第十六話
「武さん、しっかりするんだ。」
時任が抱きかかえる。武は虚ろな意識で、弱弱しく手を挙げる。
「このままだと、全滅・・・アル。早く、総帥を・・・呼ぶネ。」
そう言うと、バタリと手を落とし意識を失う。そっと、彼の体を床に寝かせ、
「ここから、俺がやる。」
時任が意識をカラス達に向けた所で、袖を引かれた。
「なぁ、ワシも手伝った方が良いか?」
「え?」
顔を向けると、雲切雷花が不思議そうにこちらを見ていた。
「あなたは確か、東国の。」
「雲切雷花じゃ。雷花でええぞ。」
「えっと、じゃあ雷花さんも・・・戦ってくれますか?」
雷花が返事の代わりにニッと笑うと、
「あなたに前に出られては、色々困ってしまうのだけれど。」
玲奈がカラス達の前に出て、言う。
「そもそもこれは私達と、シュロスセトラルドの戦い。あなたには関係ないでしょう?」
「いんや!関係あるじゃよ、それが!」
雷花は時任を指さして、
「こやつらの仲間はな、ワシにうんまいチャーハンを食わしてくれた。だから、ワシはその恩返しをするのじゃ。」
「あらそう・・・交渉決裂ね。でも、そこは通させてもらうわよ。」
玲奈が左手を前に掲げる、手の甲が輝きあたりに冷たい空気が立ち込めていく。
「ふん。このような力、痛くもかゆくも無いのじゃ。」
雷花は愛刀に手を掛けながら、玲奈に向かっていく。
「くらえ、『雷剣抜刀波ーー!』」
その技を受け止めたのは、草間だった。
「おぉ~ん。痺れるねぇ~ん。」
「嘘をつくでない。全然効いておらぬだろうが。」
一度間合いをとる、雷花。
(ワシの力は相性も考えると長くはもたんぞ。ケント達よ、早く戻ってくるのじゃ。)
ヴォルゲット城へと戻ってきたウィンドゲートが手短に説明する。事態を重く感じながらも肖が凍子に問う。
「もしその扉ってのが開いたら、どうなるんですか?」
凍子が言いづらそうに、
「このゲートを境目に大陸が分裂する。もしくは、最悪の場合、崩壊すると言われているの。」
「じゃ、じゃあ早く戻らないといけませんよね。」
慌てる栞の隣に立つナイトが問う。
「けどよぉ。今からすぐに出ても間に合うかどうかなんて。」
「ナイトの言う通りね。全員が戻るためには時間がかかるわ。でも、一人二人ならすぐに戻る方法ならあるんじゃない。そうでしょう、ウィンドゲート。」
冷静な口調で、サツキが視線を合わせてくる。
「たしかに、俺の能力を使えば、この中の数人はすぐにでも運べる。だが、条件がある。」
「条件?」
「古代能力者は、運べないんだ。力の干渉ってやつなのか、しらないけどな。」
「じゃあ、凍子さんは運べないって事。」
「かぁ~~!一番先に行って欲しいのによぉ。」
「仕方ないじゃない。だからまずは、ナイト。あなたに行ってもらおうと思うの。」
「え?俺?」
「あなたは本部の構造も分かってる。ケントと早めに合流してほしいの。」
「けどよぉ・・・。俺みたいなのが最初に行ってもよぉ。」
渋ッていると、栞が手を握ってきた。
「ナイト、本部の皆さんを守って。今、一番早く行ける・・・あなたの力が必要なの。」
「分かったよ。先行って、切り込み隊長しといてやるから。早く来いよな。」
ウィンドゲートが、黒い渦を発生させる。
「じゃあ、行くぞ。準備は良い?」
「あぁ、よろしく頼む」
二人が消えた後、凍子が問う。
「・・・栞。あなたとナイトって、もしかして。」
「ここでは、何も言えない。詳しい事は、また今度話すね。」
雷花達とは対照的に、嘲笑うかのように余裕の表情を見せる玲奈。
「随分粘るじゃない。」
「はぁ、はぁ。おい、ケント達はまだなのか。」
