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深鋭のエクスタリアス  作者: 高城連乃助
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第十五話

 翌朝、事前に決めた『獣人抑制作戦』を実行に移す。

まず前衛をナイトとサツキが担当する。

「これだけの数が居ると、キリがねぇなぁ。」

終わりの見えない戦いに、ナイトがぼやく。

「文句言ってないで、手を動かしなさい。」

「やってるよぉ。」

ふたりの隙をついて、十匹ほどの獣人が二人のあいだを抜く。

「しまった。」

ナイトの心配もすぐに打ち消される。後方で待ち構えていたケントが目にもとまらぬ速さで動き、四匹を片付ける。

そして、今回は隠すこと無く氷の能力を使い、凍子があとの六匹を倒した。

「ナイスフォロー。」

苦笑いをするナイトに対し、

「まったく、タフな連中だ。敬意に値するぜ。」

「ケントまで。」

その戦況を、城のバルコニーから見守る栞、肖、そして海月。彼女たちは負傷したりした際にバックアップ出来るように待機している。固唾をのんで見守っている肖を見て、海月は優しい口調で声をかける。

「ケントさん達の事なら、大丈夫だよ。」

「栞。」

「命を懸けて戦っているから、心配なのは分かるよ。でも、何でかな? あの人達なら、何も心配いらないって思えるんだ。」

「そうだね。ケントさん達は最強のメンバーだからね。」

「その通り。だから、私たちはここで待って居よう。」

戦いは数時間にも及んだ。

それでも、危険が迫るような事態にはならなかった。

戦いの後、ウィンドゲートとケントはユイナのいる小屋へと出かけていく。それを凍子は部屋の窓から、サツキはバルコニーから見送った。



 馬から小舟に乗り換え、湖畔を渡る。ここまでは、順調だった。しかし、進めば進むほど霧が濃くなっていく。ケントが問う。

「こんな場所に、ユイナが居るって言うのか。」

「いや、今日は特に霧が出ている感じがする。気を付けた方が良いのかもしれないな。」

いざという時の為に、武器に手をかけるケント。舟を降り、しばし歩くと小屋が見えてきたのだが、その前には先客が。

「遅かったわね。大神ケント。待ちくたびれたわ。」

久しぶりに聞く声に、ケントは驚いた。

「お前、玲奈か。玲奈なのか。」

「あら、覚えていてくれて嬉しいわ。でも、もう行かなくちゃ。」

玲奈がそう言うと小屋の扉が開き、中からユイナが男性に抱えられて出てきた。

「ユイナ!・・・彼女を、どうする気だ!」

「目的は同じよ。彼女の記憶を取り戻すの。『扉』を開けるためのカギとしてね。」

「扉を開ける・・・鍵。そんなことしたら、この世界は。」 

「えぇ、大変な事になるでしょうね。でも、邪魔しないでほしいのよ。」

「玲奈。そんなことはさせないぞ。」

武器に手をかけるケントを見て、声色を変える玲奈。

「邪魔をしないでって、言ってるでしょ?カラス」

「御意。」

カラスがピュ~イと口笛を吹くと、バサバサと音を立てて鳥のカラスがケント達に襲い掛かる。

「それじゃあ、お先に。」

「待てぇ!くっ・・・数が多い。」

なんとかカラスの群れを追い払うが、もう先ほどの二人の姿はない。

「くっそぉ!」

思わず地面を殴るケント。すると開いていた扉から傷だらけのロバストが出てきた。

「ウィンドゲート、すまねえ。」

「俺の方こそ遅くなった。ケント、奴らは扉を開ける気だ。すぐにシュロスセトラルドに戻ってくれ。後から追いかける。」

「分かった。」



その頃、応接室で机の上に置かれたチェスではなく、将棋盤から駒の桂馬で次の一手を打ちながら、

「負けている割には余裕そうじゃな、凍四朗よ。」

 モジャモジャの黒いヒゲのおかげで際立って見える白い歯とともにニヤニヤしているのは、南国の代表であるネツラ・アズール。

