side:girl-02
見慣れた自分の部屋の天井を見つめて、長い長いため息を吐き出す。
あの後のバイトは散々だった。
オーダーはミスるし、洗い物すれば手が滑ってシンクの中身を全滅させる。
その上、しゃがんだ直後の立ちくらみからの貧血。
自分ではもっと強いつもりだったと言うのに。
自覚している以上に精神的なダメージは大きかったらしい。
予定では6時間のバイトを2時間で早退してしまった。
「可愛らしい子だったな…」
考えたくなんかないのに、どうしても考えてしまう。
小柄で華奢で、顔も小さくてお化粧綺麗にして、髪の毛先までツヤツヤ。
慣れないパーマを無理して当てて、維持出来ずに一つに結んでごまかして、家事を優先しているから手も荒れ放題。化粧なんか最低限の社会性と日焼け止めレベルだし、身長も高めだからヒールなんて履いたらそこらの男と肩が並んじゃう。
口も達者だから少々のことは自分で対処できてしまう私なんかとは正反対。
私が男だったとしても、ああ言う子の方が良いだろう。
それに、彼氏は優柔不断のお人好しだ。
今までだって、私の誕生日に彼の姉が体調崩しただとか、私の発表会に後輩のチームの試合で欠員が出たとか散々な理由でドタキャンを食らってきた。
優しい彼氏で羨ましい、だなんて言葉をよく言われるが、彼は私にだけは優しくない。
考えてみれば、どうしてここまでされて付き合い続けてきたのかわからなくなってしまう。
「ははっ、今更気付いちゃった。」
きっと、愛されてなんかなかったんだ。
私の独りよがりな感情だけがあって、その中でどうにか踏ん張ってきたけれど、それももう終わり。
カバンの中でサイレントモードにしたままの携帯だけが音もなく光って、残量がわずかだったこともあり電池が切れた。