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数学オタクが転生します  作者: 二毛作
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祭り事の極限3

 距離は等しい?ベクトル?まてよ、だからと言ってどうなるんだ。同じだったら否が応でも関係を持つのか?



 それに距離ってなんだよ、いったいどこからに対しての距離なんだよ。



「だったら何なんだ」



 そう口にすると、犯人は口元を歪める。



「絶対値が同じ、ならばどちらかが嘘だったとしてお前が虚数をかけてしまえば、どちらにも行けるわけだ」



 どちらにでもいける。いやまて、虚数って、お前は始めに嘘の世界は否定したはずじゃないか。



 そんな疑問が顔に出ていたのか、犯人が先に答えをくれた。



「お前らの考え方はあっていた。だがな、絶対値が付いてしまった以上、どうしようもなく、それは実数だ」



「……なんだよそれ」



 つまりは初めの考えでほぼ正解だったのだ、ただ、嘘の世界だと決めてかかったのが間違いだと。そう言いたいらしい。



「ベアトリアは地球よりも後に作られた。いや……正確には、宇宙よりも後に作られた」



 何を当たり前のことを言ってんだ?宇宙より前にできているなんてあり得ないだろう。



「そうだな。今度は俺から質問しよう。榎本柚木、そして今村美菜、お前たちはベアトリアをなんだと思っている?」



 そう問いかけられた。ないはずの犯人の目が、こちらに向けて半月型になっている気がした。



「なにって、だから誰かが作り出した世界だと……」



「その世界の規模っていうのは、どの規模をいうんだ?」



「私は惑星単位で捉えていたけれど」



 ミナが代わりに答える。



「惑星単位ねぇ、ならお前らはこの惑星の外を観測出来たのか?」



 なんだ……なんでこいつの言い方はこんなにも……外を観測……いや、出来ていない。このベアトリアから見るぶんには観測出来ているが……まさか、こいつの言いたいことは……




「もしかして、ベアトリアが、地球とは違う空間にあって、ベアトリアがそのもの空間そのもの……そう言いたいのか」



「御名答!!そういうことだ!」



 両手を広げてオーバーリアクション、犯人は愉快そうに笑っている。だが、俺からしたら激しい動揺が襲う。



 ミナも同じようで、いつもよりも目が開かれていた。



 あの空間はベアトリアしかない。果てはベアトリアの境界まで、ということは空に見えていた星や、衛星は、すべて幻。



「ということは、地球の置かれたような空間とは、どうあがいても創作レベルが低いことになる」



「そういうことだろうな」



 その創作レベルというものがいまいち分からないが、おそらく、能力的な問題で星一つ分しか作れなかったということだろう。



「では、それは一体誰なんだろうか」



 一体だれか?そんな事を言われても検討もつかない。そう思っていた時だ。



 隣のミナが身を乗り出した。



「あの神とやらが言っていた、理から外れたもの」



 凛とした口調、確かな自信が含まれた言葉だ。



 その言葉を聞いた犯人が、ニヤリと口元を歪めた。



「察しがいいな、今村美菜。その通り、作り出したのはその理から外れたものだ」



「馬鹿な……」



 考えられなかった。つまりはただの人間が、なんの力も持たない人間が、一から世界を作り、あまつさえ空間を作り出したと言うのだ。



「なぜそんなことになったのか、俺にはそこまではわからない」



 犯人はそういうと、紅茶を一気に飲み干し、乱暴にカップを置いた。



「だがな、ベアトリアを作り出し、管理をする。さらにはそこで生活まで送る。それはつまり、神と人間のいいとこ取りのような存在だ」



「それをしたらどうなるというんだ……」



 俺の質問に対し、犯人は押し黙る。誰も何も発しない無言の時間は長くは続かず、それを破ったのはポヘだった。



 それは、在り来たりな悪人の考えそうな、なんとも稚拙で、最悪で、恐ろしいことだった。

















「神を殺し、全てを手に入れることができる」












 


