第五話
「何だよ?」
すると、ケントは人差し指を唇に当てながらナイトに真剣な眼差しを送ってくる。さらにケントは机の横に立てかけられた剣を少し持ち上げてもう一度立てかけた。
彼の奇妙な行動は続き、今度は指先で部屋中の壁や床をトントンと突き始めた。
そして、彼はふいに道具箱の中からトンカチを取り出して、備え付けの電話の受話器をコードごと引き抜いて床の上でたたき割った。
「お、おいっ!」
だが、今までの行動以上にナイトを驚かせたのは、受話器の中から出てきた物だった。
ケントはそれも同様にすぐさまトンカチで叩き割って破壊した。
「これって、まさか。」
驚きを隠せないナイトに対して冷静な口調で、
「あぁ、盗聴器だろうな。」
「でも、どうしてここに。」
「俺達から何らかの情報を得ようとしていたのか。または、俺たちが部屋にいるのかどうかを確かめるためか。」
今度はナイトが首を傾げながら
「俺たちが部屋にいるのを確かめるために盗聴器の必要があんのか?そんなのノックでもすればいいじゃねぇか?」
「泥棒するのにノックするのか?」
「ど、泥棒ってお前なぁ。それよりお前、何でこの部屋に盗聴器があるって分かったんだよ。」
ケントは音楽プレイヤーのコードをまとめながら、
「ラジオの電波を合わせてたら耳元にお前の武器を置く音が聞こえてきたんだよ。」
「なんにしても、一応隊長には報告しておく必要があるよな。」
「あぁ、俺が行ってくるからお前は留守番を頼む。」
「おーけー。」
ケントは扉を少し開けてから、ベッドの上でゴロゴロしているナイトに指をさしながら、
「あぁそうだ。俺が戻ってくるまで誰も入れるなよ。」
「どうして?」
「一応、警戒のためだ。」
「はいよー。」
気のない返事に半信半疑になりながらも、ケントは部屋を出て音崎のもとへと向かい、報告を終えて戻ってきてみると扉が数センチ空いているのに気づき、中から楽しそうな声が聞こえてくる。
額に眉を寄せながら扉を開けると、ベッドの上にナイトが座り、その向かい側にあるソファーには栞と凍子が座っている。
「おかえり、ケント。」
「ケント、おかえりなさい。」
「よぉ、おかえり。」
凍子、栞、ナイトを見てから、
「・・・・ナイト。誰も入れるなって言ったはずだが?」
「折角、女子が来てくれたのにカタい事言うなって。」
ケントはナイトの横に座りながら、
「そうかよ。ところで凍子、一つ聞きたいことがあるんだが。」
「もしかして、これの事?」
凍子がスカートのポケットから取り出したのは、形や大きさが若干違うものの紛れもない盗聴器だった。機能は止められている
「私の部屋にも備え付けてあったわ。これはもう中身を抜いてあるからただのプラスチックの塊だけどね。」
ケントは海月の方に目を向けながら
「という事は、だ。」
凍子は盗聴器を仕舞いながら、
「えぇ、もしかするとすべての部屋に取り付けられているかもしれないわね。」
「で、でも。いったい誰が。」
ケントは腕を組みながら、
「俺は何人か見当をつけている。だが、確証がない。」
「音崎隊長は、何て?」
「これから順番に他の隊員には伝えるつもりだったんだが、SETはコンディションイエローをーを発令し、盗聴器は発見次第破壊せよ、だそうだ。それから、栞。」
「は、はい。」
「今俺たちが話していたことは誰にも言わないでくれ。現段階で何が起こってもおかしくないからな。」
「わ、分かった。」
「それじゃ、皆よろしく頼む。」
部屋を出た後でピシッと背筋を伸ばし、凍子は本部の扉を軽くノックする。
「おう凍子か。何か報告事か?」
ソファーに右腕を乗せた音崎に凍子は、はいと答えてから、
「本日の予定は全て終了です。お疲れさまでした、隊長。」
今日何本目かという煙草に火を点けながら報告を受けた音崎は前かがみになりそれを咥えたまま、
「そんなこと、いちいち報告にか無くても良いんだぜ?」
「仕事の一環ですから、お構いなく。」
「じゃ、好きにしろ。」
ふーっと天に向かって煙を吐く音崎に、
「今のところ大きな事故やケガなく、順調に進んでいます。」
「あぁ、順調だな。気持ち悪いほどに」
音崎がニィッと笑うので凍子は顔をしかめながら、
「こういう時、またあの時みたいな事が起こる気がしてなりません。」
「あの時の事・・・か。」
音崎と凍子にとって忘れられない『あの日』。それは凍子がSETを目指すキッカケとなり、誰よりも強くなりたいと思った日だった。
「ですが、例え何か起きても現場の者に任せると父も言ってました。」
音崎はソファーにだらしなく背中を預けながら、
「へぇ、普段娘にはあまり興味を示していなさそうな君のお父さんが?」
「はい、珍しく少し心配しているようでした。・・・・灰、落ちそうですよ。」 音崎は目の前の灰皿に灰を落として、
「何にしても、報告ご苦労さん。戻っていいぜ。」
凍子は頭を下げてから、部屋を出ていき。窓を見ながら音崎は心の中で呟く。
(な~んか、起きそうなんだよなぁ~。)
少しずつ沈みゆく太陽で出来る自分たちの影を見ながら、獣人たちが唸り声を上げ始め、そのうちの一匹の頭を撫でながら茶色の少女が笑いながら、
「良い子たちだから、もう少し待ちなさい。ご褒美はちゃんとあげるから。」
その頃、夕食を終えて明日の訓練内容を確認していたケント達の部屋をノックしたのは 栞ではなく凍子だった。
「本部で音崎隊長がお待ちよ。準備が出来たら来て。」
「分かった。」
立てかけてあった愛刀の状態を確認してから背中に担ぐと、向かいの席で武器の手入れをしていたナイトが、
「それにしても俺達って、物持ちが良いと思わねえか?」
「そうだな。」
初めて好きな武器を自分専用として装備する事を許された時からケント二本の刀を、ナイトはしなやかな剣先を誇る剣を使用し続けている。
「いつまで使い続けるんだろうな。」
「壊れて使えなくなるまでだろ?」
SETの制服に袖を通すケントに
「そうだろうな。んっ?その銃には弾は入ってんのか?」
そのの銃とは制服の上着の内ポケットに入れてある銃なのだが、ケントは上着の上からそっと手を当てて、
「一発だけな、ずっと入れっぱなしだよ。前にも言っただろ?」
「それが、アイツの銃だからか?」
「まぁな。」
真黒なワルサーPー38、この銃の持ち主は簡単な手紙を置いてケントの前から姿を消した。
「こいつも本来の主人に使ってもらったほうが嬉しいだろう?」
「それは言えてるな。よし、準備完了。」
扉を開けると、ノックしかけていた栞が立っていた。
「あれ? お前まだ居たの?」
「明日帰ろうと思ってて準備は終わったんだけど・・・。」
「お前も呼ばれたってわけね。」
「そういう事。ほら、早く行こう。」
三人が足早に本部を訪れると、そこには既にただならぬ緊張感が漂っていて、まったく動きを見せない無線の針を音崎が睨み続けている。




