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数学オタクが転生します  作者: 二毛作
8/55

φ(空)≠0(無)

「クシャトリヤ No.17《ウィンドスケール》」



「詠唱破棄かよ……」



エレナでも詠唱破棄を使っていたため、ギルドマスターもとい帝の人なら簡単に使うだろうとは予想していた。



それは置いておき……



ウォルフさんが呪文を唱えると、右手だけでバスターソードを引き抜き、横一線に薙ぎ払った。



刹那、バスターソードの刃が描いた線に沿って空間がゆがんだ様に見えた。



だが、実際は圧縮された空気によってぼやけて見えるだけのこと。



その圧勝された空気が勢いよく俺に向かってくる、その数三つ。



的確に俺の首、右肩、左足を狙っていた。



時間差的には最初には首、次に左足、

最後に右肩だろう。



《ステータスの書き換え》によって上がった動体視力と反射神経でまず一つめの圧勝空気をしゃがみ込んで交わす。



二つ目は左足を狙っていた物がしゃがみ込んだ事によりこれまた首に狙いを定めていた。



ジャンプで交わそうにも、三発目との距離はさほど無いために三発目を喰らいそうだ。



だが、俺は地面を力強く蹴って飛び上がる。



二発目を交わすが目の前に三発目が迫り来る。



俺は体を捻って地面と水平を保つ。捻りを加えた事で体が回転するが、それによって三発目をうまく交わすことができた。



そのまま、一回転して地面に着地する。直ぐさま顔を上げて状況を確認。



するとウォルフさんはあのバスターソードを右手で薙ぎ払った状態のままであった。



仕方が無い……攻撃に転じる!!



アイディアは禁書目録の一方さんから、自分が地面を蹴り受けた運動エネルギーを何倍にも跳ね上がらせる。



加速度が飛躍的に増して初速度Voは0そのわずかコンマ一秒で速度Vは秒速200メートルに達した。



さすがに倍増させすぎたか、視界が正常な景色を捉え来れていない。



しかし、指定座標上では運動のベクトル変換と力の値を変えるため視界は関係ない。



「うらぁぁ!!」



耳に届いたウォルフさんの雄叫び、そのすぐ後に地面の砕け散る音が聞こえて来た。



しかし、俺へのダメージは無い。つまり空振りだ。



速度が0になり、視界がいつも通りに戻り目の前に現れたのはウォルフさんの背中。



俺は何も考えずにウォルフさんの脇腹に蹴りを入れる。



その際に物体に与えた圧力の値を変更するのを忘れない。



「な!うし、ウグッ!?」



蹴りを喰らう前に俺の存在に気がついたようだが既に手遅れ、脇腹に俺の右足が入り確かな手応えと共にウォルフさんは数mの間、空中を吹き飛びそれから数mはゴロゴロ地面を転がった。



