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深鋭のエクスタリアス  作者: 高城連乃助
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第九話

思い出から我に返った時、顔の近くに山井博士の顔がある。いや、近すぎて視界の中に彼の目しか見えない程に。

「何を思い出していたのかね?」

「昔の事を少しな。」

「ほう、それは興味深い。詳しく知りたいね。」

「とりあえず、離れてもらいたいんだがな。」

「これは、失礼。」

 山井博士は一定の距離まで下がり、

「ところで、一つ質問して良いかな?君もいずれ、誰かに隊長の席を譲り渡すことになると思うんだが・・・。」

「そんな事、思ったりしたことねえな。」

「だから、いずれと言っているだろう。さて、君は将来誰が隊長、はたまた総帥になると思うかね。」

 音崎は携帯用の灰皿に灰を入れながら、

「さあな。まぁ、総帥に限って言えば俺がなる事は無いな。」

「ほう、そうかね。」

「国民を守る事は出来ても、束ねるまでの器は持ち合わせていないんでね。」

「なるほど。じゃあ、もう一つ。大神君の事をどう思うかね?」

 音崎は少し嬉しそうに、

「あいつは心、技、体、どれも良いものを持ってる。隊員の中で、あいつが一番隊長に向いてるんじゃねえかな。」

「だが、あまりにも優秀だと大神君まで出ていくと言い出すんじゃないかな?」

 音崎は灰皿に煙草を押し込んでから、それをポケットにしまい、

「ケントまで出ていったらヤマトの事が表に出るだろうよ。それに、もう一人の事もな。」

「もう一人、糸尾ユイナの事だね。」

 ケント達の学年から二つ上の元SET隊員だった少女。彼女もまたヤマトと同じく一部の人間しか知らないうちに姿を消した一人で、ケントは彼女に憧れていた。

「皆で必死に止めるさ。それじゃ、俺はそろそろ戻るけど、博士はどうするんだ?」

「僕はもう少しここにいるよ。調べたいことがあるからね。」

 手を振って音崎を見送った後で思い出した。山井博士は一番聞きたかったことを聞くタイミングを逃した事に。



白さと透明さが入り混じった氷の壁が、サツキとケント達の間に出来上がるが急ごしらえの為に厚みはないのでサツキがすぐに破壊する。しかし、その間に凍子はケント達の前に立ち、もう一度彼女の剣を受け止める事ができた。左手の甲を水色に輝かせる凍子の腕からはピキピキと音を立てながら氷が生えてくる。

「あなたに見せるのは初めてだったわね。これが、身体能力を上げてくれる通常のものとは違う古代能力(エンシェントエクスタリアス)の一つ。属性は氷。そして、その氷に触れた者には・・・。」

「!?」

 サツキは手に冷たさを感じ、その後痛みを感じて後ろに下がってからその手を抑える。その姿を見る凍子に優越感はない。寧ろ、これほどの能力がありながらと自分で思う事の方が多い位だ。

「決着は着いたわ。さぁ、早く引き上げなさい。」

 サツキは上目遣いでこちらを睨みながら、

「戦いはまだ、終わってない。それにね、敵に帰れって言われて「そうするわ」って帰れるわけ、ないじゃない!!」

「見上げた根性だな。」

「「!?」」

 サツキとケント達の間の床に真っ黒な渦が現れ、それが竜巻のような形を作り、そしてその空気の中から黒いフードコートを被った男がサツキの方を向いて現れた。

「だが、お前の負けだ。」

「ウインドゲート、どうしてここに?アナタの担当は(ゲート)のはずでしょう?」

「・・・勝負が決した以上、戦場にいる理由はない。それともまだ、ワガママを言うつもりか?」

 ウインドゲートの放つ威圧感に、サツキは可愛げもなく音を立てて舌打ちをして頷いた。

「待ちなさい。」

 背中を向けた二人を凍子が呼び止める。

「私はあなた達を見逃すわけにはいかないわ。」

「いや、今回は見逃してやるよ。けど、次会ったときは容赦しないからな。」

 どっちなのよ、と言いたそうな顔をサツキが見せてから、二人は背中を向けて黒い空気とともに消えていった。

「何あっさり取り逃がしてるのよ、この馬鹿!!」

 しかし、ケントは答えずに歩き出し、その背中に乗る海月は思い出そうとしていた。

(凍子さんは、氷の能力者で、氷の壁を・・・作る。)

