ダブルライフ。
初めましての方ははじめまして。
やまけんと申します。
ふと思うことがありこの短編小説の設定を思いつき筆を走らせました。
是非ご覧ください。
僕の彼女が死んだ。
歩道を歩いていた僕らの元へ酒を飲んで運転していた車が突っ込んで僕の彼女の命をさらって行った。
そこへ、会社帰りのような姿をした男がやって来て僕の目の前に立ち淡々と喋り出した。
「あなたの記憶からパートナーのデータを消去して生き返らせるか、パートナーの記憶からあなたのデータを消去して生き返せるかーー
「ちょ、ちょっと待ってくれ、お前は一体……」
僕は明らかに動揺していた。
いきなりやって来て生き返らせるなどと言い出しているのだからそれも当然か、しかし今の僕ではいや、普段の僕でも理解はできないだろう。
そんな僕の質問に答えることなく男は続けてこう言った。
「先程言った選択肢かまたは、あなたの命をパートナーに移動させるかをお選びください。期限は1週間です。」
となりで血を流し倒れている彼女を横目に黒服の男は表情を変えずに僕に問いかけた。
ここは二重生命法が可決された遠い未来のお話。
「ムカつくぐらい快晴だな。」
「それってどういうこと?」
8月、僕らは補習の為に学校へ向かっていた。
空には雲一つない快晴だった。
「こんな日に学校に行くんだぜ?ムカつくだろ?」
「そんなんだったらいっつもムカついてるじゃん。カルシウムが足りておらぬな。」
彼女は歩道側、僕は車道側をいつも歩いている。
交通量の多い大通りを通るため必然的にこうなった。
「あー…なんでこんなクソ暑い日に学校なんだ?」
「そりゃあ、テストで赤点取ればそうなるわよ。私もだけど。」
彼女は呆れ顔でそう返した。
こんな会話をしながらいつも学校に通っている。
僕らが通っている星光高校通称『ぼしこう』は市内の中ではかなりトップクラスの進学校だ。
クラスも
特待生や成績優秀者が入るAクラス
部活動などで活躍している者が入るBクラス
いわば落ちこぼれクラス我こそがCクラス
の3つに分かれている。
僕はCクラスそして、彼女はBクラスになっている。
「部活動しか脳がないBクラスと奇跡のCクラスだからなー、当たり前か」
「ちょっと、ひどくない?なにより奇跡のCクラスって何よ。」
「この学校に入れた事が奇跡」
「あー、納得」
家を出て数十分、僕らが通う星光高校についた。
そこで待っていたのは太陽よりも暑い
「お前らぁ!2分遅刻だぞ!」
先生の叫び声だった。
「おはよー」
補習の時はすべてクラスが合同で行うため、見たことない奴もチラホラいるが大体はCクラスの為大体は顔見知りだった。
「よっす!お前らも補習かぁ!さすがバカップル!」
こいつはCクラスのクラスメイト。
中学の頃から同じ部活で話も合うことからここまで付き合いが長くなった。
「うるせぇな。お互い様だろ。」
「俺には彼女はいねぇっつーの…。」
クラスメイトを笑っていると補習開始のチャイムが鳴った。
あたりがオレンジ色に染まる頃、補習が終わった。
「じゃあな、バカップル!」
「はいはい、じゃあな。」
「バイバーイ!」
僕らはクラスメイトと別れ朝来た道を歩いていた。
「ねぇ、明日休みだしどっか行こうよ!」
「えぇ…まぁ、いいけどさ。人が多いところは勘弁してくれよ、苦手だし。」
「わかっておりますともー!」
明日のデートの約束をし内心楽しみにしている僕は少し浮かれていた。
あたりがオレンジ色から薄暗くなった頃、大通りを抜け交通量の少ない分かれ道についた。
「ではでは、私めはこちらなのでー。」
「いっつも言うけどわかってるから。また明日な。」
「うん!明日ね!」
彼女は右、僕は左に曲がっていった。
