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空き地のパティスリー  作者: 佐々木春臣
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空き地のパティスリー 後編

目の前の小さな建物に智也は思わず二度見してしまった。中からは照明のオレンジ色の光が漏れている。

「昨日は絶対に無かった。」

そんなことは分かっているのに、気付くと智也は吸い寄せられるようにその店の扉を開けてしまっていた。

扉を開けてから智也は後悔した。

今日は財布には500円も入っていない。なのに甘いにおいにつられて思わず店に入ってしまった。

後悔しているのに智也はケースに入っている菓子の美しさに息を飲んだ。様々なプチガトーにショコラ、シュークリーム、今日のおすすめと書かれたケースにはカヌレが並んでいる。

この店の主は、手間を惜しまないような人物なのでは?と勝手に妄想した。でなければ菓子の一つ一つをこんなに輝かせるなんてできるはずがない。

町のケーキ屋さんよりもはるかに格が上だ。なのにこの空間は自分の部屋のように心が落ち着く。



「いらっしゃいませ。」


低い声に智也ははっと我に返る。この店の主らしき初老の男性が微笑みながら智也を見ている。

顔から火が出そうだ。夢中で見入ってて全く気づかなかった。

男性は智也の顔を見て少し驚いたような顔をした。が、すぐにさっきの微笑みを戻して話す。

「何をお求めですか?」


智也がお金をほとんど持っていないことや自分もパティシエ志望ということ、だけど諦めようと思っていることをぽつりぽつりと話すと男性は表情を崩さないまま、聞いてくれた。

「そうなのかい、でもお菓子作るの好きなんだろう?」

「はい。」

「初めて作ったお菓子は何かな?」

「多分、ホットケーキ。昔すぎてよく覚えてないけど…。」

数秒の沈黙を置いて、男性は奥のキッチンへと行き、何かを持って戻ってきた。

皿に載っていたのはホットケーキだ。

満月のようにまんまるでバターと蜂蜜がかかっていた。

促されて一口食べたその時、







「あれ?」


智也は空き地で眠っていた。

辺りはもう真っ暗だ。

あのパティスリーはない。

あれは全部夢だったのかは智也本人にもよく分からない。でも胃のあたりが温かくて、うんざりはもう消えていた。きっとこれから家に帰れば両親に叱られるだろうが、そんなのもう気にしない。正直になれる気がする。

昨日よりは前に進めるはずだ。


空き地をもう一度振り返るが、やはり空き地はなにもない空き地のまま。

家に帰る智也をまんまるの満月が照らしている。







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