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深鋭のエクスタリアス  作者: 高城連乃助
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第十三話

 巡回に出ていた凍子からの援護要請を受けて出動した栞が向かったのは中華料理屋。首を傾げながら店内に入るとカウンター席で凍子と肖に挟まれながらガツガツとチャーハンをかき込む八歳くらいの振袖風の服を着た女の子。

「えっと、どういう状況?」

 凍子曰く、人が倒れているという連絡を受けて現場に向かうと、恐らく絡んでいたであろう男数名と恐らく絡まれていたであろうこの少女が地面に突っ伏していた。

 唯一意識のあった少女に話を聞こうとすると、

『なっ・・・』

『な?』

『何か食わせてくれ・・・』

と言うのと同時に腹の音を盛大に奏でたのでここに連れて来たという。

「それで、あなたの名前は?」

 凍子が問うと、少女はモグモグさせながら、

「ワシか?ワシは雷花。雲切(くもきり)雷花(らいか)じゃ。」

「雲切・・・もしかしてあなたは、あの雲切一族の?」

「そうじゃよ。」

「雲切一族?」

 海月が問うと、肖が答える。

「東の国、サムライレントで一番強いと言われている一族です。しかし、そんな人がどうしてここに?」

「呼ばれたからじゃよ。氷山こーしろーという男にな。」

「総帥が?」

 凍子と栞と肖が顔を見合わせていると、食べきった皿に匙を投げ入れる様に置くと、

「その男を知っとるようなら、案内してくれんか?」

「それは構わないけど。」

 すると肖が雷花の左手に気づいた。

「君も、能力者なのか。」

 雷花は肖の顔を見るとニヤッとして、

「聞いて驚くんじゃないぞい。ワシはな、雷撃の古代能力者なのじゃー!!」

 凍子と栞と肖はもう一度顔を見合わせたのだった。



「ゲドルネからの救援要請・・・ですか。」

詳しい事を聞くために雷花を氷山更四郎の元へ連れて来た凍子達は目を丸くした。

「獣人達が突如暴れ出し、ケガ人も出ているために隣国へと避難をさせたいとの事だ。そこで東国からの人員も派遣を頼んだのだが、まさか一人とはな。」

「しかし、何でまたそんな事になったんでしょうか?」

「分からない。だが、一刻も許されない状況だ。行ってくれるね。」

しかし、凍子はすぐさま、

「お断りします。先日向こうから襲撃を仕掛けておいて、具合が悪くなったら助けてほしいなんて。虫が良すぎます。それに、これも何かの罠かもしれませんし。」

すると、後ろから声が飛んだ。

「行ってやればいいじゃねえか。」

「ケント、それにナイトまで。あなた肩の方がまだ治って無いんじゃ。」

ナイトはグルグルと腕を回しながら、

「この通り大丈夫だよ。なっ、ケント。」

ケントは凍子の横に並び立つと、

「敵だとしても助けを求めているならば救助に向かう。それがSETですから。」

さらに、

「しかし、今回の任務はかなりの危険を要すると思われますので、一部のメンバーだけで行きます。」

氷山更四郎は静かに頷き、

「その辺の判断は君たちに任せよう。しっかり頼むぞ。」

はっ、っと返事をしてケント達は敬礼をした。

その頃、ゲドルネとの国境では緊迫した空気が流れていた。レクリエーション施設の管理を任されていたために近くにいた音崎と国境警備隊に向き合っているのは能力によって扉をくぐり抜けてきたらしいウインドゲートとボロボロな姿になったサツキ。

「何か言いたい事はあるか?」

ウィンドゲートはサツキの方を見て、

「こいつのケガを治してやってくれ。俺は、戻らなければならない。」

「分かった。気を付けて戻れよ。」

ウインドゲートは一度頷いてから、音崎に何かを渡すと再び能力で姿を消した。



「気分はどうかしら?」

順番で見張りを任された凍子が問うと、横になっているサツキは仰向けで目を閉じながら、

「捕虜か人質になった人の気持ちが、分かった気がするわね。」

「捕虜って・・・」

「だってそうでしょ?アタシはこの国にとって敵なんだから。」

「それは、・・・」

レクリエーション施設襲撃の事を言えば肯定せざるをえない。しかし、

「本当に敵だと思っているなら、あなたを助けたりはしなかったんじゃない?」

「・・・。」

「ケントが言ってたのよ。敵だとしても助けを求めているなら救助する。それがSETだって。」

「敵だとしても・・・」

凍子は頷いた後で提案する。

「ねえ、サツキ。今回の事が終わったら、戦うのはもうやめましょう?これからは、戦わないで協力ししましょうよ。」

サツキは即座に、

「無理よ。」

「どうして?」

「アタシはね、アタシ達は戦うために生きてるの。戦いの中にしか自分の居場所がないの・・・そこでしか、生きられない運命なのよ。」

すると、サツキはベッドの上で転がって凍子に背中を向けると、問うた。

「アンタはさ、ケントの事どう思う?」

「ど、どうって?」

「仲間として、どう思ってんの?」

「強くて、頼りになる・・・大切な仲間、かしらね。」

サツキは掛け布団を握る手に力を込めながら、

「じゃあ、ケントが死んだらさ。アンタ・・・受け入れられる?」

「分かんない。でも、最後は・・・受け入れるかもしれないわね。」

「そう、なんだ。」

大切な人が自分の前から消えた時、アタシは受け入れることが出来なかった。もし、受け入れることが出来たなら、アタシもSETのままでいられたのかなとサツキは思った。



一年前、サツキが所属していた第三部隊で男性隊員が一人命落とした。

一瞬の出来事だった。一瞬サツキが目を離したすきに捕まえた敵が逃げ出し、それを追いかけている最中に銃声が聞こえ、撃たれた隊員が倒れていた。

(絶対に、許さない。)

怒りと悲しみで一杯になったサツキはすぐに撃った人物を見つけることが出来た。相手の男はサツキに対して跪いて命乞いをし続けた。

しかし、サツキは抜いていた剣を掲げ、振り下ろそうとした時、その腕を掴まれた。

「音崎副隊長。・・・離してください。」

音崎は手を離さずに、

「任務の内容を変えるな。お前の任務はそいつを捕まえる事であって、殺す事じゃない。」

「・・・こいつはアタシたちの仲間を撃ちました。」

「だからって、お前が殺していい理由にはならない。」

「なら!!」

振り払いサツキは音崎の方を見て、

「でもそれじゃあ、エリックは・・・何の為に死んだって言うんですか!?」

すると音崎は驚きの言葉を口にした。

「エリックの事は忘れろ。」

「えっ?」

動きを止めるサツキに対して彼女の横を通ると音崎は男の身柄を押さえて連行し始めた。その背中に問う。

「エリックを忘れろって、どういう事ですか?」

「どうもこうも、そのままだ。エリックの事は忘れろ。あいつはもう・・・いないんだ。」

少しずつ離れていく彼らに叫ぶように、

「そんなの、出来るわけないじゃないですか!?」

音崎は足を止め、吐き捨てるように

「なら、SETを辞めるんだな。」

こうしてサツキはSETを去る一方で、連行された男が翌日遺体で発見された。



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