第十九話
「気づいていたんですね。私が純粋なSETの人間でない事に。」
「こう見えて、意外と権限は貰っているのでね。調べようと思えばすぐさ。」
「悪くいうと職権乱用ですよね、それ。」
「まぁ、捉え方は人それぞれだよね。それで、君はいつから『WPKP』に?」
栞は話すか考えたが、隠しても無駄だと思い話始める。
「一番初めにに『任務』を請け負ったは、養成学校に入校した一年後です。その頃は、簡単な資料整理からでした。」
「なるほど?それから少しずつSETになるべく勉強しつつ、『WPKP』でも活動をしていたと。」
「えぇ、その通りです。」
「しかし、両立は難しいんじゃないかな?いや、それだけ君が優秀だったというべきか。」
「もちろん、完璧に両立することは不可能に近いです。だからこそ当時から今まで、私も博士のようにいくつかの『権限』を与えられていました。」
「じゃあその権限と最近の任務、教えられる範囲で教えてくれる?」
栞が頷いてから。
「例えば、卒業試験は形式上受けていましたが、点数に限らず合格出来るようになっていました。」
「すぐにでも呼びたい人間が追試等で足踏みされては困るからかな。事実上の試験免除なんて白銀君が聞いたら羨ましがるだろうね。」
「最近の任務は、レクリエーション施設の副所長が元所長の座を狙っているのではないかという情報を受け、何かしらの騒動が起きないように彼等を接触させないようにする事でした。」
「結果的にゲドルネの人達が攻め込んできたけれどね。」
「それが予想外の事態を連続で引き起こす火種でした。ひた隠しにしていた氷山凍子と塩原海月の因縁が復活。ゲドルネにおける獣人の反乱。」
「結果としてSETは数々の功績を上げ、氷山更四郎の評価は世界へと広まった。このままでは、彼が世界の実権を握りかねないとWPKPは危惧したわけだ。」
「我々としてはそれは避けておきたいと思い、いま上で起きている事を実行したんですよ。」
「なるほど、それが君たちが描こうとした「計画の絵」というわけか。だが君たちは大切な事を忘れているよ。」
「我々の計画に、博士は穴があるって言いたいんですか?」
栞の問いに、山井博士はいつもと変わらぬニッコリと微笑む。しかし、どこか怪しげに・・・。
その頃、氷漬けにされたケントは夢の中のような状態でうっすらと目を開ける。雲のような白い空気が周りを漂っている。
「目が覚めましたか、大神ケントよ。」
顔を上げると先ほど凍子に重なって見えた女性が立っている。
「あなたは、さっき俺がちょっとだけ見た。誰なんだ・・・。」
「我が名は、ゼウス。全知全能の神です。そしてここは、生と死の間。あなたの選択次第で未来は変わる事でしょう。」
「つまり、俺が間違った答えを出したら死んじまうってか。」
「いいえ。あなたが答えを間違えた時死ぬのはあなた自身ではありません。あなたにとって大切だと思う『未来』が死ぬのです。」
「なんだと?じゃあ俺は『死神』って事かよ。」
「言い換えれば、そういう事になりますね。」
「どうしてだよ。自分の責任は自分で取るのが筋ってもんだろう。」
「それが、あなたに課せられた運命だからです。正確にいえば、あなたは他の方とは違います。それは、あなた自身がよく分かっているでしょう?自分が、どういう人間、能力者であるかと。」 15
「・・・・・・・。」
「あなたはずっと迷い続けてきた。自分の中にある能力を解放すれば、おそらくあの場に居るほとんどの者を凌駕する。しかし、その能力の最大の弱みは、これまで人々が最も恐れ続けてきた能力であったという事。」
ケントは両手に拳を作り、ギュッと強く握る。悔しさを表すかのように。
「そうだ。だから俺はずっと自分を抑えてきたんだ。」
「ですが、あなたにとって能力とは誰かを殺したり、人の上に立つためにあるものではないとも分かっている。」
「あぁ、そうだ。俺にとってこの能力は、大切なものを守るためにあるんだ。」
「ならば今こそ、その能力を解放するのです。眠っているままでは、何も変わらないのですから。」
そう言ってゼウスは姿を消し、周りが白い光に包まれていく。ケントは決意する。