砂煙が舞い上がり、ウォルフさんの姿が確認できないがおそらく無事であろう。



「そんな……ウォルフさんが……吹き飛んだ?」



「なにもんだよあいつ!」



「何時の間に後ろにいたんだ?」



「あの魔法はなんだ?」



周りにいたギャラリーが口々に思い思いの言葉を発した。



というか、こんなにギャラリーがいたのか……



「く……ケホッ!」



砂煙の中から大きめの人影が現れる。それがウォルフさんと言うことは言わずともわかるだろう。



煙が晴れてくると、バスターソードに体重をかけて立ち上がった。



「ちょっと、油断したかな……」



口元から零れた血を拭き取り、そう呟くように言った。



「少し真面目にやらせてもらうよ」



ウォルフさんはそう言うとバスターソードを右肩に担いで左手をこちらに向けてきた。



何の技か、詠唱で見極める。そのつもりで身構えた次の瞬間。



ウォルフさんの左手に螺旋状に渦巻いた小さな竜巻が現れた。



徐々に回転速度をあげていく竜巻は、そのスピードに比例するかのように巨大化を始めた。



「呪文破棄!?」



ようやく気づいたそれは高等技術の内の一つ『呪文破棄』



詠唱や術の名前を出さずに己のイメージ力のみで術を繰り出す技術のこと。その分術の制度、威力は下がり、消費魔力は増えてしまうが、熟練するに連れてその差は縮まる。



その呪文破棄をやってのけたウォルフさんは流石帝と言うべきか、威力も十分ありそうだ。



「くそ……」



逃げ道が見つからない、早くしなければウォルフさんが術を放ってしまう。



しかし、その時であった。



竜巻はウォルフさんの手を離れ地面に降り立った。地面を抉りながら巨大化を続けて入る。



だが、ウォルフさんは放つことはせずに、肩に担いでいたバスターソードを両手で持ち、何度か竜巻に切りかかった。



「え……?」



一体なにをしているのか分からない。俺からしてみればただ自分の魔法を打ち消そうとしているようにしか見えない。



だが、これが経験の差であり、実力差であり、ウォルフさんのアドバンテージであった。



突如竜巻に、いくつもの稲妻が走った。



それと同時に頬に熱いものを感じた気がした。



「さて、お手並み拝見」



竜巻越しに見えるウォルフさんの右半身。それだけでも分かるウォルフさんの期待と優越の混じった笑み。



何故だろう、ぶん殴りたくなる顔だ……



立て続けに二三度閃光が走る。今度は脇腹と右腕に鋭く焼けるような痛みが走る。



「痛ッ!」



痛みからそこに目を向けてみると、綺麗な紅蓮の液体が滴っていた。



おい、嘘だろ……



たかだか実力確認のための試験で出血する物なのか!?



とにかくあの竜巻を消滅させなくては……。



確か竜巻とは高速で渦巻いた上昇気流の筈……でもあれは魔法だ、おそらく運動エネルギーしか持たない筈だ。



そうなると、その運動エネルギーを0にしてしまえばいいのだ。



と言うかよくよく考えたら俺に魔力はある。つまりφはφであって0ではないと言うことだ。



器はあるが水の入っていない状態と形容すべきだろうか。



それはさて置き。



運動エネルギーを代入しようにも、あの竜巻へはどのように干渉すれば良いのか分からない。



それ以前に、どの方向からどれだけの力が加わっているのかが分からないため、式を立てることが出来ない。



「まずったな……」



魔法という万能エネルギーのお陰で力がどの面からも同じ方向に加わっているのだろうか。



それとも、そもそも力などは加わっていないのではないか?



寧ろ魔法と言うものを数学と言う科学で証明する方が無理なんじゃないか……



ん?待てよ……魔法?



幾度となく繰り返し閃光が走り回り、あたりに鎌鼬が舞い踊る。



そのなかで頭に訪れた一つの考え。



これを用いればどんな魔法にも叶うかもしれない、悪魔だろうと何だろうと俺が勝つ。



「集合C{空間}」



俺の魔法でこの練習場を集合の範囲に取る。こうでもしないと、世界中に広がって大混乱が巻き起こる。



「集合C 魔力伝導率0」



魔力伝導率とは、放出した魔力がどの程度の割合で反映されるかを表している。



練習場の中心に巨大な数字が浮かび上がる。それが指し示す値は「X」それが黄色に変わった瞬間に「0」に変化した。



だが次の瞬間、その数字は赤く変化して「X-M≠0」へと変わり細かな光芒に変化して消えていった。



そして、俺の計画通りとはいかずにウォルフさんの魔法は以前衰えずに攻撃をしかけている。



ーーどう言うことだ?



少し呆気に取られてしまい動きが止まったが、身体強化した体で鎌鼬を躱す。



なんだ……式が間違っていたのか?「X-M≠0」つまり零にはならないと言うことか……



つまりあの等式は、Xの値(集合C中の魔力伝導率)から何かを引くことで零にする式。



ーー何を間違えた……



「さて、君の俊敏性は分かった……では次は防御力を見ようか」



ウォルフさんはそう言うとバスターソードを両手で持ち、頭上に高々と掲げた。



「【烈風衝波】」



ウォルフさんは掲げたバスターソードを縦一線に勢いよく振り下ろした。



竜巻とバスターソードが衝突する。



バスターソードの衝撃で、竜巻が消え去った。



しかし、今まであったエネルギーが行き場を失って彼方此方……いや俺の方へと凄まじい勢いで迫ってきた。



「やっべぇ……」



圧倒的な暴風が襲いかかる。まだ距離が開いているにもかかわらず黒髪が激しく乱れ踊る。



抉れた地面が浮き上がって暴風と共に襲いかかる。



こんなの躱せる訳が無い!!



