side:boy-06
優柔不断男の情けなさが炸裂します。
携帯を開いて、日付と時間を確認する。
1日経ったところで、何も現実は変わらない。綺麗にフられて、縋った所で泣く彼女に何も言えなくなって、女々しく想いだけ押し付けてフラフラと帰って。その辺りから記憶があやふやだった。
あんな風に泣くのなんて、初めて見た。
映画やテレビなんかで感動して泣くのなら見たことはあったけど、あんな風にボロボロに傷ついて泣く彼女を想像したこともなかった。
どこで間違えた、とか、考えるまでもない。好きになった時に気づいてたはずなのに。誰より優しくて、気遣い屋のくせして、行き過ぎて相手が気にしないようにサバサバとした態度で隠してる彼女のヤワさ。
ずっと優しさに胡座をかいていたことだけじゃない。
いつ、忘れたんだろう?
誰より強く見せている彼女の手を取りたいと思っていたのに。
いつ、しょうがないなと笑って隣にいた彼女の姿がなくなったんだろう?
思い出せない。
学生の本分は精神ダメージなんか関係なく全うするべきもので、単位は早めに取りたいこともあって休まず登校しはしたものの。
茫然と受ける授業に実りがあるはずもなく、研究科目については班の中で勝手に進む会話に参加することもなく。
気づけばただ全ての講義が終わっていた。
「おい、王子サマよ、あいつと別れたって話だけど。」
だるい体を引きずって帰り着いた家に、なぜか入り浸っている腐れ縁の幼馴染は無遠慮に傷口をえぐってきた。
「…なんで知ってるわけ」
「うわ、マジだった…。それでお前、そんなシケた面してるわけ。」
「失恋して落ち込んだら悪いか。」
「いや、むしろ彼女サンよく持ったと俺は思うけどね。」
「分かってる…俺が悪いんだろ。」
「は、不貞腐れてるけど、被害者ヅラにしか見えないね。お前が悪い、それはもうお前が自覚してる以上に。」
「…何がわかるってんだよ!!」
肩から下げたカバンをやつの真横に投げつけるが、全く避けようともせず、動じない。もちろん当てるつもりなんてかけらもなかったけれど、それはそれで腹立たしくてたまらない。
睨んだ所でこの幼馴染は肩をすくめるだけだった。
「こっちの彼女がお前の彼女サンと仲が良くてねぇ。王子シネってよ。」
「…あぁ、俺もそう思ってるよ、奇遇だな。」
彼女を傷つけた俺のことを考えると自己嫌悪しか湧かない。
「おやおや、みんなの王子様がヤサグレてますなぁ。」
「…人に優しくしろって言われて育ったけど、そうできない時だってある。」
「優しく…なぁ。お前のそれはただの優柔不断だろ。いつまで履き違えてんだよ。」
「な」
「それだけじゃないよな、結局はカッコつけだろ。下手な嫉妬を隠すために無様な嘘で塗り固めて、そんなんだからフられんだ。」
「ッ!」
カッと頭に血がのぼる。顔と耳が熱くて喉が詰まる。腹が立った。腹が立って立って立って仕方がない、のは
それが事実でしかないからだ。
「仕方ないだろ、そう言う俺なんだ。」
「それってただの逃げだよな。」
「何」
「そうやって自己憐憫に酔ってんの?お前は彼女のことでヤキモチ焼くけど自分の行動は仕方ないですー、のツケが今なんだろ。」
「そんなの分かってる」
「それともフられて仕方ないですって言う諦めモード?」
「そんなわけないだろ!諦められるかよ…!」
ポカンとした表情で幼馴染が固まった。
「何だよ、その顔」
「いや…どうせ王子様の事だから、『その方が彼女のためだから〜』とか薄ら寒いこと言うかと思ってたから」
そういえば、今まで付き合って同じような理由でふられた女の子にはそう思っていた気がする。薄ら寒い…結構な言われようだ。
でも、ダメだ。今回はそう思えない。別れて、誰か自分以外の男が彼女の隣に立つなんて考えるだけでーー耐えられない。
俺だけが、俺がどれほど彼女に対して執念深く、嫉妬深いかを知っている。
諦められるはずもないし、まだ諦める気もない。
それなのに、彼女の泣き顔が浮かんで身動きが取れないのだから。