(そうだ。たとえ俺が、どんな人であろうと言われても。俺は俺の守りたいものを、守るんだ。)
ケントは左手を輝かせる。氷が音を立てて割れる。そして、体から金色の毛が生え始め、全身へと生え揃っていく。その姿は、まるで・・・・。
栞は背中がゾクっとして、思わず天井を見上げる。
「この気配は・・・でも、今までと違う。」
「どうやら君も感じたようだね。『彼』が放っている独特のオーラを。いや、これも彼の能力の一部なのかもしれないけどね。」
「博士。上で一体、何が起きているのと言うのですか。」
「それは君自身がに行って、直接その目で確かめるのが一番だ。でも、おススメはしないね。」
「どうしてですか?」
「危険だからだ。僕が思うに、これからあそこはとてつもなく危険になる。いくら君の能力が優秀とはいえ、簡単に『彼』を止めることは出来ないからさ。」
まるで未来が見えているかのような口ぶりで話す山井博士。
「もし僕が君なら、絶対に上には行かないだろうね。では、君はどうするかね?」
「たしかに、上での私に対する任務は与えられていません。なので、博士の言う通り、必ず行く必要もありません。」
「そうだろう、そうだろう?」
「ですが・・・。」
笑顔で頷く山井博士に、栞が真っすぐな目で視線をぶつけてきた。15
「私は行きます。今、あの場にいるのは、『かつての』とはいえ私の仲間です。それに、私にか出来ない仕事もあるかもしれませんからね。」
「ほう? 君にはそっちの役目も果たそうというのかね。」
栞は立ち上がり軽く礼をする。
「では、失礼します。」
扉の前まで行った栞の背中に問う。
「行かないほうが君の為だとおもうんだけどな。それでも行くのかい?後悔しても知らないよ?」
「後悔ばかりしていては、前に進めませんから。」
栞が部屋を出ていき、一人残った山井博士も立ち上がると自分のデスクに座り、パソコンで手早くパスワードを解いて、ファイルを開いた。タイトル名は
『獣人実験データ。№.00 大神ケント』
新たに得た情報をキーボードで打ち込みながら、山井博士は心を躍らせた。まるで、今日という日を待ち望んでいたかのように。
(さぁ、今こそ君の本当の力を魅せる時だ。存分に戦いたまえ・・・。)
だれが、この姿を想像しただろう?仲間として、友としてあったケント。ナイトの目に映る彼は、
「獣人・・・じゃねえか。」
「お父様は、この事をご存じだったのでしょう?」
「あぁ、知っていたとも。彼は私に言った。『大切なのものを守れる力が欲しい。たとえ、自分を見失ったとしても。』とね」
「だから、力を与えたと。」
「その通りだ。そして彼は、見事に体現して見せてくれたよ。さて、どんな働きを見せてくれるのかな?」
宝を手に入れたかのように喜ぶ氷山更四郎。しかし、彼の理想とは裏腹に、獣人と化したケントはユイナ達の方ではなく、凍子達の方へと向かってきた。ナイトが、先鋒を務める。
「くっそ。いつも以上に馬鹿力じゃねえか。」
大剣を持つ腕を掴むと、グルンと腕を回してナイトの体を軽々と持ち上げてから床に叩きつけた。
「ぐはっ!!」
「ナイト!」
ナイトの手から離れた大剣を拾い上げると、片手で振り回し始めた。
「俺の、武器を・・・使えるのかよ。」
今度は、視界にユイナ達を捉えると、一目散に走っていく。その間に、凍子がナイトの傍に行く。
「見境無しって感じだな。なんとかして、止めねえと。」
「でも、ただ倒すだけじゃダメかも。多分それだと、元には戻らない気がするの。」
「じゃあ、どうするんだよ。」
「私が、どうにかするから。」
スッと立ち上がる凍子。カラス達が応戦する方へと向かっていく。素早く左手を輝かせて彼等との間に氷の壁を作り、持っていた大剣も凍らせた。敵意が自分の方へと向いたのを感じると、凍子は大きく手を広げた。
「ケント、自分を思い出して! ケント!」
「グラァァァァァァ!」
鋭い爪が凍子の左肩を切り裂く。流血するも気にする事無く、凍子は強く抱きしめて、ケントの心に呼びかける。
「戦いはもう終わったの。だからケント、一緒に帰ろう。大好きな、あなたに戻って。」
これが、自分に出来る精一杯の思いだった。




