side:boy-03
部屋の前に着いたはいいが、チャイムを押す勇気が行方不明。怖気付いて部屋の前にずるりと座り込む。
建物の隙間から見える雲の流れが速すぎて明日は風が強いんだろうなと取り留めもないことを考えつつ言い訳を考える。
何も浮かばず、時間だけがすぎていく。
隙間から覗いていた月は反対側へと消えていった。
ちりん
背中越しの扉の中から鈴の音がなる。
初めて言ったテーマパークで、趣味じゃないと言う彼女を押し切ってお揃いで買ったうさぎのキーホルダーに付属していた鈴の音。
やっぱり、家にいた。
我ながら気持ち悪いがそんなものでも彼女が自分のものだと認識できる何かが欲しかったのだ。
それをまだ外されていないことに小さな希望が湧く。
扉が外開きだと言うことすら、忘れてしまうほどに。
ガッツン、と鈍い音を立ててほんの少しだけ空いていた背中に鉄の塊がぶつかる。
「えっ?」
「っつー…」
扉の角にえぐられた背中に悶絶しつつ扉に手をかけ引く。
「おっ?」
こんな時だと言うのに、随分と間抜けな声をあげて倒れ込んでくる彼女がやっぱり好きで、どうしようもない。そのまま、抱きしめれば彼女の体温が冷え切った体に伝わって少しだけ思考回路が復旧し始める。
「冷たっ…ちょっと、布すらこんな冷たいって…唇真っ青!バカ!離してよ。」
「イヤだ」
「…ここにずっといたら冷えるわ。とりあえず入って。」
動揺も収まったのか、冷たくもないけれどひどく無機質な声で彼女が俺に促す。
緩んだ腕から抜け出した彼女の後に続いて部屋の中に入った。