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魔法少女は男の娘  作者: ぴえ~る
第四章 二人の戦い
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4-8 魔法と魔導の力

「まさか魔法協会の人間と手を組むことになるとは思わなかったな……」

 クリスは、隣に並んでいるユリアを見つめて口元を綻ばせた。

 二人は巨人の心臓部――魔石と同じ高さまで浮かび上がって、武器を構え、戦闘態勢に入っていた。

「ライバルだった相手が味方になるってのは、やっぱり王道展開としては外せないよね」

「…………? キミが何を言っているのかは理解できないが――それにしても、綿谷翔斗。あいつは何者なのだ? 僕とキミの魔力をゼロから満タンまで回復させてしまうなんて、単純な魔力保有量だったら、軽く僕たちを凌駕しているということだぞ。この世界の人間は魔力を宿していないと聞いていたのだが」

 当の翔斗は、公園のベンチで穏やかな寝顔で眠っている。

「さすがのボクも翔斗クンがあそこまで力を秘めていたなんてのは予想外だったよ。でも翔斗クンが何者かなんてのは考えるまでもないことだから、クリスさんにも教えてあげる。ボクの大切なパートナーで、大事な友人だよ」

「くくっ、そういうことにしておこう。それじゃあ、キミの友人から譲り受けた魔力を使って、さっさと目の前の木偶人形をやっつけるとしようか。手はず通りによろしく頼む」

「うん、大丈夫。まずはボクがあの硬そうな身体を突き破って魔石を露出させるから、クリスさんは露出した魔石をピンポイントで仕留めて一気に封印。信用してるからね」

「ふふっ、誰に物を言っている? キミに遅れを取ったとはいえ、僕は魔導騎士の正当な後継者だぞ。今度はヘマなんてしないさ。それじゃあ、始めようか」

 巨人へと向き直り、二人は同時に魔方陣を展開する。

 まずは第一陣として、ユリアが体内で魔力を練ってチャージを開始した。その間にも、クリスは集中状態に入り、自分がこれから放つ魔導のイメージをしっかりと脳内で固めておく。

「翔斗クンからもらった力。全力以上の力を以て、ボクはその強固な守りを破壊します」

 凜とした表情から生み出される凜としたユリアの声。それは普段のユリアからは考えられないような真剣味を帯びていた。

「光は時に純然なる破壊をもたらす。ボクの中に宿る翔斗クンの力で、ここに破壊という結末を与えん」

 ユリアは一度言葉を切って、巨人の体躯を見据えた。

神光滅殺ジャッジメント

 それは無差別な破壊。一方的な殺戮。もしくは破壊兵器と言い換えともいい。

 天から落下した星々が、絶え間なく巨人の体躯へと降り注ぐ。轟音が響き渡り、巨人を中心として衝撃破が起きると、あっという間にその巨体が粉塵によって隠れてしまった。

 ユリアの放った魔法の威圧感を、ユリアの隣でひしひしと感じ取ったクリスは、一つの疑念を抱いていた。

(ひょっとして、この子は僕と戦った時は本気ではなかった……!? それとも、翔斗の魔力を得たことで、さらに力を得たのか……)

 けれど、今はそんなことはどうでもいい。クリスがこの場でするべきことは、ユリアについて分析することではなく、与えられた役割をこなすことだ。

 やがて爆発によって生まれた霧が晴れると、巨人の外殻がボロボロに崩れ去り、魔石が露出しているのが見えた。

「クリスさん、あれっ!」

「言われなくとも、見えてるさッ!」

 クリスが左手を前に突き出すと、その手には魔導で具現化した、美しいアーチを描く金色の弓が握りしめられていた。流れるような仕草で、彼女の武器であるレイピアをつがえると、レイピアが金色の矢へと変貌を遂げる。

「我が血に宿るシャールの魂よ、その悲願を果たすため、我に一族の力を貸したまえ」

 呪文を紡いで、クリスは強く弓を引き絞る。

「駆け抜けろ。神の力を持つゴッドアロー

 クリスが放った矢は、導かれるようにして一直線に魔石に向かって、夜空を駆け抜けた。

 しかしそんな芸術的な飛行もわずか一瞬のことで、すぐさま神の矢が魔石を貫いた。

「力を鎮め、あるべき姿に戻れ」

 矢が魔石を穿ったのを確認して、クリスはすかさず、パチンっ、と指を鳴らして、封印の呪文を紡いだ。

 やがて鈍い点滅を繰り返していた魔石は光を失い、そして魔石の光が失われるとともに、その外殻となっていた巨人の姿もゆっくりと崩れ去り、その大きな身体が消失した。

 ――まるで初めからそこに何も存在していなかったかのように。

 魔石が完全に力を失ったことを確認して、ユリアは空中に漂っていた魔石へと近づいて、それに手を伸ばす。

「ふう、今度こそ一件落着だね」

 光を失った魔石を掴んで、ユリアは一言呟いた。

「クリスさんもお疲れ」

「ああ、無事に大役を果たせたようで何よりだ」

「クリスさんはさ、これからどうするの?」

「とりあえず、魔石に関しては徒労に終わったことだし、さっさとこの世界からは退散するさ。魔石がこの世界に落ちたという情報も、あまり褒められないようなルートから得たものだし、魔法協会の連中に目を付けられないうちに退散するよ」

(心残りは……)

 思い浮かぶのは純太の顔。

(だけど、僕と純太は元々違う世界に住む人間同士。もともと交わってはいけない関係だったんだ。だから僕もさっさと身を引こう。手遅れにならないうちに……)

 ――父がそうしたように、クリスもこの世界からさっさと身を引くべきだろう。

「さて、僕はすぐにでも出発するつもりだが、キミは僕を魔法協会に突き出すか?」

「やめておくよ。ボクが受けた任務は魔石の回収であって、魔導騎士の殲滅じゃないからね」

「なるほど。世話になったな。もし、どこかで道が交わっていたら、また相まみえることがあるだろう。そのときは味方としてキミと手を組みたいところだが、そう簡単にはいかないだろうな」

「神のみぞ知るってところだね。とりあえずクリスさん、お元気で。今日は楽しかったです。それと最後は助かりました」

「ああ……。勝負に負けた僕としては、あまり楽しいものではなかったけどな。それじゃあ」

 クリスはそれだけを告げて、ユリアと決別するように公園を後にした。その時の彼女の口元は満足げに綻んでいた。

 ――それは、春の夜の満月が輝く日のことだった。

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