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空き地のパティスリー  作者: 佐々木春臣
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神社のパティスリー

雪が降っている。

まだ2月で寒いが、バスに乗らなかったのを弥生は後悔しなかった。

「綺麗だな…。」


今日の雪は特別に綺麗な気がする。もっと雪を見たくて、歩道橋に上ればもっと雪と空に近づく気がして、予定があるのにのについ遠回りをしてしまった。

まだ小さい頃に絵本で舞い落ちた雪が妖精になるという話を読んだのを弥生はぼんやり思い出す。


「……。」

早くしないとピアノの教室に遅れる。4歳から続けてきたピアノは15歳になった今では生活の一部となっている。学校帰りに教室に寄るのも習慣になってしまった。

その習慣は今日で終わる。


先生に会えなくなる。



高校進学と同時に長野に引っ越すのは、弥生自身がその全寮制の高校を選んだからだ。友達と行った文化祭で聞いた吹奏楽部の演奏に感動して塾で必死に勉強したのも、推薦枠で合格し飛び跳ねるほど嬉しかったのも決して嘘ではない。


私の自慢の先生、歌もギターも上手い先生、一緒に発表会でのお辞儀の練習をした先生、架空請求に本気で怯える先生、男の人なのに甘党で美味しいお菓子が手に入るとこっそりあとでくれる先生、毎週ピアノを教えてくれた先生……

誰よりも大好きな先生。

目だけが熱い。

最後に会う今日がバレンタインなんておあつらえ向きだ。今年のチョコレートはとびきり良いものをと思い、奮発してみた。

が、準備するのが早すぎて2日前に賞味期限が切れていた。昨日になってそれに気づきデパートに走ったが、結局ありきたりなものになってしまった。きっと自分は今、死人のような顔になっているのではないか。

「…そういえばあのモッサリ系の高校生は塾辞めたのかな…?」

また一つ思い出す。

あの塾の高校生コースの男子高校生がどうして辞めていったのかを弥生は知らない。


雪の中歩いたせいで靴下が濡れている。

近くに小さい神社があったのを思い付いて、路地に入る。

しかし、弥生が神社で靴下を履き替える事はできなかった。


その場所には神社はなく、鳥居もなく、小さな洋菓子店が佇んでいた。

なんとなく気後れしてしまいガラス越しに中をうかがうと一人の客がショーケースの中身を見ながらパティシエらしき男性と話している。

その客がふと外に目をやり、弥生と目が合う。

全身が火照って熱くなる。



私の大好きな先生。


弥生は突進するように店へと入る。












昔行ってたピアノ教室の先生をもとにしました。

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