとしてもスタートダッシュガチャをせねばならないのだ!
たくさんあるパネルからスタートダッシュガチャを探す。
――あった。これだ!
『初心者限定! 無料! 10連スタートダッシュガチャ!』
「ふひひ」
思わず口元がにやけてしまう。
スタートダッシュガチャはいわゆるプレミアムガチャに相当する。
プレミアムガチャはその名の通り、1回10万KPの、まさにプレミアムなガチャだ。(基本的にKPは地球の価格に換算すると1KP=1円くらいと思っていい)
排出率は、SSR装備なら0.1%。UR装備に至っては0.01%。
この異世界で英雄と呼ばれる者は、ここでUR装備を手に入れていることが多い。
つまり、異世界転生者という特別な属性を持つオレにとってはUR装備の栄光は確約されたようなものといえよう!
それが異世界テンプレ! ビバ異世界!
「では気を取り直してぽちっとな!」
パネルの中の『ガチャ』の文字を押すと同時、ピカッとガチャフィールドから光があふれ、天に昇る。
そして神々しく降りて来たるは10個の青い光!
「これが……ガチャ!」
「青い光ばっかりでとってもきれいですね!」
「ああ、見事に青い光ばっかりだな」
「……」
「……」
知っているか。
アイテムのレア度は出てきたときの光の色でわかるんだ。
「ナニコレ」
NNNNNNNNNN。
「わーい。Nしかねーや。
っておい! スタートダッシュガチャはプレミアムガチャ相当だろうがよ! なんでNが出てくんだ!? 最低でもR保障でSR以上1個確定だろうが!!」
「そんなことわたしに聞かれてもわかりません! ふんすっ」
「なんで威張ってんだよ!? おめー以外に誰に聞けっつーんだ!? オーケー、こいつはバグだな? よし。詫びKPを神様に申請――」
「わーわー! やめてください! いまのわたしはペナルティを食らうと簡単に死んじゃうのです! コロっと逝きます。ナバルさんはそれでもいいんですか!?」
ああもう……。
餓死すると言われると少々可哀そうに思えるのは地球時代の価値観があるからか。
(とりあえず出たものを確認するか)
Nレアと言っても、たまには使える低レアアイテムだってあるし。
---ゲットしたアイテム---
・プロテイン……筋トレのお伴。摂取した日は攻撃力が上昇。
・プロテイン……同上。
・プロテイン……同上。
・プロテイン……同上。
・プロテイン……同上。
・プロテイン……同上。
・プロテイン……同上。
・プロテイン……同上。
・プロテイン……同上。
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「プロテインしかねえっ!?」
落ち着け、オレ。まだ最後の一個が残っている。たぶんプロテインだと思うけど。
・修復スプレー(N)……アイテムの耐久度を極小回復する
(――は?)
それを見た瞬間、オレは固まった。
そして周囲を見やる。
「あーあ。やっぱり不運のウェンズディだな」
「ナバル、ご愁傷様。いまからでも詫びKP申請してみたら?」
みんなはあきれ果てたようにため息をついていた。
(誰も気づいていないのか? この異常さに)
「ご、ごめんなさい。ナバルさん」
オレが呆然としている理由を勘違いしてしまったらしい。ウェンズディさえ申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
だが、オレは――。
「く、くくく……」
「な、ナバルさん? 大丈夫ですか!? もしかしてあまりにひどいガチャ結果に精神が壊れたとか!?」
オレは奥から湧き上がってくる歓喜をこらえながら、ウェンズディを思わず抱きしめた。
「ウェンズディ、お前は最高だ! これからもよろしくな!」
おまけに頬ずりまでしてやる。すりすりーっとな!
「ひぇぇぇ!? ほんとに壊れた! 神様! 神様! ヘルプコールはどうやるんでしたっけ!?」
オレがこの世界に転生してから15年。
筋肉トレーニングをしながら欠かさずしていたことがある。
それは過去のガチャアイテムの把握。
オレは現代人である故に知っている。
情報こそが力であることを。
そしてオレの持っている知識が正しければ――修復スプレーは200年前に廃止されたアイテムなのだ!
(現代では装備品の耐久度を回復するアイテムの名前は『耐久度回復スプレー』あるは『砥石』なのである)
つまりここから導き出される答えは――