第十七話
草間は攻めあぐねていた。
「こいつ、意外とやるのねぇ~ん。手ごわいのねぇ~ん。」
玲奈に視線を向けるも、冷淡な答えが返ってくる
「遊んでないで、さっさと倒しなさいよ。」
「そう言われても困るのねぇ~ん。仕方ないから、とっておき~。」
草間は地面に手を着く。すると、地下から深い草の根が飛び出してくる。
「うぉっと!危なっ。けど、切っちまえばこっちのもんだぜ。」
ナイトはスパスパと大剣で切り込んでいく。
「玲奈様~。助けて欲しいのねぇ~ん。」
泣き言をいう草間に、大きくため息を吐く玲奈。
「仕方ないわね。」
彼女が左手を掲げると、先ほどよりも濃い霧が発生する。
「なっ。くっそ、見えづらい。」
「残念だけど、遊びはここまでよ。先を行かせてもらうわね。せいぜい、追いついて来ることね。」
霧が晴れた頃には、三人の姿は無かった。時任が周りを見渡す。
「逃げられたのか。いや、正確には先を行かれたか。」
「ワシらが奴らを追いかける。お前さんは、こやつを病院に送り届けてくれ」
「分かりました。お二人とも、お気をつけて。」
「では行くぞ、でっかい剣を振り回しておった者よ。」
「白銀ナイトだ。おチビさんの方こそ、よろしく。」
「雲切雷花じゃ。雷花でええぞ。道案内を頼む。」
「承知!」
雷花が廊下を走りながらに言う
「ナイトと言ったか?さっきの戦いっぷりといい、お主良い腕しとるのぅ。」
「ありがとうよ。アンタは雷の古代能力者だって?」
「いかにも。ところで、お主が先の戦いで見せたあの能力はなんじゃ。マジックやトリックで剣を出したわけじゃあるまい。」
「俺は、伝説能力者なんだよ。能力は、白銀」
「なるほど。面白そうなやつに出会ったわい。」
どうやら心強い仲間が出来たのかもしれんなと、雷花は心の中で微笑んだ。
その一方で、ヴォルゲット城ではあらたな取り決めがあった。サツキとウィンドゲートがシュロスセトラルドで戦わないという事だ。納得していない様子の肖。
「本当に、一緒に戦ってくれないのですか?」
「たしかに、アタシとウィンドゲートは元々そっちの人間だったわ。でも、今は違う。必要以上に他国の人間が介入してはいけないのよ。」
「ですが、それを言えば今追っている人達も、かつてはシュロスセトラルドの人間だったではありませんか。」
「それは、そうかもしれないけど。」
「ケントさん達を信じようよ。」
ずっと聞く側にまわっていた海月が声をあげた。
「ケントさんは私に言ってた。『一流の人間が自分の守りたい物を守るためには、自分の力を使う事が一番』だって。私たちも、サツキさん達に頼りっぱなしはダメなんじゃないかと思うの。」
「海月。」
少し考え込む肖。顔を上げる。
「そうだな。俺たちには、ケントさんを始めとした素晴らしい先輩や仲間がいる。」
「うん、そうだよ。私たちならきっと出来るから。」
「話はまとまったみたいね。それじゃあ私は部屋に戻ってるわ。」
そして残っていたメンバーがヴォルゲット城去った後、、ウィンドゲートが部屋を訪れて問う。
「サツキ。本当は、一緒に戦いたかったんじゃないのか? 顔に書いてあるぞ。」
「それは、あなたも同じでしょう?見守り続けてきた人が連れ去られて。自分はここで居残りさせられているんだから。」
「お互い様ってところかな。けど、あとは彼女たちに任せよう。」
「ところで、一つ聞いても良いかしら。」
「何かな?」
「古代能力者は、アンタの能力では送り届けられないのよね。」
「あぁ、その通りだよ。簡単に送れたら、苦労しないんだけどね。」
「じゃあ、さっき送り届けなかった『あの人』も、古代能力者だったって事なのね。」
「あれ?気づいたのか。俺も最初は驚いたよ。まさか、あの場に氷山凍子以外にも居たなんてね。シュロスセトラルドの古代能力者は力を見せたがらないのかな?」
「意外とシャイな人の集まりなのかもしれないわね。」
「それは言えてるかもしれない。」