 しかし、名前の通り凍るような視線を盤上に送る氷山凍四朗は表情を崩さずに、

「余裕ですよ。今回は特に。」

と言いながら一番最初に取った歩の駒をパチンと音を立てながら、ネツラの王将の目の前に打つ。

「可哀そうな駒じゃな。いくら歩とはいえ、無駄死にさせるとはな。」

「本当にそうでしょうか?」

 ネツラはグフフと喉を鳴らすように笑いながら、

「命を懸けた戦いでは、こういう事が無いようにせんとな。」

「えぇ、本当に。戦場というは・・・・周りをよく見て動く必要がありますからね。」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるわい。」

 そう言いながらネツラは歩を取るために王将に手を伸ばしかけた時、思わず手が止まる。

「・・・・!」

 もし歩を取ると、次の手で王将がとられるライン上に角行が控えている。それだけではない。どこに動かそうとしても次の手で王将が取られてしまう形が完成しているのだ。

「凍四朗、お前。」

 氷山凍四郎はワザとらしく首を傾げて、

「どうしたんですか?あなたの番ですよ。」

 ネツラは手を伸ばすのを止めて俯き、

「参った。わしの負けじゃ。」

 負けるたびにいつも思うことが一つある。これが命を懸けた本当の戦いで無くて良かったと。

ネツラが心を落ち着かせるために、コップに手を賭けようとした瞬間に音を立ててヒビが入った。

「なんと不吉な。今日のワシはツイておらんようだな。」

「どうやら、今日はあまり動き回らないほうがよろしいみたいですね。」

「あぁ、そうじゃな。ワシはすこし休ませてもらうよ。」

「では、案内役をお呼びします。」

ネツラが部屋を出て行ったあと、ヒビの入ったコップを手に取る氷山凍四郎。

「何かが、動きだしているようだな。」


どたどたと足音を立てて、第三部隊の隊員が氷山総帥のもとへと報告に来た。

「緊急事態であります。『WPKP』のメンバー数名に襲撃されました。」

「『WPKP』が襲撃だと?位置は。」

「現在、第一廊下にて交戦中であります。ですが、敵の力は強大であり、突破されるのは時間の問題であります。」

「分かった。全部隊に対応させろ。ケント達を呼び戻せ。今、すぐにだ。」

「はっ!」

椅子に座らず、立ったままで腕組みをする氷山総帥。

「あの二人が、来たという事か。行先はおそらく・・・『始まりの間』。何としても、阻止せねばな。」

 セトラルド城内は怒号と、銃声、武器がぶつかる音が響く。次々と隊員が切られていく。

「相変わらず、この国の人っは平和ボケしてるって言いますか。」

剣に付いた血を振り払いながら嘆くカラスにのんびりとした口調で、緑のドレッドヘアーをした男が答える

「ホントだよなぁ~ん。物足りなぁ~いん。」

油断を見せる男に、五人の隊員が槍で串刺しにした。

「あれぇ~。やられちゃったぁ。」

と言ったとたん、男の体が草の塊へと変化し、その場に崩れた。

「なにっ。これはまさか。」

「そのまさかだよぉ~ん。じゃあ、お返しねぇ~。」

男が草の槍を振り回し、先ほどの五人をあっという間に降り飛ばし、倒していく。

「僕はぁ、草間宗平。草の古代能力者なんだぁ~。ってあれ?返事がないねぇ~ん。」 

じりじりと隊員の足が下がる。その中から、一人が飛び出していく。

「諦めたら終わりアル。戦いは前へ出るしかナイネ。」

武の拳と、草間の槍がぶつかり合う。

「お前~、元気だなぁ~。良いぞぉ~。でもぉ、君の命はここでぇ~。タイムアップゥ~みたいだねぇ。玲奈ぁ~。任せたぁ。」

ニヤリと笑う草間の後ろから、玲奈が彼越しに剣で武を貫いた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

「武さん!」



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