地面にトマトを投げつけたかのような不快な音が僕の耳に入ってきた。
音の方向的に彼女が曲がった右の道から聞こえてきた。
僕は頭の中で思うよりも早く右の道へ走っていた。
そこに広がる景色はまるで地獄絵図。
赤く染まった電柱に軽自動車がぶつかっており運転席は原型がなかった。
ぷちぷちとなにかが潰れていく音が僕の脳内に鳴り響く。
下に目をやるとブレーキ痕がありそれも赤く染まりあがっていた。
赤いブレーキ痕を辿るとそこにはーー
彼女がいた。
正確には彼女だった物があった。
彼女がいつも履いていた靴下と靴を履いた足だけが転がっていた。
「嘘・・・だろ?」
これは悪い夢だ。
悪夢だ。
早くこんな夢から目覚めたい。
僕は目を強く瞑ってから目を開いたが景色は変わらなかった。
ぐちゃりとその場に座り込む僕。
その時後ろから革靴を履いた足音が聞こえた。
僕は後ろを振り返った。
そこには、会社帰りのような姿をした黒服の男が立っていた。
僕はその人に無意識的に助けを求めようとした時、男は淡々と喋り出した。
「あなたの記憶からパートナーのデータを消去して生き返らせるか、パートナーの記憶からあなたのデータを消去して生き返せるかーー
僕の口が開く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、お前は一体・・・。」
僕は明らかに動揺していた。
いきなりやって来て生き返らせるなどと言い出しているのだからそれも当然か、しかし今の僕ではいや、普段の僕でも理解はできないだろう。
そんな僕の質問に答えることなく男は続けてこう言った。
「先程言った選択肢かまたは、あなたの命をパートナーに移動させるかをお選びください。期限は1週間です。」
となりの彼女だった物を横目に黒服の男は表情を変えずに僕に問いかけた。
「何を言っているんだ。ふざけてるのか?」
僕は男の胸ぐらを掴んだ。
「目の前の景色が見えねぇのか?これを見ても冗談が言えるのか?」
男は僕の手を振り払わずにまた話し出した。
「目の前にはあなたの彼女が広がっています。彼女は先程死亡が確認されました。」
僕には喧嘩を売っているようにしか聞こえなかった。
気づいた時にはもう男の顔へ拳が行っていた。
が、男は顔をひとつも動かさずに話を続けた。
「死亡が確認されましたのであなたにお伺いに来たのです。貴方が消えるか彼女が消えるのかを、ですから落ち着いてください。」
化物だ。僕は直感的にそう感じた。
そう感じた直後疑問が湧いてきた。
「生き返らせるってどういう事だよ。貴方が消えるか彼女が消えるかってどういう事だよ。」
男は初めてこちらの質問に答えた。
「国は二重生命法という法案を可決いたしました。この法案は亡くなった方の記憶・体型・性格などをそのままに1度まで蘇生させるというものです。詳しくは蘇生ではなく、記憶・体型・性格などを引き継いだクローンなんですけどね。」
男は表情を変えずに続けてこう言った。
「しかし、このクローンを受け取るには1つ条件がございます。それがこちらです。」
男はある紙をこちらに渡してきた。
契約書
□パートナーの記憶から自分のデータを削除し、パートナーのクローンを受け取る。
□自分の記憶からパートナーのデータを削除し、パートナーからクローンを受け取る。
□自分の命をパートナーに引き継ぐ。※1
上記の条件を承諾しますか?
□はい
□いいえ
又、死亡後1週間までは自動的にクローンはパートナーの代わりを務めます。
※1この場合ご自身は死亡致しますのでご注意ください。
「クローン・・・?」
明らかに脳内での処理が追いついていない。
彼女が目の前で死んでいる。
生き返る?クローン?
