プロローグ
どれほど激しい雨が降ろうとも次の日にはカラカラに乾いてしまう地を三台の車が西にある国の方へと走っていた。
真ん中の車で腕組みをしながら後部座席に座る男性の名前は氷山更四朗といい、つい先ほど出てきた軍事国家、《シュロス・セトラルド》で軍の総帥を務めており、重大な最終決定などは全て彼に一任されていた。
そんな彼の隣に座る一人の少女は、ある罪を犯したとしてこれから国を追い出されるのだが彼女はボーっとただひたすら窓から外を眺めていた。
自国のみならず、ありとあらゆる場合に出動し最善の行動を求められるトップ集団『サバイバル・エリートチーム』通称、SETの第一部隊に所属していた彼女がどうして母国を追放されなければならないのかと疑問に思われるのだが、それには一つの理由があった。
氷山更四朗には信じがたい特殊能力があった。それは、未来を創造してから眠るとどんな未来が待ち受けているのかが夢に現れるというものだ。
その能力を発揮しながらこれまでの《シュロス・セトラルド》を発展へと導いてきた。そして、自分が立案した計画を進めようかと考えた矢先、彼は夢を見た。
《シュロス・セトラルド》の地下深くに存在する世界の安定を保っている一本の大木、《世界の大木》を隣に座る少女が破壊し、それによって世界中が火の海となり全てが崩壊の一途を辿った。だからこそ、自分の計画が間違っていたとは思いたくない氷山更四朗は決断したのだ。
隣に座る少女の名前は糸尾ユイナといい、肩まで伸びた黒髪がよく似合っていていて顔立ちも良い。もし同じ時代に生まれていたならば、間違いなく惚れていただろう。訓練生時代から成績優秀で常に危険が伴うSETにしておくのはもったいないほどだ。
今、彼女は何を思っているのかと声を掛けようとした時、それを遮るかのように停車した。
身長の二倍はあろうかという大きな扉の前に氷山更四朗とユイナが立ち、周りを武装した隊員が囲むように立つ。
静かに扉が開いていき、その動きが止まるのを確認してから氷山更四朗が呟くように言う。
「さぁ・・・・行きたまえ。」
「・・・・はい。」
ユイナは返事をすると真っすぐ前を見ながら扉の向こう側へと歩いていき、再び扉が閉まる方向へと動き出す。
閉まりゆく扉の向こう側でユイナは氷山更四朗を見ていた。表情を変えず、言葉を発することもなくただこちらを見ていた。
(これで・・・・これで良いのだ。)
心の声で自分に言い聞かせてから氷山更四朗は車に乗り込み、走る車のサイドミラーから離れゆく扉を見ていたが、もう会う事もないだろうと思い静かに目を瞑った。