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深鋭のエクスタリアス  作者: 高城連乃助
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第八話

 一直線上に開いた穴の先にある壁に背中を付けながらうな垂れる姿をしていた音崎の指がピクッと動き、顔を上げる。ポケットから煙草を取り出して火を点けると天井に向かってふーっと白い煙を吐き、

「知らねえ間に『強く』なりやがって。・・・よいしょっと。」

 ゆっくりと立ち上がり、体についた砂埃を叩きながらフッ飛ばしてもらう前の場所まで戻るとそこにはもう誰もいなかった。

 沢山の戦場を経験してきた音崎であれどウインドゲートと名乗った青年、特に『左目の能力(エクスタリアス)』を使う姿には、ただただ驚いた。お互い本気は出していなかっただろう。ならば本気を出した彼はどれほどの強さなのかと考えずにはいられない、そして、音崎をフッ飛ばした後で去り際に放った彼の言葉が甦ってくる。

『シュロスセトラルド総帥、氷山更四郎(ひやまこうしろう)が目指す世界はどれほどの時間を費やしても実現はしませんよ。』

 氷山更四朗が目指す永遠に続く平和な世界は、ありとあらゆる生き物が暮らすこの世界では実現が不可能だと思われていた。しかし、彼が就いた3年後に締結された『平和協定』と彼が持つ『能力』によって世界は少しずつ落ち着きを見せ始めていた。当初、その能力の凄さを認めようとはしなかった人が多かったが、今は認めないという人の方が珍しいと思われるほどだ。

「先が見える人生って。、生きていて楽しいもんかね。」

 独り言を言ったつもりだったが、

「それは、人によって違うんじゃないかな。」

「うおっ・・・びっくりした。山井博士、どうしてここに?」

「いつもは感じられない能力の反応があった、という連絡を貰ったんだが、着くのが少し遅かったみたいだね。」

 山井博士は丸眼鏡越しに何もかも下へ落してしまいそうなたれ目で穴の方を見ながら、

「結構、大暴れしたみたいだね。」

「その質問に答える前に教えてください。誰がここの事を博士に?」 

こちらに、向きなおる山井博士はニコニコしたまま、

「僕に情報をくれたのは・・・『Wig(ウィグ)』のメンバーさ。」

 音崎は加えていた煙草を落としそうになった。世界的な情報収集集団『Wig』は自分たちの持っている情報を公開したがらない性質がある。その奴らがなんて考えていると、

「さて、今度は君が答える番だね。この穴は一体何によって出来たのかね?」

 音崎は顔を逸らしながら、

「左目に能力がある奴と手合わせをしたんですよ。」

「ほう?それは実に興味深い話だね。詳しく聞かせてもらえるかい?」

「えぇ、もちろん。」

ニコニコ顔を崩さない山井博士の顔には、何か企みがあるのではといつも思いながらも、音崎は話し始めた。


 うんうんと頷いていた山井博士は顔を上げながら、

「君の話から考えられることは二つ。一つはもともと彼の中にあった能力が文字通り何らかの形で目を覚ました。もう一つは・・・。」

「誰かが、ヤマトに力を与えた。」

「その通りだ。現実的なのは後者の方だね。仮に前者であるという事が判ってしまえば恐らく正規の大発見になるだろうし、今まで考えられてきた理論や説が全て覆ってしまうんだからね。」

「確かにな。普通俺たちは皆手に能力を持っている。それ以外は聞いたことがねえ。」

「実はここに来る途中で奇妙な実験成果を聞いてきたんだ。それは能力を他の人に渡すことが出来るかもしれない、という事でね。さっき僕が現実的だと言ったのはそういう事だ。でも、これはまだ遺伝子上の話、つまりはクーロン技術の一端でしかないために。」

