第二十話
涙目の凍子の脳内にどこからともなく声が聴こえた。
『今更遅い。もう、手遅れなんだよ。』
ハッとすると、ケントに突き飛ばされる。しかし、ケントの次なる目的は凍子ではなく、もう一度ユイナの方だった。
彼は、カラス達を持ち前のパワーでなぎ倒していき、ユイナに腕を伸ばすと、彼女は抵抗する事無く身を委ねた。それを見ている間に、ナイトが傍による。
「凍子、大丈夫か?」
「えぇ、なんとかね。」
「何をするつもりなんだ。」
ユイナの抱えたケントは凍子達の方へゆっくりと歩み始めた。
察した凍子が叫ぶ。
「全員、武器を下ろして道を開けなさい!!」
「何だと?」
「早く!!」
戸惑いながらも、全員が部屋の真ん中を開ける。そこに出来た道を、まるで王者が闊歩していくかのように、ケント達が歩いていく。
二人が部屋を出て行った後、緊張が解けた如く次々と人々が座り込んだ。
「本当に、これで良かったのか?」
ナイトが凍子に問う。
「これ以上、ケガ人を出すわけにはいかないからね。」
「けどよう。」
諭すように、雷花が言う。
「悔しいが、今のワシらの中で誰があの者に勝てるんじゃ?」
「くっ・・・。」
終戦を告げるように、氷山総帥が命令する。
「さぁ、立てる者、動けるものは負傷者の手当てを。WPKPの方々もな。」
しかし、カラス達の姿がなかった。彼等が居た場所には黒い煙を残しているだけで。
この一連の騒動は、瞬く間にシュロスセトラルド内に留まらず全世界へと伝えられた。SETのリーダーが獣人であった事。彼等の行方。WPKPとの今後について。解決すべき課題は山積だった。
翌日、凍子達は氷山総帥に呼び出される。
凍子が部屋に着くやいなや、既に場は始まっているようだった。
「氷山総帥。我々を捜索隊として行かせてください。」
「そうネ。このまま放って置くわけにはいかないアル。」
両肘をついて、組んだ手に顔をつけて考え込む氷山総帥に時任と肖が頼み込んでいる。
「君たちの気持ちもよく分かる。だが、今回の一件で多くの隊員や建物に被害がもたらされた以上、出動させるわけにはいかない。」
「ですが・・・。」
「君たちの仕事はなにかね。君たちは、何の為に存在する。」
「それは・・・この国の人々の安全を守る事アル。」
「それを認識しているのであれば、全うしたまえ。」
「総帥!」
さらに食ってかかりそうな肖の肩にナイトが手を置いて、首を横に振る。
「任務に戻ります。」
ナイトが半ば強引に時任と肖を連れて行く。すれ違い様に凍子に耳打ちする。
「あとで詳細教えてくれ。」
三人が出ていくと、両肘を机に立てて、組んだ手に顔をつけたいつもの考え込む表情をする氷山総帥は凍子に声をかける。
「昨日は、良い判断であった。」
「一瞬の出来事でしたので。それに、あの場にいる私たちでは、今の大神隊員には誰も。」
「そんなに、卑下しなくてもいい。あれ以上の戦闘は、ただ犠牲を増やすだけに過ぎない。それならば、君の判断はむしろ称賛に値する。」
「ですが・・・。」
「凍子。戦いにおいて先導者が行うべき事は、一人でも多くの兵を生きて帰らせることにある。本そもそも我々は戦いの道具ではない。能力をもって生れて来たのも、よりよい未来を描くためなのだから。」
「ならどうしてケントは、大神隊員は獣人に・・・あのような能力を持っているのですか?お父様や博士はご存じだったのでしょう!? それなのに、どうして。」
凍子の目がうっすらと潤う。怒りというより悔しさや悲しさを滲ませている。その表情はどこか、決意を胸に宿して自分たちの前に現れたケントと同じ姿が自然と重なる。
どこか遠くを見つめるように、氷山総帥は話始めた。