ただ一つ理解したことがあった。
「とりあえず彼女は死んだんだな・・・?」
「はい。それはまぁ見事に。」
またぶん殴りそうになったがとりあえず冷静になることが先決だった。
大きく息を吸いそして吐いた。
「とりあえず、考えさせてくれ・・・頭が追いつかないんだ・・・。」
「わかりました。しかし、今日からクローンのテスト起動が始まります。」
「・・・は?」
「契約書をご覧下さい。」
僕は契約書を改めて見た。
確かに下の方に書いてあった。
僕が口を開く前に男は口を開いた。
「彼女の死はあなたが答えを決めるまで隠す必要がございます。その間彼女の代役をクローンが務めるということです。その期間は記憶などに変化はございません。」
男はそういうとカバンを開けある液体を流し始めた。
「おい!なにをしてるんだ!」
僕はその液体に触れようとしたその瞬間
「触ると消えますよ。」
男はそう言った。
続けて
「言ったでしょう、答えを決めるまで隠す必要があると。死体や証拠物品はすべて消去させていただきます。」
「や、やめろ!彼女が!彼女が!」
僕は仮にも彼女が消えるのが嫌だった。
彼女だった物を守ろうとした時にはもう
それはなかった。
「では、1週間後また来ます。」
男はそういうと足早に去っていった。
僕はまたその場に座り込んだ。
座り込んだまま立ち上がる事もそして動くことも出来なかった。
何時間たっただろう。
あたりは既に暗くなっていた。
流す涙は既に枯れていた。
とりあえず戻ろうと思い、僕は体を動かした。
そして、フラフラと家へ向かった。
家には僕しか住んでおらず明かりはついていない。
家の鍵を開け、自分の部屋へ向かった。
荷物を置きベッドに寝転んだ。
もう考えることすら辛かった。
彼女の顔が脳裏から離れない。
あの時の景色や音、香りや色がぐるぐると脳内を巡っている。
そして、男の言っていることを整理し始めた。
クローン
記憶が消える
彼女は死んだ
いろんな単語が並んだ。
整理しているうちにあたりはまた日に包まれた。
家にチャイムが鳴り響く。
僕は出る気力もなくそれを無視した。
携帯の着信音がなる。
この着信音は彼女だ。
僕は携帯を取った。
メールだった。
差出人:彼女
件名:忘れてない?
本文
ちょっと!デートの約束忘れてない?
体調でも悪いの?連絡ください。
僕は急いで返信したが、その途中昨日の男の言っていたことを思い出した。
「彼女の死はあなたが答えを決めるまで隠す必要がございます。その間彼女の代役をクローンが務めるということです。その期間は記憶などに変化はございません。」
そうか・・・。
そういうことか・・・。
そう思った僕は何故か笑っていた。
気が狂った、まさにその一言だった。
1週間僕は考えた。
食事も水分も取らず、
学校からの連絡やクローンの連絡にも反応せずに僕は考えた。
「今までありがとう」
僕にしか聞こえない言葉を僕は発した。
そして、約束の1週間後
男が言う。
「よろしいのですね?」
僕は頷く。
「かしこまりました。この契約書は只今より有効となります。又、この契約書により矛盾が生じた場合訂正されますのでご注意ください。」
そう言って男はーー
9月
「おはよー!」
私は星光高校のBクラス。
部活動しか脳がないと言われているがそれも仕方が無い。
夏の大会も終わり、今月から私たちが部活を引っ張るのだ。
教室の扉が開く。
「えー。うちの生徒まぁ、Cクラスなんだが1人、昨日死体が発見された。」
クラスがざわめく。
クラスメイトが亡くなった名前を尋ねる。
私はその名前を聞いたことがなく実感がわかなかったが、仮にも人が亡くなっているので少しさみしい気分にはなった。
この話題は今朝ニュースにもなったらしく、ほかの生徒が噂をしていた。
「なんか一か月ぐらい飲まず食わずだったみたいだよ。」
「えー、なにそれ」
「なんか部屋には遺書があったみたいで『今までありがとう』ってあったんだってー。」
「家族へとか?」
「それが親御さんいなかったみたい。」
「えー、可哀想ー。」
そんな噂話に耳を傾けていると
「静かに。なので今から黙祷があるからなー。」
そして黙祷が行われた。
「とりあえず授業はあるから。号令。」
号令係が号令をかける。
こうしてまた一日が過ぎていく。
契約書
☑パートナーの記憶から自分のデータを削除し、パートナーのクローンを受け取る。
□自分の記憶からパートナーのデータを削除し、パートナーからクローンを受け取る。
□自分の命をパートナーに引き継ぐ。※1
上記の条件を承諾しますか?
□はい
□いいえ
又、死亡後1週間までは自動的にクローンはパートナーの代わりを務めます。
※1この場合ご自身は死亡致しますのでご注意ください。
「被験者No.1のパートナーが死亡いたしました。死因は精神病による拒食症です。」
「あいよー。ご苦労さん。」
このエンドをbadと捉えるかgoodと捉えるかは読んだ方自身で決めて欲しいなと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。