アパート
小野田たち三人は熊田氏の住所であるアパートに歩いて向かっていた。
「お、あれじゃねえのか?」根元の指さすほうを見ると陰気くさい建物が見えてきて、小野田の気分は沈んでいく。宿題が終わらないまま学校に向かう中学生のような心細さである。このような感情は他人と共有したくなるものだが、右には興奮した根元が、左には呑気な神山がいるだけである。確か、と小野田は思い出す。ネットの情報によるとこのアパートは自分のワンルームと広さや家賃がほとんど同じではなかったか。
なのにこの雰囲気の違いは何なのだろう。考え事をしながら進んでいると、そのアパートから髪の毛をそり、サングラスをかけて、黒いワイシャツに花柄のネクタイを締めた男が出てきた。このアパートがまき散らす不穏な空気はこいつが原因だったのか、と小野田は合点した。
アパートの6階につくと、根本がエレベータから飛び出し、902号室のインターホンを押した。
「小野田、俺らなんて名乗ればいいかな?」根元が小声で聞いてくる。自分で考えろ、と言いたくなるが、
「おかねトリオでいいんじゃないか?向こうもまだ覚えてるだろうし」と言った。
「おかねトリオでーす」根元が声を出すと、神山も「あのー、財布を返しににきたんですが」と言いながらポシェットからおずおずと財布をとりだしていた。
ガチャリと音がしてドアが開くと鼻から赤い血をたらした、痛々しい熊井氏の姿があった。