どこに行ったって確実に攻撃を喰らいそうだ。



となれば確率的に攻撃が当たりにくいところを探して、そこで指定の動きをするしかない。



よし、そうなれば早速……



俺の思考時間は一秒にも満たない時間だった。



それだけで済ませれば行動に移して、尚且つ最善戦の行動を出来ると決めつけて、いや高をくくっていた。



それが戦闘経験の薄く、魔法と言う地球に無い物と対峙する無能さが俺を敗北へと一歩近づけた。



暴風は俺の予想を遥かに超えて既に直撃目前へと迫ってきていた。



躱す時間が足らな過ぎる。圧倒的且つ絶望的に。



「んにゃろ……」



覚悟を決めて衝撃に備えるために顔と腹を庇う。その直後、クロスして構えていた腕に、あの鋭い痛みが走る。



だが、それにも増して強烈な鈍痛が体全体に対して襲いかかって来た。



形容出来ないほどの未知の経験。足が地面から離れて後方へと大きく吹き飛ぶ。



「ウッ!」



背中から地面に叩きつけられて次に肩、頭へと着いて地面を転がり回る。



「痛ってぇ……」



回転が収まったのを感じ、直ぐさま立ち上がろうと片膝を立てる。



魔法のお陰か、あれ程の衝撃を受けても打撲程度で済みそうな痛みだ。



ーーこれならまだ行ける。



そう思い立ち上がった時だった。



「よく耐えたと思う、だがこれで終わりかな……」



ウォルフさんは身体中から少量のつむじ風と稲妻を走らせながら信じられないスピードで距離を詰めて来ていた。



「まさかっ!?」



ーーこれが身体強化なのではないか?



そう思った。



だが、違う。何かが違うんだ。



物的証拠や状況証拠なんてない。証明してから結論に持って行く事も出来ないがはっきり分かる。



帝のランクを有する人の身体強化が、高が八倍にした身体能力でここまで鮮明に目で捉えられる訳がない。



「峰打ちだから安心しておけ」



そう決めゼリフであろう言葉を吐いた後、ウォルフさんは右手に構えたバスターソードを横一文字に構えた。



いや、そんな事いってますけど…………余裕で躱す事が出来ますから。



湧き上がる「痛い人」や「中二病」と呼ばれるようなセリフを吐いたウォルフさんに対する笑を噛み殺し、迫ってきた剣を迎え撃つ。



上体を後ろに反らしてバク転の体制を取る。右足でバスターソードの腹を蹴り飛ばす。



「なっ!?」



ウォルフさんが驚愕の声をあげた、蹴り上げた右脚の勢いを借りて左足でウォルフさんの顎を蹴る。



八倍の身体強化された左足の蹴りでウォルフさんは地面から足を離す。



そのまま、綺麗に着地を決めてウォルフさんを視界に入れる。



予想よりも長い間空中に投げ出されたらしい。ウォルフさんは落下を始めているもまだ地面には降り立っていない。



俺は一歩で距離を詰めてその勢いを利用した右手の正拳突きを放つ。



右の骨に伝わる確かな振動、それが手応えの正体。



くの字に折れ曲がったウォルフさんの体が、練習場の端まで吹き飛ぶ。



改めてこの魔法のすごさを思い知る。通常の人間が殴っただけで60㎏の物体を飛ばすまでには至らない。



魔法が如何に素晴らしい力を持っているのかがこれから導き出せる。



ウォルフさんは直ぐに空中で体制を整えると、その手にあるバスターソードを地面に突き刺して勢いを殺した。



「畜生……ッ!!」



何と、ウォルフさんは地面に着地したと同時に大量の風の弾丸を生み出していた。



ウォルフさんの後方に生まれたサッカーボールくらいの大きさを持つ圧縮された空気の球。



一つ一つには目で見える程の鎌鼬が何本も走っていて、それは俺を切り裂く為に生まれた風の弾丸の壁のようだ。



「すまんな……プライドで負ける訳にはいかんのだよ」



ウォルフさんはまだまだ余裕の表情を浮かべていた。



「なんだよこれ……」



避けられるのか、いや……無理だ……確率論でしか話せないがこの場を埋め尽くせる程の風の弾丸を避けらるのは空間の体積から術の及ぶ範囲を引いた差/空間の体積、で求められる。



