4-4 戦いの始まり
「束の間の休日は楽しめたかい?」
「それはお互い様じゃないかな。ボクにとっては、人生でも屈指に入るくらいの最高の休日だけど、きっとクリスさんも楽しい休日になったでしょ?」
いつぞや翔斗とクリスが言葉を交わした公園で、今度はユリアとクリスが数歩分の距離を開けて対峙していた。
翔斗はそこから少し離れた場所で立会人として二人の様子を見守っていた。
すでに二人は戦闘服にチェンジしており、周囲には人払いの結界もしっかり張られている。
「約束通り、僕は五つのカケラを集めた。忘れて来ていたりはしていないだろうが、ユリア、キミが持っているカケラも、念のために確認させてくれ」
「もちろん。ボクも約束通り五つ。ちゃんと持ってきたよ」
お互いに懐からそれぞれ五つずつのカケラを取り出すと、相手に見せびらかすように手のひらの上でその五つを浮かび上がった。
「ああ、確認した。それじゃあ、ベラベラとしゃべる趣味もないし、さっそく始めようか」
「うん、そだね」
カケラを懐にしまって、二人は自分の武器を握りしめて相手を見据える。
――二人の視線が交錯した瞬間。
「「はああああああーーーーーーーーー!!!!!!」」
気合いの一声とともに、両者が同時に地面を蹴り上げた。二人が立っていた場所のちょうど中間で、レイピアとステッキが交錯し、大地を揺らして大気を振るわせながら、美しくて激しい音を奏でる。
それはまるで、これから始まる激しい戦いの開始を告げるゴングのようだった。
ゴングの音が鳴り止まぬうちに、ユリアはすかさず距離を取って上空に離脱するが、クリスもそれに続いて飛び上がった。
「光弾発射!」
小手調べに、振り返ったユリアが三発の光弾を発射させると、クリスは回避動作を取ることもなく、金色の盾を出現させて難なく防いだ。
クリスはそのまま一気にユリアとの間合いを詰めてレイピアを突き出すが、ユリアはすかさず障壁を展開し、それを受け流して、その場から離脱する。
――そんな牽制の攻防が何度か続いた。
遠距離攻撃タイプのユリアと、近接攻撃タイプのクリス。お互いが自分の土俵に巻き込もうと画策しているのだが、どちらも簡単には相手の土俵に乗ってくれない。
そんな中、先に主導権を握ったのはクリスだった。
レイピアがユリアの障壁に阻まれた瞬間、クリスは残っていた左手をユリアへと掲げた。
「雷の精霊よ、ここに裁きを下したまえ。螺旋雷光」
手のひらか発射された雷光が、螺旋状に回転しながら、ドリルのようにユリアの障壁を抉ろうとしてくる。
「くっ――」
ユリアは咄嗟に障壁を重ねることで防いだものの、それでも簡単に雷光の勢いを抑えることができずに、数メートル後退する。今の防御だけでかなりの魔力を消費させられた。
ユリアがほっとしたのも束の間、すぐさま追撃を仕掛けるために、レイピアを突き出したクリスが迫っていた。たまらずユリアがステッキを出して、それを受け止めてしまった瞬間、ユリアは胸中で舌打ちをした。
「ふふっ、近接戦闘は僕の土俵だよ」
これだけ近づいてしまえば、魔法による射撃をするような間合いも、障壁を張って攻撃を防ぐ余裕もない。できることはといえば身体能力と武器を強化しての武器の打ち合いだけだった。
ユリアがレイピアによる攻撃を受け止めて、咄嗟に後ろに飛んで距離を取ろうとしても、すぐさまクリスが追いかけてくる。後ろに飛ぶよりも、前に飛ぶほうがスピードがでやすいのは空中でもおなじことである。
ユリアは打開策を画策しながら、必死にクリスの攻撃を防ぐことしかできなかった。その姿はまさに防戦一方という言葉が相応しいだろう。




