side:boy-02
繋がらない携帯は、とうとうコール音さえ鳴らさずに機械的なアナウンスに切り替わるようになった。
件名:RE:今までありがとうございました
『ちゃんと話しがしたい、説明くらいさせて』
バイトの最中はサイレントモードに切り替えるのは知っていたし、バイト先も知っていたから捕まえることぐらいできると思っていた。
まさか体調崩して早退してるなんて思いつきもしなかった。
昨日は何も言っていなかったし、つい一昨日会った時もむしろ溌剌としていたと言うのに。
単身女性向けのマンションは住人の部屋からエントランスのロックを開けてもらうタイプで、家のすぐ下まで来たと言うのに彼女の部屋番号が押せない。
押して、無言で切られたら?
いやそれどころか携帯にも出ないわけだから、居留守を使うだろう。
そう考えるだけで心臓が捻りあげられるようで、胃が竦み上る。
メール画面で件名からすぐの本文を見た瞬間を思い出し、呼吸が浅くなる。
あんな、温度のないメッセージは初めて送られた。
嘘だろと思いたかったが、画面の文字は変わることはなかったし開いた先の添付画像は女の子を抱きしめる男の姿。
これが自分でさえなければ明らかに浮気現場だ。
見られていたとは思わなかった。
いや、見られたとしてもちゃんと説明すればいいなんてなんて都合がいいことを考えてたんだろう。
彼女の幼馴染だと言う女友達にすら嫉妬して、誕生日の夜にわざわざ自分と二人きりになるようにして、彼女が発表会で男と組む姿すら見たくないとなんだかんだと理由をつけて行きもしなかった言うのに。
自分は何をした?
今まで許されたからと、これからも許されると、胡座をかいた。
その結果フられ掛けている。
いや、まだフられていないと悪あがきしているだけで、彼女からは別れようと言われているわけだ。
他人事なら笑えもするが、我がこととなると血の気が引く。
中から社会人らしき住人が出て来たときには何も考えずに中に入り込んだ。
すれ違い様に微笑んで会釈すれば不信にも思われないことは理解している。自分の外見の有利性でさえ利用してしまうほど焦っていた。