4-2 敵の姿
「何も聞かないのだな。純太は」
翔斗とユリアが見えなくなっても、クリスはその背中を目で追っていた。
「事情は人それぞれだしね。別に相手のすべての事情を理解していないと人付き合いができないってわけじゃない。むしろ、いちいち自分の事情を話さないと信頼されない人付き合いなんて堅苦しくてしょうがないよ。クリスさんにも何か事情があるのかもしれないけれど、その事情は俺には関係ないことだから俺には話さない。それでいいんじゃないかと俺は思ってるんだけどね」
「ふっ、こうして純太に出会わなければ、僕はこの世界で生きていけなかっただろうな……」
クリスは口元に笑みを浮かべながら、誰にも届かないような小さな声で囁いた。
「ん? なにか言った?」
「いや、なんでもない。僕は中々運に恵まれているなと思っただけだ」
おそらくはこれが純太と過ごす最後の日になるだろうな、と思いながら、クリスは呟いた。
家族以外の人間と一緒にいて、こんなにも心地よいと思ったのは初めてのことだった。
「あっ、でもね。もし、翔斗とクリスさんがただならぬ関係だったら、それについては俺でも問い質していたかも」
「ふっ、なんとも馬鹿馬鹿しい想像だ。あの男は一緒に歩いている、あの女性にゾッコンだよ」
それこそ、クリスの誘いをあっさり断って向こうを選ぶくらいなのだから。
初めのうちは魔法協会の手のものということもあり、彼らに対して敵意しか抱いていなかったが、言葉や剣を交わしているうちに、今では少しずつ情が沸き始めていた。
もちろん、今夜の決戦で手を抜くつもりは一切ないが、それでも二人への敬意は持って戦いに望むつもりだ。
「あれ? クリスさん、知らないの? 翔斗と一緒にいた子――ローレントさんは、あれでも男の子なんだよ」
「…………えっ?」
最終決戦を控えた午後、クリスはようやく敵の本当の姿を知るのであった。