「ヤマトの能力を証明したとは言えない。」

「さよう。しかし、表には出てないけど実は既にその技術は実現しているという噂もあるんだ。例えば、左手を失った能力者が移植によって能力を取り戻した、なんてね。」

「俺が見た限りでは、ヤマトの腕は本物に見えたけど、距離はあったしな。」

「どうかね。少し考えるだけでもワクワクしただろう?」

「あぁ、すごく気になる話だな。」

「そうだろ、そうだろ。」

万弁の笑みを浮かべる山井博士に対して、

「けど、調べたいとは思わねえな。」

「おや、どうして?君の事だから率先して調べると言い出すと思ったんだがね。」

「まず、そういう複雑な面倒事は苦手で、仕事も増やしたくねえ。何よりそういう事を調べられたら困る連中もいるんじゃねぇか?例えば博士を含めた『上』の連中とかな。」

「信じてもらえないかもしれないけど、今回に限って僕は何も聞かされていなくてね。だから君の話を聞いて本当に驚いているんだ。」

「なら、これからは信じてもらえるように努力していくしかないだろ、お互いにな。」

「おや?君でも誰かに疑われる事があるのかい?」

「あぁ、前に俺の事を信じているかって聞いたら、信じてるって言ってくれたけど心の奥ではそうじゃないって分かって、ショックだったよ。」

その時を思い出して影を作る音崎を山井博士は意外なものを見る目でこちらを見ていた。


「君でもショックを受けることがあるんだね。」

「おい。それは、どういう意味だよ。」

「そのままさ。僕だけじゃない、この先君を知っていく人達の目には歴戦の勇士だと、君の姿が映るんだからね。そんな君がちょっとした言動にに振り回されている姿なんて想像しないんじゃないかな?」

 すると、音崎は煙を遠くに飛ばすように吐くと、

「歴戦の勇士か。一度しかねえ人生をそんなものに費やして、・・・何の意味があるんだろうな。戦って、奪い合って、殺して、泣いて。結局最後には食いしか残らねえって分かってんのにな。」

「その答えを見つける為に、それを知る為には戦うしかないんじゃないのかな?」

 音崎はもう一度、沢山の煙を吐いて、

「どうだかな。けど、俺にはそういう気持ちを持ったことがあるよ。戦いになった時、自分がどこまでやれるのか、能力は何のためにあるのかって思ったりしてな。」

 其の言葉を言った時、ある場面を思い出した。能力使用アリでペイント弾を使った一対一形式の訓練共感をしていた時の事だ。各々が能力を駆使しながら攻防を繰り広げる中、凍子が一切能力を使わずに三人連続で撃破してみせた。最後にやられたケントが、

「能力を使わずに勝つなんて、さすがだな。」

「お互いにね。」

 ツンと顔を逸らせてから凍子は去って行くのを見てからケントの隣に海月が並ぶ、

「やっぱり、凍子は強いわね。」

「そうだな。」

「けど、何でちょっと怒ってたのかな。」

 その質問の答えを海月とは反対側に並んだナイトが答える

「それは、ケントが本気で戦ってなかったからだよ。」

「何言ってんだよ。俺は本気だったぞ。」

「嘘つけ!いつもはタイムアップギリギリまでやってるくせに、さっきは五分くらいで終わらせてるじゃねえか。誰が相手でもちゃんと戦え、コノヤロー!」

 ナイトは左腕でケントの首を巻いて右の拳でグリグリと頭を押す。

 楽しそうな三人の姿を見て、何やってんだかと思いながら音崎が一足先に訓練場を出ると、凍子が待っていた。

「どうした・・・。」

「音崎教官。お聞きしたい事があります。」


 全員を訓練場から追い出して、音崎と凍子は室内で最も遠い場所へと移動し、近くの大きな石にそれぞれ腰掛ける。

「っで、聞きたい事って?」

 凍子は少し俯きながら、

「先ほどの訓練、私も能力を使った方が良かったのでしょうか。」

「いや別に。必ず使えとは言ってねえし、結果的にお前は三戦三勝してるじゃねえか。何が不満なんだ?」

 凍子は顔をあげずに、

「前に教官は私たちに『実技訓練は本当の戦闘だと思ってやれ』と言いました。」

「あぁ。言ったな。」

「なら私も、能力を使うべきだったのではないかと思うんです。」

「なるほどな。」

 音崎は凍子の能力を知っている。凍子が能力を使いたがらない理由やキッカケも知っている。音崎は凍子の能力の恐ろしさを誰よりも理解しているつもりだ。だからこそ、音崎は問いたくなった。

「お前にとって、能力は何のためにあるんだ?」

「分かりません。ただ、これだけは言えます。」

 凍子は重ねて置いていた手に力を込めながら

能力(エクスタリアス)は、人殺しをする為にあるのではない、です。」

「・・・そうだな。」 

音崎は立ち上がり、

「そこまで分かってんなら、俺からお前に言う事はねえ。だが、一つだけ言わせてもらうなら強さだけが全てじゃねえって事だ。」

「そうですね。」

「ところで、一つ聞いていいか。」

「何ですか?」

「お前はさ、どんな時でも俺の事を信じる自信・・・ってあるか?」

「どうでしょうか。でも私は教官の事、信じてますよ。」

「そうか。じゃあ、戻るぞ。」

「はい。」

 しかし、どうしてだろうか。信じているといった凍子の目からは真逆の気持ちだけが伝わってきた。



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