――――――――――
携帯電話のバイブレーション音で目を覚ました。ぼんやりとした意識のまま音の発生源に手を伸ばし、通話ボタンを押す。
「もしもしー? 京太?」
「母さん?」声がかすれていた。
「寝てた?」
「うん」
「そっか。ごめんごめん」
「いや、なんかあった?」
「ううん。昨日メールの返事がなかったからちょっと心配になっただけ」
「あぁ、ごめん、忘れてた」
「うん。それじゃあね。夕方ぐらいには帰るから」
「うん。じゃあ」
電源ボタンを押して通話を終える。時間を確認すると朝の十時だった。十時間弱眠った。やっぱり彼女と会ってから気持ち悪いくらい眠れるように――――。
彼女は?
部屋を見回す。姿はない。
浴室、トイレ。いない。
玄関の靴もなくなっているが鍵は閉まっていた。
リビングに戻ってカーテンを開く。庭にも姿がない。
自分一人を消したのか? どうして。
部屋中のカーテンを開けていく。家の裏にもいない。そもそも玄関の鍵が閉まっていたんだ。外に出たはずがない。そう考えながらカーテンを開き、見つけた。
窓の鍵が開いている。
ここから出たのか? 大きな窓ではないとはいえ、彼女の体型ならまず間違いなく出入り可能だ。
でも。昨日、換気のために窓を開けた時、僕は果たして全ての鍵をしっかり閉めただろうか。もしかしたらその時から開けっぱなしだっただけなのでは――――。
いや、そんなことはどうでもいい。
現時点で確定しているのは、彼女は僕を消さずに姿を消した。
それだけだ。
『人を殺す人と自殺する人。どっちが死ぬべきだと思う?』
そんな問いが脳裏をよぎった。
僕は両者だと答えた。
彼女は、どう考えていたのだろう。