トリオ誕生
神山とともに小野田のワンルームに行った時のことだ。大学三年生である我々のもっぱらの話題は就活のことで、その日も当たり前のようにその話題になった。
「お前の彼女に就活のやり方を教えてもらう、てのはどうかな?」神山が小野田を指さしていった。小野田には大学時代から付き合っている彼女がいて、それは根元の高校時代の先輩なのだが、一流企業と呼ばれるような会社に就職していた。
「あーあ、イケメンはずるいよな、あんな美人の彼女を作れるなんて、準ミスだぞ、準ミス。それにお前みたいなイケメンは就活もうまくいくんだよ、だいたい」と、神山がいつものように無根拠な発言をした時、小野田が突然切り出した。
「でも、いくら就活で成功しても、イケメンであろうと億万長者になることはできないんだ。おれは億万長者になりたいんだ。それはお前らも一緒だろう?根元なんてことあるたびに金持ちになりたいだの、宝くじを買っただの言ってたじゃねかよ」「でも…」根元はなぜか焦って反論を試みたのだが、小野田にさえぎられた。「お前の言いたいことはわかってる。そんな簡単に金を稼ぐ方法なんてあるのかよ、ってことだろう?
もちろんあるんだ。例えば、神山が普段やってる方法とか」小野田は意味ありげに神山のことを見た。
「な、なんのことだよ」神山の顔が強張っていることは、鈍感な根元にも流石にわかった。
「教えてくれよ、スリってどうやるの?」小野田がさらに声を張り上げた。神山はもうあきらめたのか、
「いつから知ってたんだよ」と弱々しく聞いたが、小野田はそれに答えず、「まずは神山のスリを二人でアシストする、という形をとろう。いずれはもっと面白いことをやりたいけど、今はそれでもいいや、神山、それでいいよな。」神山がうなずいて、我々は犯罪集団としての第一歩をふみだすことになってしまった。
根元の意思は尊重されず、名前は俺が考えておくから、という小野田の一言で解散になった。
名前なんて付けるのかよ。