つまり殆ど無傷で切り抜ける術はない。



確率か…………。



その瞬間、俺の頭の中に一つの名案が浮かび上がった。



ニヤリと、今度は俺が笑みを浮かべる番であった。



「【視界】回避確率表示」



その魔法の言葉を口から出すと、俺の視界に微妙な変化が現れた。



緑色の線で書かれた円、赤色の線で書かれた円、黄色の線で書かれた円。



それぞれの円の中心には、どれ一つ同じ数の無い。そしてその数字こそ俺の躱す事のできる確率。



これは俺の目を対象に俺の回出来る確率を俺の視界に映し出すようにしただけの魔法だ。



正直一か八かのかけだったが成功したようで良かった。



緑色から黄色、黄色から赤色へと回避出来る確率が下がる。



つまり、俺は緑色の円だけに意識を集中させればいい。



緑はウォルフさんのすぐ傍、練習場の右端、あとは地面だ。



となれば最短である、ウォルフさんへと突撃するのが得策か……



「風の使者に告ぐ、眼下の敵をその圧倒的な風圧で斬り裂き、ねじ伏せよ。《バアル・ウィンド》」



「そんな!ウォルフさん!?」



突然エレナが声をあげた。



「やべぇじゃん、あの少年死ぬんじゃね?」

「いや、でもあの不思議な魔法で……」

「でも、ウォルフさんのあの追加詠唱は強力だぜ?」

「ウォルフさん、魔法制御のイヤリング外してるぜ」



なんだか、外野が危ない発言をしている気がするのは俺だけか?死亡フラグがたったと思ったのは俺だけか?



それに気になる単語、追加詠唱ってなんだ、かなり高度なテクニックで危ない技だという雰囲気を感じる。



俺のにやけ顏を返しやがれ。



ウォルフさんの風の弾丸に少しの変化が起きた。



鎌鼬を纏わせているがその弾が平べったく伸びた。



形状変化した風はまるで剃刀のように薄くなっていた。



回避確率が刻刻と変化して行き、円の色も著しく変化する。



「なんだこれ……」



ウォルフさんの魔法は素晴らしかった。形状変化が完了したにも関わらず、回避確率の変化は収まらない。



常に忙しなく分母の値や分子の値、円の色も変化していた。



ーー流石帝だな……



だが、やはり、ウォルフさんの頭部への確率は多少の変化はあるものの、緑の円が変化する事は無かった。



善は急げだ。



俺は身体能力のαの値を10に変更した。



数字は10Xに変化して俺の体に溶け込んでいった。



このまま行く!



地面を思いっきり蹴り、前傾姿勢でウォルフさんへと距離を詰めに行く。



走り出した瞬間、ウォルフさんは意表を突かれ目を見開いていたが、すぐさま真顔に戻ると右手を横に振った。



「いけ」



その掛け声と共にウォルフさんの魔法が動き出す。



まず第一陣。緑の円は二つ、左下の1/21と左上の1/12。当然1/12の方に体を向ける。



右足で地面を蹴って跳躍する。体を横に倒し回転を加えてウォルフさんの魔法を躱す。



チリっとした痛みが左腕に走った。しかし、掠っただけなので問題は無い。



続いて、着地した瞬間に体を右側へとロールさせて第二陣を躱す。



再び強く地面を蹴る。ウォルフさんまではもう5mも無い。



ラスト、右上に表示された円。確率は1/2。



今度は左足で跳躍する。ウォルフさんの魔法が俺の足の下ギリギリを通って行った。



ーー良し、全て躱した!!



だが、それは束の間の喜び。



俺の視界に赤い円が表示された。その確率が指し示す値、それは0。



つまり回避不能。



「もらった!」



ウォルフさんが歓喜の声をあげた。



ーーどうしたらいい……何か案を出せ!!



焦るばかりで頭のなかに名案は浮かび上がってこない。



0の文字が大きくなってくる、その時頭の中に駆け抜けた一つの案。やはり一か八かの賭けであった。



「もう、どうにでもなれやぁぁ!!」



ウォルフさんの魔法が着弾したーー

うえwwwwうえwwww

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