4-5 焦るクリス
しかしそんな中、徐々に焦りを見せ始めていたのは、主導権を握っているはずのクリスのほうだった。
自分の得意分野に相手を引きずり込んでいるにも関わらず、決定打を与えられていないからだ。
しかも相手はこれまで何度か死闘を繰り広げてきたユリアである。手強い相手だからこそ、ちょっとしたことで主導権を手渡してしまうことになりかねない。そのため、このまま相手にできるだけ何もさせずに、さっさと勝負を決したいという思いがあった。
突き出したレイピアが、ユリアのステッキに阻まれた瞬間、クリスはすかさず呪文を紡いだ。
「雷よ、一陣の光となりて、敵を貫け。閃光雷牙」
ユリアの眼前――レイピアの先端から生まれた一筋の閃光が射出され、ユリアの身体を貫く……はずだった。
(手応えが……ない?)
いつの間にか、クリスの目の前からユリアの姿が消えており、閃光はむなしく夜空を駆け巡っただけだった。
「光柱追突!」
声が聞こえた方向を見上げると、満月を背景に佇む美しい魔法少女の姿が目に映った。それと同時にクリスの真上に巨大な光の柱が生まれ、クリスを押しつぶそうと落下を開始した。
底面が正方形である光柱。その面積の大きさから判断して、回避するのを不可能だと判断したクリスは、金の盾を三枚重ねて防御態勢を取った。
前回はこの技で盾を突破されて苦渋を舐めさせられたのだから、過剰とも言える防御はその反省を踏まえた上でのものだ。
「ぐぐっ――!!」
柱が盾と衝突した瞬間、ものすごい衝撃が襲ってきたが、それでもクリスは歯を食いしばって、落下してきた光の柱の衝撃を受け止める。
先日クリスが受けたものよりも、さらに威力が増しているのか、一枚目はあっさりと破られた。そして二枚目、光の柱の落下速度は徐々に遅くなってはいるものの、それでも完璧に防ぐことは叶わず、破られてしまった。さらに三枚目に衝突した瞬間、その衝撃が盾を通して腕に伝わってきた。
――ピキッ。
三枚目の盾にひびが入る様子が目に入ったが、それでもクリスは怯むことなく、裂帛の気合いとともに力の限り光の柱を押し返した。
「うあああああああああああああああああーーーーーー!!!!!!」
すると、ようやく光の柱の落下は収まり、エネルギーを失った光の柱は空気中に霧散した。
「はあ……、はあ……」
息が上がりながらも、追撃に備えて、レイピアを構えるクリスだったが、ユリアからの追撃はなかった。
「そうだよね……。こんな程度じゃまだまだ勝負はつかないよね……」
息を整えながら、ユリアはクリスを見下ろしている。
今の攻防でかなりの体力と魔力を消耗してしまったクリスだが、こちらを見下ろしているユリアも、その表情には余裕がなくなっているように見えた。
――しかし、こんなものはこれから始まる死闘の第一部に過ぎなかった。




