4-3 一緒にいた証
クリスたちと別れた後、翔斗とユリアは駅前の店を一通り冷やかした後に、アクセサリショップへとやってきた。
店内は可愛らしい装飾に満たされていて、とてもじゃないが翔斗一人では入れそうもない雰囲気に満ちていた。大通りに面している結構大きめの店で、客層は女の子のグループか、もしくは恋人同士といった感じだった。少なくとも、男二人組で来店しているようなお客さんは見当たらない。
「実はね、欲しいものは決まってるんだ」
軽い足取りで店内を進んでいくユリア。翔斗はその背中に続いた。
「さて、どれがいいかな?」
ユリアは指輪のコーナーで立ち止まって、商品を物色し始めた。おしゃれ関係にはとことん弱い翔斗は、とくに口を挟むことなく、その後ろでユリアが選ぶのを待っているつもりだった。
「この世界にはペアリングっていう文化があるんだよね。だから、翔斗クンとお揃いのペアリングを買おうと思ってるんだ。翔斗クンも他人事じゃないんだから、真剣にどれか選んでよ」
ユリアの衝撃発言に、翔斗は思わずむせてしまいそうになった。
「いやいや、俺だって詳しくはないけどさ。ペアリングってのは、普通は恋人同士で嵌めるもんなんだって。決して同性の男同士で嵌めるものじゃないんだよ」
「大丈夫だよ。ボクが何も言わなければ、ボク達は普通の恋人同士にしか見えないからさ」
「いや、それはそうかもしんないけどさ。問題はそこじゃないんだけど……」
「もし、本当に嫌だったら、ボクがいなくなった後に捨ててもらってもいいし、お金だってボクが出すから。ただ、せっかくこうして翔斗クンと時間を過ごせたんだから、その証として、何か形に残るモノが欲しいなって……」
(ああ、そうか……)
あまりにも濃密な時間を過ごしてきたせいで、実感が沸かなかったが、早ければ今日にもユリアの任務は完了し、元の世界に戻ってしまうのだ。
そのことを実感して、翔斗の心臓がキュッと締め付けられる。
「ボクにとって、大事なのは、翔斗クンと繋がっていられるかもしれないという幻想なのであって、だからボクがいなくなった後に翔斗クンがそれを捨てたとしても、ボクは繋がっているという幻想を持って生きていける。だから――」
どんどん低くなっていくユリアのトーンに耐えきれなくなった翔斗は、
「なんだよ。ややこしいこと言いやがって。いつもみたいに強引に話を進めりゃいいじゃねえか。別に俺は嫌じゃねえし、一緒に買ったもんをわざわざ捨てたりするわけねえだろ。っていうか、ユリアは俺のことをそんな薄情な人間だって見てたのか?」
翔斗がポリポリと後頭部を掻きながら言葉を述べたのは、素直な気持ちを言葉にするのが気恥ずかしかったからだ。
「違うの。そうじゃなくって――」
「ああもう。わかった、わかったから、ちゃっちゃと選べよ。どのみち俺のセンスじゃ碌なモノを選べねえから、そのへんはユリアに任せるからな」
「うんっ!」
心から幸せそうな笑みを浮かべて頷いたユリアは、改めて商品棚を物色し始めた。
(ま、こういうのも悪くねえよな)
見ているだけでこちらも幸せになれるようなユリアの笑顔。そんな笑顔が見られるのならば、少しくらいの恥ずかしい思いなんて安い代償だろう。
(スカートを履いて飛び回ったせいで、恥ずかしいことに対する耐性がついたのかもな……)
結局、ユリアが選んだのは、銀一色のシンプルなデザインのペアリングだった。
これさえあれば、例え世界が二人を隔てたとしても、永遠にその思いをつなげることができることだろう。
――そんな馬鹿馬鹿しい想像をしてしまった翔斗は、恥ずかしさに頭を抱えたくなった。




