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魔法少女は男の娘  作者: ぴえ~る
三章 魔法と魔導
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3-4 男の子のような女の子

 あれから一夜明けても、ユリアが目を覚ますことはなかった。

 本日は土曜日ということもあり、お隣さんの翔斗は、朝からユリアの部屋でユリアの看病をしていた。

「俺の、せいだよな……」

 呟いて、翔斗は穏やかな寝息を立てているユリアの額をそっと撫でた。愛らしいその寝顔は、可愛らしい女の子が眠っているようにしか見えない。

 昨夜のこと、翔斗が渾身の魔力でスライムを消滅させたところまではよかったのだが、現れた魔石のカケラを封印しようとしたところ、突如魔石のカケラが暴走した。

 その原因はわからないが、あのカケラと接したのが翔斗だけである以上は、その原因も翔斗にあると考えるのが妥当なところだろう。

 にもかかわらず、ユリアは身を挺してカケラの暴走を止めてくれた。たとえそれがユリアの使命であったとしても、ユリアを危険にさらしたのは他ならぬ翔斗なのだ。そう思うと後ろめたさを感じてしまう。

 家具もろくに揃ってないユリアの部屋で、ユリアの横に付き添うことしかできない自分が情けなかった。

「もうこんな時間か……」

 いつの間にか窓から差し込む光が夕焼けに色になっており、窓の外を見ると太陽が西の山に半分ほど隠れていた。

「そろそろ飯の支度をしないとな。とりあえず買い出しに行くか」

 ユリアの安眠を妨害しないようにそっと部屋を出る。

 マンションの外に出た瞬間、夕方特有の涼しい風が翔斗の顔を撫でた。

(そういえば、最近はずっとユリアと一緒にいたな)

 ずっと、とは言っても、まだ三日間だが、あれだけ濃密な時間を過ごしていると、隣にユリアがいるということが、翔斗の中で当たり前になりつつあった。

 こうして一人で出歩くのも久々な感じだったので、時折ついつい誰もいない隣を横目で窺ってしまう。そしてそこに誰もいないことを確認して、自分は一人だということを実感する。

(でも、あいつもカケラを集め終えたら帰っちゃうんだよな……)

 ユリアはこの世界の人間ではない。偶然に偶然が重なった上での出会いだったがために、一度別れてしまえば、再会するためにはまたその偶然を引き起こさないといけない。

 そう何度もこんな軌跡のような偶然があるわけないので、おそらくは二度と再会することはないだろう。

(ま、こんなことを考えてもしかたねえか……)

 石ころを蹴っ飛ばして、感傷的になっている思考を外に追いやった。

 ――その時だった。

「――――!!」

 辺りを取り巻く空気が変わり、周囲から人の営みが消えた。

 脳を刺激され、空気が肌にこびり付いてくるような、この感覚には覚えがある。

「結界? ユリアは部屋にいるし……、ということは……っ!」

 思考を巡らせようとしたが、最初から思い当たる節は一人しかいない。

「デバイス、起動開始(セット、アップ)!」

 すぐにデバイスを起動させると、柔らかい光が翔斗を包み込み、魔法少女へと変身を遂げた。

 すると、身体中から力が溢れてくる。力と引き替えならば、この格好の恥ずかしさも安いものだ。

(感覚を研ぎ澄ませろ。ヤツの居場所を探るんだ。きっと近くにいるはず)

 目を瞑ることで余計な情報を遮断して、魔力の気配を探る。

 間もなくして、脳内に一つのイメージが浮かび上がってきた。

「公園か……」

 直感を頼りに、住宅街の隅っこにある小さな公園を目指して、翔斗は地面を駆け抜ける。

 何回か通りを曲がって、ようやく公園の入り口にたどり着いた瞬間、その中から大きな破裂音が響いた。

「力を鎮め、あるべき姿に戻れ」

 翔斗がその現場にたどり着くと、クリスが魔石のカケラを握りしめて、ちょうど封印処理を施したところだった。

「ほう、やっときたか。しかし今日は女装趣味の変態クンだけか……」

 公園に入って来た翔斗の姿を認めて、クリスが呟いた。

 たとえ、ユリアがこの場にいたとしても女装の男が一人から二人に増えるだけなのだが、そんな真実はこの場においてはどうでもいいことだ。

「あの子は、昨日のあれのせいで、まだ憔悴しているのかな?」

「そうだよ。だから今日は俺一人で、あんたが手に持っている魔石のカケラをもらい受けに来た」

「ふっ、悪いことは言わない。キミの力じゃどうあっても僕には敵わない」

「それでも、やると決めた以上は、それが無理だとしても、絶対に成し遂げる。でないと、何よりも俺自身が納得できないから」

 気合いを入れるように、翔斗は両手でステッキをきつく握りしめて、大地を踏みしめる。

「いいだろう。そこまで言うのなら、相手になってやる。かかってくるがいい」

 クリスも翔斗の気迫を受け止めるかのようにレイピアを構えた。

 翔斗は一度息を吐いて、地面を蹴り上げてクリスとの距離を詰める。

 翔斗を格下と侮っているクリスは、構えの状態のままで翔斗の接近を許した。

 そして、二人の距離が詰められ、お互いの武器の間合いに入ろうかという瞬間、翔斗は気合いが空回ったのか、足がもつれてしまった。

「「えっ――」」

 気の抜けた声を上げたのは、翔斗とクリスの両方である。

 その攻撃はクリスも完全に予想外だったのか、唖然とした様子で防御もままならないまま、翔斗が偶然放ったラリアットに巻き込まれてしまった。

 重なり合うようにして、地面に倒れる二人。

 すぐさま起き上がろうとして、地面に手を付こうとする翔斗だったが、掴んだのは地面ではなくまったく別のものだった。

(あれ、この柔らかい感触はなんだ……? なんか気持ちいいというか……)

 その感触を味わいながら顔を上げると、目の前ではクリスが端正な顔を真っ赤に染めて翔斗を睨み付けていた。そしてクリスの身体の位置関係を確認して、翔斗は自分が手をついている場所が、クリスの胸の位置であることに気がついた。

「えっ、まさか……」

 この感触から判断して、翔斗はクリスに関する一つの結論を導き出すことができた。

 今まで、自分はとんだ思い違いをしていたのだ。

「もしかして、おまえ、女――?」

「いいから、さっさとどけええええええええええーーーーーー!!!!!!!!」

 魔力の込められた拳が、まともに翔斗の顔面にヒットして、翔斗は数メートル吹き飛ぶと同時に意識まで飛ばされたのであった。

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