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魔法少女は男の娘  作者: ぴえ~る
第四章 二人の戦い
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4-6 クリス・シャールの決意と意地

 お互いが激しく主導権を奪い合い、そのたびに二人の間合いが激しく変化する。

 クリスは近接戦闘に持ち込むと、ユリアの防御を散々崩してから、必殺の一撃を放つのだが、ユリアは巧みにそれを回避して離脱する。

 そして射撃が出来るような遠距離の間合いになると同時に、ユリアが回避不能な砲撃を放つも、クリスはそれを気合いではじき返す。

 そんな攻防が何度も続き、二人の魔力は底をつき始めていた。

 紳士然としたクリスのタキシードは所々に穴が空き、露出した肌からは切り傷も窺える。一方で、ユリアの装いも、フリフリの服やスカートの裾のあちこちが破れてしまい、ボロボロになってしまっている。

 その見た目からも、両者がすでに満身創痍である様子が窺える。

 そして現在、その激しい戦闘も一息つき、そこには沈黙が流れていた。二人はクリスの近接攻撃からは遠すぎて、ユリアの射撃距離には近すぎる、言わばその中間の間合いにあって視線を交わしていた。

「ふう……、ちょうど一段落がついたところで、ボクから提案があるんだけれど……」

「ん、なんだ?」

 唐突なユリアの申し出に、クリスは眉をしかめて警戒しながらも、その内容に耳を傾けることにした。

 それは好敵手と認めた相手に対する、クリスなりの敬意だった。

「このままチマチマ削り合うってのも悪くないんだけれど、せっかくなんだし、ここは一発、お互いの最強の魔法で勝負を決めるっていうのはどうかな? どうせお互い魔力もそんなに残ってないでしょ?」

 最強魔法の打ち合いというと、どうしてもお互いに距離を開けての射撃戦となる。

 一見すると、ユリアが圧倒的に有利に思えるがそうではない。クリスとて、決して遠距離における射撃が苦手なわけではないのだ。むしろ、魔法の詠唱や起動時間を考慮外とするならば、遠距離における射撃のほうが単純に威力の高い魔法を放つことができる。

 近接攻撃だと、どうしても自分が巻き込まれる可能性がある以上、威力というよりは手数の勝負になってしまう。

 それでも近接戦闘を得意としているのは、戦闘のおける効率的な良さに他ならない。単純な威力勝負ならば、クリスも負けるつもりはない。

 魔法が魔導を上回っていることを証明するためにも、この勝負から逃げるわけにはいかないのだ。

「わかった。その勝負受けて立とう」

 お互いに射撃戦の距離になるように、少し後ろに下がって距離を取った。

 一瞬の間をおいて、二人が同時に魔方陣を展開して詠唱に入る。

 桜色のユリアの魔方陣と、黄金色のクリスの魔方陣。

 強大な魔法を使用するには魔方陣の展開と、長いチャージが必要となる。普通に考えれば、一対一の対決中に、このように隙を見せる魔法を使用することなどあり得ない。

「この世に息吹くすべての魂よ――」

「シャールの名において命じる――」

 二人が呪文を呟き始めると、その周囲を取り巻く魔力が一気に跳ね上がった。

「今ここに、我にその力を貸したまえ――」

 その瞬間、ユリアの持つ威圧感がより一層跳ね上がった。

「――っ!!」

 そのとき、クリスの脳裏に一つの予感が駆け巡る。

(ダメだ! この魔法の打ち合いじゃ、僕に勝ち目がない……!)

 クリスが相当な手練れであるからこそ、相手の持つ力の大きさというのも瞬時にわかってしまうのだ。

 ユリアから溢れる巨大な魔力を感じ取り、クリスの持つ力の比べた上で、内心で負けを認めた。が、それでも勝負を諦めるつもりは毛頭なかった。

 即座に詠唱を中止させ、クリスは隙だらけのユリア目がけて、必勝の魔法を放った。

拘束バインド!?」

 その直後、ユリアの四肢が、空中で金色の輪に固定される。

「…………っ!!」

 自分の身に起きたことに驚愕したユリアが、うめき声を上げて目を白黒とさせている。

 そうして、空中で磔の状態で固定されたユリアは、クリスの行動に虚を突かれたあまり、詠唱を中止させてしまった。

「キミを好敵手として認めた上で確実に攻撃を当てる最良の策だ。卑怯だと罵られようと、僕は負けるわけにはいかないんだッ!」

 たとえどれだけ泥くさかろうと、勝利という結果だけでも手に入れるというクリスの執念がそんな行動に走らせた。

 金色の輪に囚われたユリアは脱出を図り、身をよじって抵抗を試みている。

「これが、クリスさんが考えた最良の一手なんでしょ? 真剣勝負に卑怯なんて言葉はないんだ。勝負には、勝つか負けるかの二つだけでしょ? 馬鹿なボクが油断をした。これは、ただそれだけの話だよ」

