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過去にこだわらない女

「なにこの子! すっごい可愛いんだけど!」


 オレたちが呆然とする中、嫌がるウェンズディにスリスリと頬ずりをするアルバコア。


「ぐ、ぐるしい……たゆんたゆんなおっぱいで窒息死してしまいます……。ナバルさん、へるぷみー!!」


「なんて羨ましいやつ……じゃない!

 やめたげて! おっぱいに顔を埋める役はオレがかわってやるから!」


「嫌よ」


 断言である。

 あ、ウェンズディの顔色が本気でひどいことになってきた。仕方ないね。犬猫というよりは、ぬいぐるみみたいな扱いだもんね。


 って……あかーん! このままじゃウェンズディが死んじゃう!


「そ、そうだ! お前、任務はどうしたよ!?」


 核心をついたオレの言葉に、アルバコアは「ふっ」と薄く笑って髪をかきあげた。


「あたしに課せられた使命は人間の抹殺。この娘はどう見ても人間じゃない。なのでセーフ!」


 ぎゅー。

 

「ぐえー!?」


「なにその判定。雑すぎない!?」


「でも、あんたは死んでもいいわよ。人間」


 アルバコアがオレに手のひらを向ける。

 その手に煌々(こうこう)と輝くはファンタジー世界全否定の、謎のSFエネルギー!

 

 ぷはっと胸から顔を離したウェンズディが叫ぶ。


「やめてください! その人を殺すとわたしが死んじゃいます!」


「なんと。じゃあ、やめる」


 バシュゥっと空に向けて放たれたビームは、分厚いはずのダンジョンの階層をぶち抜き、天井にもう一つ穴を開けた。

 穴の(ふち)がどろどろに溶けてて、すっごい熱そう。


「使命の比重、軽くないっ!? お前さんを作った科学者さんたち、草葉の影で泣いてるよ!?」


「ふっ。高性能戦略兵器であるあたしには、ある程度の自由作戦行動が認められているのよ!

 さすがわたしを作った人類よね。誰に自由を与えるべきかよくわかっているわ」


「お前が一番、自由を与えちゃならんやつだろうがぁっ!!!

 オーケー、わかった。古代文明が滅びた理由は『科学者がアホだったから』だ!」


「何よ。任務、任務って! そんなに任務が好きならあなたが任務と結婚しなさい! わたしにとって、任務とは――任務とは……! う……。頭が!」


 と、アルバコアが頭を抱えてうずくまった。

 オレはピーンと来た。これはあれだ。SFでよく見る、使命と自分の意思の間で板挟みになるやつだ!


 オレは腕組みをして勝ち誇った。


「ふははは。貴様もしょせんアンドロイド。創造主には逆らえなかったようだな!」


「なんで勝ち誇ってるんですか!?

 それ、逆らえなかったらナバルさんが死ぬやつですよ!?」


「ハッ!? そういえば! ……あの、アルバコアさん?」


 アルバコアはすくっと立ち上がると虚ろな目でオレを見た。

 その瞳には先程までの意思を感じさせる輝きはなく。


「アアア………任務!」


 叫ぶと、1歩、2歩とゆっくりとゾンビのように歩いてきて、


「ニンム。ニンム……。ワタシ、ワタシハコノホシのジンルイを……。まあ、いいや。えいっ」


 そして、頭から2枚のSDカードのようなものを抜き取ったかと思うと、ぽいっと地面に捨てた。

 さらに目から発射したレーザーで、びーっと焼き捨てる。


 たぶん、いまの記憶メモリ。


「ほああああああ?! 貴重な古代文明の記録がぁぁぁぁっ!?」


 オレは焼け焦げた地面をバンバンと叩いた。

 壊れたくらいなら修復スプレーで治せたかもしれないけど、完全に蒸発させやがった!


「おい、ポンコツぅぅっ! なんてことしやがる!?」


「イラッとしたからつい」


 ――やっちゃったZE。てへぺろー。


 過去、これほどまでに気軽なアンドロイドの葛藤(かっとう)解消方法があっただろうか。いやない。


 アルバコアは腕組みをして、どうだと言わんばかりに「ふんすっ」と鼻息を荒くした。


「だいたい、人工物の分際でこのあたしに干渉しようだなんて生意気なのよ!」


「お前も人工物だろうがぁっ!」


 と、そのときだった。


『コングラッチェレーション。レベルが上がりました』


「……は?」


 呆然と上を見上げると、ダンジョンにぽっかりと空いた穴から、オレのクエストカードに向かって金色の粒子が流れ込んできていた。

 たぶん、アルバコアの放ったビームが倒したモンスターの報酬だとおもうんだけど……


「え? もしかしてこれ(アルバコア)、オレの所有物扱いになってるの!?」


 確かにガチャアイテムの中には機械人形みたいのもあるって聞いたことはあるけど!

 そして、その場合は武器とかと同じ扱いとなって、KP(カキンポイント)や経験値が所有者のものとなるのだ。


「勘弁してくれ! 返品! クーリングオフさせて!」


『そのアイテムを廃棄するなんてとんでもない!』


「ナンデェ!?」


 クエストカードからの冷徹な通告にオレは絶望した。

 というのも、この異世界、所有物――ガチャで得た使い魔や召喚獣といった存在がやらかした事故は全部所有者の責任になるのだ。


 こんなフリーダム&デンジャラスな危険物がオレの所有物になるということは、すなわちオレの身の破滅なのである。


「おお、神よ! ウェンズディの不運だけでは我が人生の試練として足りぬとおっしゃるのか!? がっでむ!」


「わたしの存在、それ(アルバコア)と同レベルですか!?」

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