一足早く「始まりの間」へとやってきた玲奈一行。右扉には剣を持った龍、左扉には盾を持った虎がレリーフとして刻まれている。
「さぁ、時代の変革させる時よ。」
玲奈が扉に手を掛けようとすると、
「そうはさせねえぜ。」
「意外と早かったわね、ナイト。もう少しゆっくりしてくれても良かったんじゃない?」
「自分のところだからな。大体間取りは覚えているんだよ。それに、追いついたのは俺だけじゃないんだぜ?」
「何ですって?」
「そうだろう?皆。」
「あぁ、時間を稼いでくれてありがとうな。」
ケントと海月が、ナイトと雷花の横に並ぶ。
「もう少し待ってくれたら、役者が揃うぜ?どうするよ。」
ふっと笑みをこぼす玲奈。
「そんなの決まってるじゃない。待つわけないでしょ。」
グッと力を込め、力強く扉を開けて中へと飛び込んでいく。
「しまっ・・・。」
慌てて後を追いかけるナイト達。しかし、部屋の中には最奥に大木が壁に沿うように生えているだけであとは広い空間が広がっているだけのようだ。
「ここが、『儀式の間』ですか?シンプルな作りですね。」
「簡単な造りだからこそ、生み出す力はデカいんだよ。玲奈!」
最奥に向かっていた玲奈たちの足が止まる。
「お前たちは世界を安定させるために居たんじゃないのか?世界を壊そうなんてしないんじゃなかったのか?」
「そうね。『WPKP』はその為にあるって言われていたわね。でもね。」
振り返った玲奈の表情は、どこか寂しげで悲しそうだ。
「この国の為、この世界の為に力を尽くしてきた人々がどうして褒められないのかしらね。いつの間にか、SETだけが独り歩き状態。ずっとエリート街道を歩いていたあなた達には分からないでしょうね。私達がこれまでどんな人生を歩んできたなんてね。」
玲奈が苦悶の表情で語り始めた。
一世代前のこの世界はいわゆる『腕の強さ』が物語っていた。
それに歯止めをかけたのが、後のシュロスセトラルドの総帥になる氷山更四郎だった。
彼は『WPKP』の議員だったこともあり、各国と条約を制定、締結させる。さらに各国との間にゲートを設け、安易な行き来を遮断した。
これにより、『WPKP』の監視下で世界は平穏を取り戻したかに見えた。しかし、交易を失った貿易商を中心に反乱が次から次へと起きる。事が大きくなるたびに、氷山更四郎は『SET』を派遣し名声を上げる。
だが、私達は気づいた。これまでの火種を作っていたのは全て彼の謀略だったのだ。
だからこそ彼の思惑を逆手に取り、この世界の平穏を壊し続けてやろうと。彼の元から信頼している人々を離れさせてやろうと考えた。
「それが、お前達がやろうとしている事なのか。」
「えぇ、そうよ。でも、その前にあなた達には消えてもらいたいわね。カラス、草間。」
二人が身構えるのを見て、ケント達も武器を手に取る。すると、全員の頭の中に声が聴こえる。
『全員。武器を仕舞ってください。今すぐにです。』
「これは、ユイナの『声』。」
「頭の中に、語りかけてるって言うのか。」
『ここへ連れてきてもらったのは、私の願いなのです。新たなる世界の未来の為にもどうか、この願い聞き入れてください。』
全員が武器を仕舞おうとしたところで、ケント達の後ろからあの男の声がする。
「その要求を吞む必要はない。」
「氷山総帥。凍子も。」
氷山総帥が手を挙げると、入口から剣をもったSETの第三部隊隊員たちがゾロゾロと入ってくる。
「『WPKP』が私を利用し、悪者扱いしていたのだ。彼女たちの方が間違っているのだ。」
「どっちが本当なんだよ。なぁ、ケント。」
「さぁな。けど、今俺たちが目を離したらいけないのは・・・お前かな、凍子。」
玲奈たちに背を向けて、凍子に視線を合わせると彼女は抜刀する。
「へっ、やる気満々じゃねえかよ。」
「マジで仲間内で戦うのかよ。正気か?」
焦るナイトに対して、ケントはどこか嬉しそうに、
「こういう機会は中々巡って来ないよな。さぁ、存分に戦おうぜ!!」