 こんな状況に陥っても口元を綻ばせるユリアは、どこか楽しそうですらあった。

 もしかして、反撃の手を用意しているのか、という考えがクリスの脳裏によぎったが、ユリアが何を考えていようが関係ない。必殺の一撃を打ち込んで、この戦いはおしまいなのだから。

「そう言ってくれると僕も救われる」

 胸の前でレイピアを構え、クリスは再度魔方陣を展開させて、詠唱態勢に入る。

「シャールの名において命じる。目の前に映る好敵手てきを、我の持つすべての力を以て、破壊し尽くせ」

 直後、ユリアの周囲の空間に金色の槍が、一本、二本と生まれていき、その数がやがて二十本になった。

「…………っ」

 二十本の槍の刃先を向けられたユリアが息を呑む声が、クリスの耳にも聞こえてきた。

「降参してカケラを渡してくれるのなら、この槍を引っ込めよう。念のために聞くが、降参してはくれないのか?」

「まさか……、クリスさんだって、ボクが降参するなんて思ってないんでしょ?」

「もっともだ。だが容赦はしない。僕の全力の一撃。受けてくれッ!」

 クリスは高ぶった気持ちをそのままぶつけるかのように、レイピアの切っ先をユリアへと向ける。

「槍よ、すべてを貫く刃となれ! 雷神槍撃ライトニングランサー!!」

 クリスの号令の元、ユリア目がけて一斉に槍が射出される。

 爆発や、砕け散った槍が創り出した濃密な霧にユリアは呑まれてしまい、あっという間にその姿は見えなくなってしまった。

「はあ……。はあ……。これが僕の力だ」

 数秒後、やがて二十発分の槍が打ち終わったところで、完全に魔力を使い果たしたクリスは、ユリアを拘束していた金の輪も消失させていた。

 もはや基礎行動と飛行状態を保つだけで精一杯の状態だった。

(手応えはあった。間違いなく直撃だった……)

 自分の魔法に自惚れるつもりはないが、それでもあの直撃を食らって、耐えられる姿というのは思いもつかない。だからこそ、クリスは自身の勝利を確信した。

 だからそれは自惚れでもなければ、油断でもない。

 ――その時だった。

「――えっ!?」

 霧が晴れた向こうにいるのは、意識を保った状態のままで立っているユリアの姿であった。

 そして、意趣返しとばかりに、クリスの四肢がピンク色の輪によって空中に固定され磔の態勢を強要される。

「な、なぜだ……!! なぜ、キミは無事でいられる!? 僕の魔法は直撃したはずなのに」

 自分の目の前で起きている状況が信じられず、クリスはパニックを起こして叫んでいた。

「直撃はしたよ。でもボクはそれを防御した。これは、たったそれだけの単純なこと」

「馬鹿なッ……!! 拘束されたキミに防御を展開する余裕はなかったはずだ」

「そうだね。でも、事前に言ったでしょ。最強の魔法で勝負しようって。だから、ボクは最強の防御魔法でクリスさんの最強の攻撃魔法に対抗した」

「それじゃあ……」

「そう。ボクがさっき詠唱していいたのは、クリスさんの攻撃を耐えるための防御魔法だよ。拘束されたとき、あとは魔法を発動するだけの状態だったから、拘束されていようと何も関係なかったんだよ」

 説明は終わった、とばかりにユリアは新たに魔方陣を展開する。

「天に輝く星の光よ。今こそ我にその力を貸したまえ」

 ユリアの魔方陣の周囲に漂っていた魔力が、ユリアに導かれるようにユリアの元に集められていく。その中には、先ほどのクリスの一撃によって霧散した魔力も含まれていた。

「キミは僕の魔力まで再利用しようをするのか! 卑怯だぞ」

 苦し紛れのクリスの物言いも、ユリアを出し抜こうとしていた背景を考えると何も説得力がない。

「ふふん、さっきも言ったでしょ。真剣勝負にあるのは、勝つか負けるかの二つだけなんだよ」

 得意げに口元を綻ばせたユリアは、空中で力強く一歩踏み出して、ステッキを振り下ろした。

砲撃発射バスター!」

 号令とともに、ユリアのステッキから発射された桜色の巨大な砲撃が、クリスというちっぽけな存在を飲み込もうと迫ってくる。

「…………」

 夜空を駆け抜ける一陣の閃光は、さながら流れ星のように輝いていた。

 拘束されているということもあり、防御もままならぬ状態での直撃。

(僕の負け……か)

 ――そんな流れ星に、クリスは自身の願い事と一緒に飲み込まれてしまったのだった。

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