 だが、緊張感が解けて眠ってしまったのだった。



 目の前の敵を見逃してあげるなど、ケントにしては軽率な行動だと思う。

「一体どういうつもり?」

 すると、ケントは足を止めて、

「サツキと一緒にいた奴・・・。」

「ウインドゲートって呼ばれていた人ね。」

「ウインドゲートは多分、ヤマトだ。」

 確かにウインドゲートはヤマトの名字である風門と一致している。

「本人・・・なのかしら。」

「顔を見たわけじゃないからな、確証がない。」

「でも仮にさっきの人がヤマトならサツキとの会話とかに疑問があるわ。」

 ケントは凍子の方に振り向き、

「ゲドルネにいた事は別に変じゃない。だが、一番大きな違いはヤマトの能力が変わっているって事だな。」

 通常、能力(エクスタリアス)は一度それに目覚めた時からずっと変わらないと信じ込まれていた。

「ここで考え込んでも仕方ない。とにかく今はナイト達と合流しよう。」

「そうね。」

 二人は移動のスピードを上げる。その道中、所々割れた窓ガラスから吹き込む風を感じながら、凍子はウインドゲートがヤマトなのかという事に答えを見出そうとしていた。本当にそうならば、なぜゲドルネにいて彼らに力を貸しているのか。なぜ彼らは私たちの前から姿を消したのか。

 しかし、その答えを出す前にナイト達に合流し、再び剣を振りかざして獣人達を片付けていく。最後の一匹を倒し終えた時、ナイトはその場に座り込んだ。

「あ~、疲れた。もうちょっと早く来てくれよ。」

「ごめんなさい、実はね・・・」

と凍子が言いかけた所でケントがワザと声を大にして。

「悪いな、こっちはこっちで囲まれてたんだよ。けど、音崎隊長の訓練とかよりはいくらかマシだろう?」

「あぁ、それは言えてる。あの人、男子に対しては厳しいからな。」

 そしてケント達は持っている銃の弾数を確認しあってから、

「次の敵が来ないうちに撤退、と言いたいがナイト、頼みがある。」

 そして、五人は移動を始めた。



「それにしても、何考えてるんだろうな?」

 海月を背負う役を代わっているナイトが凍子に問うと、

「あなたが分からないのに、私が分かるわけないわ。」

「そうなのか?」

「そうよ。あなたの方が付き合い長いでしょうから。」

「・・・意外と同じくらいだったりしてな。」

 移動を開始する前にケントはナイトに栞を背負って脱出するように伝えた。

「お前はどうする?」

「俺は輝木(かがやき)と一緒に副所長を探す。凍子はナイトに同行してくれ。」

 本来ならばここで勝手をしないでとお叱りの言葉をもらうかと思いきや、凍子はケントと目を合わせてから、

「分かったわ。でも、これだけは言っておくわ。」

「何だ?」

「ちゃんと、全員揃って戻ってくるのよ。」

「あぁ、約束だ。」

そうして二組に分かれた後のケント達というと、片っ端から探していくのかと思いきや一目散に船飛と会った規制線の引かれた場所へと向かう。だが、そこには規制線もなければ、その先の部屋も鍵が掛かっていない。一応中を確認するが、何一つ残っていなかった。

「よし、次行くぞ。」

 まるで何かを確信したかのようにケントはくるっと方向を変えて走り出すので肖も続く。他の部屋に目もくれないケントに、

「今度はどこへ行くんですか?」

「コントロールルームだ。」

「あそこにはもう誰おいないはずですよ。他を探しませんか?」

 すると突然足を止めたので肖はケントの背中にぶつかりそうになった。

「いや、まだ一人残っているはずだ。」

「どういうことですか?」

「その説明を俺がする必要は無いみたいだぜ。」

 ケントを避けるように顔を出すと、先にいるのはコントロールルームの入口前に立つ音崎。

「よう、やっと来たな。お客さんが中で・・・お待ちだぜ。」


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