「もう少し、かかるそうです。」
「ぬぅぅぅ。」
そんな雷花達の前に現れる黒い渦。その中から飛び出してきた、ナイト。
「よっと。お待たせ。」
「ナイト君。」
「その能力。ウィンドゲート。」
「先ほどぶりだな、玲奈。それじゃあ俺は、他の人達を」
「あぁ、頼むぜ。出来るだけ早くな。」
ウィンドゲートが再び渦の中へと消えていった。
「さて、俺も祭りに参加させてもらおうかね。」
「祭り、ね。草間、楽しませてあげて。」
「了~解~なのね~ん。」
草間が右腕を前に掲げると、先ほどよりも細い柄の草の十字槍が出来た。ナイトも抜刀する。二人の武器がぶつかり合う。
「へへっ。草や紙で手足を切らないようにって、親に言われたもんだぜ。」
「自然の力にふざけた事を言ってるとぉ~、ケガするのね~ん。」
「そうかい、だったら本気で戦わないとな。」
一度間合いを取ると、ナイトは驚きの行動に出る。持っていた剣を捨てたのだ。
「何をしてるぅ~ん?」
「あの剣はあくまで護身用でね。こっちが本物なのさ。」
そういって、ナイトが右の掌を床に向けつつ体の前に掲げる。すると、床から大剣が生えるように出てきた。玲奈には、それに見覚えがある。
「龍斬白銀剣。草間、気を付けなさい。ここから一気にレベルが上がるわよ。」
「御意~ん。覚悟ぉ~ん。」
だが、ナイトが大剣に手をかけたと思った瞬間に草間の視界から消えた。
『斬撃、木の葉落とし!』
同時刻、シュロスセトラルドへと急ぐケントの前に現れたのは。
「音崎隊長。」
「急いでいる所悪いんだがな。少しだけ、時間くれるか。ケント」
「えぇ、少しだけなら。」
煙草に火をつけて、ふぅーっと大きく息を吐いてから
「お前はすでに気づいているかもしれないが、今までの騒動や糸尾ユイナ失踪の裏には共通した人物が関わっている。」
「氷山総帥ですよね。教えてください、音崎隊長。あの人は何が狙いなんですか。」
音崎は再び白煙を吐いてから、説明してくれた。
ユイナの持つ能力によって、自分の目的を邪魔されるのではと感じていた氷山総帥。
彼女をゲドルネへと追放し、有事の際にはゲドルネのせいにすることで事態の収拾を図っていた。
しかし、彼の想定をは次々と崩されてきた。それは、ユイナを見守るために身分を捨てたウィンドゲート。彼女を追い続けていたケント。
さらに、『扉を開けるため』に玲奈がユイナをシュロスセトラルドへ連れてくることで、隠したくても隠しきれない事態へととなっているのである。
「もし扉が開けられたら、この世界は大きく変わる。いや俺の予想では、この世界が崩壊するかもしれないと思っている。だが、少なからずその変貌を見てみたいとも思っている俺がいるんだ。だからこそ、お前に率直な気持ちを聞きたい。」
まっすぐな視線をぶつけてくる音崎。
「こっから先のお前は、誰の為に戦っていくつもりなんだ、ケント。」
「誰にどんな裏や目的や考えがあったとしても変わりません。俺は今もSETのメンバーですから。俺は、俺の守るべき人を守ります。」
そう言いながら、音崎に歩み寄るケント
「ただ、この戦いで俺は『本当の力と姿』を凍子やナイト、他の皆にも見せることになるかもしれない。音崎隊長は、俺の能力をご存知ですよね。」
「あぁ、知っている。お前が生まれた時から知っているからな。」
「そうなったら、今度は俺があいつらの前から消えるでしょうね。それじゃあ、失礼します」
走っていくケントの背中を見ると、かつて目標に向かって走っていた自分を思い出しながら、
「大丈夫だ。その時は、俺がお前を守ってやるからな。」