第六話
「音崎隊長。」
「おう、来たか。実はな、時間になってもゲドルネとの国境を見張ってるやつらからの定期連絡が入ってこないんでサボってるのかと思ってな。」
それは、普段の音崎隊長なのではと三人は思いながらも、
「その後、連絡はあったのですか?」
「いや、全くといって無いのでな。っで、こっちから掛けてみているんだが、この反応なんだよ。」
「電波の状況が悪いのでは?・・・・あっ。」
海月が問うた瞬間に無線機の針が僅かに動いた。
「こちら本部。どうぞ。」
すると、雑音交じりで返答が返ってきた。
「こちら国境警備部隊・・・現在・・・・ゲドルネと思しき奴らからの・・・・襲撃をされ・・・。」
そこでまたブツッという音がして針が動かなくなってしまった。
「襲撃されてるみたいだったな。」
「あと、時折叫び声みたいなのも聞こえました。」
音崎は無線機のマイクを置きながら、
「俺はこれから国境の方を見てくる。何かあった場合は直ちにコンディションレッドのランプが光るようにするから。もし、そうなった場合の指示は全て凍子に委ねるから、従ってやってくれ。」
「了解。」
「頼んだぞ。」
音崎は単身国境へと向かう。その約十五分ほど前、ゲドルネとシュロス・セトラルドの国境警備棟では丁度報告を終えた後で見張りが交代をする頃だった。
「あと十分ほどしたら交代だな。」
「早くならねかなー。」
見張り用のモニター前にある椅子に座る二人の隊員が笑いあっていると、別の隊員が息を荒げながら飛び込んできた。
「た、大変だ!」
「なんだ?交代にはまだ若干はえーぞ?」
「そうじゃねえ。奴らが、奴らが来やがった。」
「奴らってなん・・・。」
そこまで言ったとき、廊下の向こう側から悲鳴が聞こえてきた。
「き、来たぁ。」
二人の目にもはっきりと映る、二足歩行する獣。
「お、おい。マジかよ。」
「ほ、本部に連絡を。」
モニター室に向き直ると、いつの間にかモニターと自分たちの丁度間の位置に一人立っている。
「だ、誰だ。」
「アンタたちに一つチャンスをあげる。」
声ですぐに少女だと分かったのだが。顔までは分からない。
「ちゃ、チャンスだと。」
少女は頷き、
「今からアタシに殺されるのが良いか、あの子たちに殺されるのが良いか選ばせてあげる。」
右に立っていた隊員が即答する。
「どっちにしても殺されるって事だろ。そんなのどっちも嫌に決まってるじゃねぇか。」
すると、少女の声のトーンが下がり、
「優柔不断な男って、だーいきらい。」
そう言いながら彼女が腰から剣を抜いて、気づいた時には目の前にいるのが後ろにいて。そして、右側に立っていた男がうわああと声をあげながらその場に倒れ、血を流しながら動かなくなってしまった。
腰が抜けてその場に座り込むもう一人の隊員に少女はゆっくりと歩み寄り、刃を怪しく舐めながら、
「さあ、あなたはどっちが良い?」
隊員は何度も何度も本部に連絡を入れなくてはと、それだけを必死に願い続けた。
音崎が到着したときに国境警備棟の中は静まり返っていたが、壁などの一部に所々血が飛んでいて数人の隊員たちが床に倒れたり壁にもたれ掛かっていたりしている。
音崎は持ってきた銃の安全装置を外して奥へと進んでいくと、突き当りにあった掃除用のロッカーがガタガタと音を立てて揺れている。
「・・・・?」
左手で銃を構えながら右手でゆっくりと開く。
「~~~。」
口と手足を縛られた隊員が倒れこむように出てきた。
「大丈夫か?」
口輪をほどかれた隊員は、ぶはぁと大きく深呼吸をしてから、
「ゲ、ゲドルネの奴らが突如乗り込んできまして。」
「獣人と一緒にか?」
隊員は首を横に振り、
「はい。侵入してきた人間は二名ほどで。」
「ふ、二人だと?」
各国の国境警備隊の多くは精鋭が揃うと言われ、シュロスセトラルドの場合も国境警備隊になるためにはSETに近い技量と知識が要求される。
「それで、その二人は何処に?」
「恐らくまだ、コントロールルームにいるかと思われます。」
音崎は立ち上がりコントロールルームに向かっている間、奇妙な光景を見た。
床に薬きょうが一本として落ちてないのだ。つまり、敵は銃を使っておらず、隊員たちも撃つ前にやられてしまったのだろうと予測する。
そうしている内にコントロールルームに到着した。
クリーム色に近い自動ドアが開くのと同時に音崎は銃を構える。
中にいたのは黒色のフード付きコートを着た人物が一人だけで、こちらに背中を見せていたがゆっくりと振り向いた。
「お前・・・ヤマト、なのか。」
驚く音崎に対して、相手は静かに言う。
「あなたは確か、SET第一部隊の隊長。音崎迅。」
作戦本部の中を行ったり来たりしているナイトを栞は目で追いながら、
「少しは落ち着きなよ。」
「いや、だってよ。隊長が行ってから結構時間が経ってるんだぜ?心配にしないほうがどうかしてるだろ。」
「それはそうかもしれないけど。」
二人の会話を見ていた凍子は隣にいるケントに問う。
「あなたはどう思う?」
ケントは時計を見てから、
「何かあったのは確かだろうな。けど、それが何か分からないな。」
「戦闘中なのかしら?」
ケントは腕を組み、
「かもな。けど、あそこにあるランプが光ってないって事は、そこまで張り詰めた状況じゃないんだろうよ。」
「そうね。」
作戦本部の一番奥にあるコンディションを表す二つのランプ。今はコンディションイエローを示す黄色のランプが点滅を繰り返しているが、これがその上にある赤い色に変わった場合は直ちに部屋で休んでいる訓練生たちをたたき起こして避難させなければならないのだ。
「皆、ちょっと集まってくれる?」
部屋の中央にある大きな机のところに凍子が集めて、
「もし音崎隊長が戻れない時に、レッドランプが発令された場合の動きを確認します。栞とナイトは訓練生たちを誘導し、人数が揃ったら海月は訓練生達と一緒に出発ね。」
「は、はい。」
「その後、施設内を確認し遅れた訓練生たちが居なければ副署長さんやほかの職員たちと一緒にナイトが出発。」
「了解・・・けどよ。」
頷きはしたもののナイトが首をかしげる。
「お前らはどうするんだ?」
「俺たちは最後に出る。」
「じゃあ、俺も一緒に。」
「副署長さんたちの命は誰が守るんだよ。」
「あっ、なるほどな。」
凍子は一つ咳ばらいを入れて、
「では皆さん各員。よろしくお願いします。」
室内に勢いよく返事の声が響いた。