 神を殺す。なんともチープなファンタジー小説の内容みたいじゃないか。



 こんなことを聞かされても、で?それ何のファンタジー作品?となるのが関の山だ。



 だが、気になるのは全てを手に入れる。その言葉だ。



「全てを手に入れて何になるんだ……」



「全てを手に入れる。それはつまり人1人に対しても干渉できる。これからの世界の運命を塗り替えることが出来る」



 世界の運命を塗り替える。俺にはそれで何がしたいのかは全く見当はつかない。だが、それでもそいつの目的が何であれ、許されないことであるのはなんとなく察しがついた。



「では、質問に答えるとしようか、榎本柚木よ」



 犯人はそう言ってから間を空ける。



「地球とベアトリアとは、距離が等しい仲にある。距離が等しいとはつまり、数学上では、絶対値をつければ同じように扱うことができる」



 絶対値、つまりはある原点からの距離のことだ。マイナスだろうがプラスだろうが、その値が3と-3だったとしよう、それはつまりどちらの数も、原点から3つ離れた位置にあるということだ。



 絶対値とは方向を一切考えない、ただの距離だ。南に3キロだろうが、北に3キロだろうが、離れた距離は3キロ、それと同じ意味を持つ。



「同じように扱うことができる。だが本質は違う。地球とベアトリアとは、表と裏の関係にある。」



 表と裏、それほどまでに近しい関係ということだ。



 犯人は新しく紅茶を出してそれを一口飲んだ。もう紅茶を飲むという行為がまるで間合いを測るかのような行為に感じてきたぞ。



「地球とベアトリア、それは特異点を挟んだ先にある、等距離空間、そして連続空間だ」



「ち、ちょっと待て!」



 犯人の言葉に。俺はストップをかけざるを得なかった。なにせ、矛盾じみたことを言うのだから。



 見つけてしまった。しかしながら、何処か正解のような、畏怖倦厭とまではいかないが、どこか怯えているようだった。



「連続空間で、特異点を内包しているといったな?そんなもの、連続空間とは呼ばないぞ」



 連続空間とは、主に集合、という概念を扱う際に登場するものだ。



 二つ以上の開集合を扱う際に必要な場のことを言っており、その二つの要素はその空間内に存在している。



 だが、特異点などという、明確な線引き、つまりその点は、なんの意味もない、数学上では現代の考えを全て及ばない特殊な点をいう。



 実際に、空間にそんなものを配置した場合、それはすでに空間が連続したものではなく、ただの独立した空間だ。



「そうだ、だがな、特異点を連結成分とした、局所連結空間。それが二つの関係だ」



 特異点を挟んで連結?それを連続と呼んでるのかこいつらは……こんなの数学の知識があってもたどり着くかよ……



「そうだ、さらに言えば、その二つの集合の内包成分は、関数への互換性を持つ」



 いよいよ持って頭が追いついてこなくなってきた。確かに、集合の成分の規則性があれば、関数で表すことはできるだろう。



 だが、特異点を挟んでしか連結できない関数だと……だめだ知識が足りない。



「お互いの関数の終着点、極限が座標だ」



「その座標を、ベクトルで表すと、つまりは等距離にあるってことかよ」



「そうだ」



 バカバカしすぎて笑いが出てくるぞ、つまりはその理論を導き出し、開発に成功したやつがいるわけだ。



 数学オタクなんて呼ばれているが、俺はただの高校生だ。しかし、それを成し遂げた人間がいる。もう、大学とかのレベルの話じゃない。



 だんだんと確信に変わってきた。理から外れたものは科学者だ。



「ここまで馬鹿げたことを、成し遂げておいて、何をするつもりだ、まさか本当に神を殺す気でいるのかよ」



 正直なところ、かなりの偏見かもしれないが、科学者などの理系の分野に進んだ人ほど神などは信じていない人が多い気がする。



 あるいは、神の領域などと呼び、絶対に踏み入れることの出来ない領域の例えだったりする。



「さぁ、本当かどうかはわからない」



 犯人は、天を仰ぐようにしていった。



「なんにしても、この空間を作り出したのはなんの意図があっての事なのかしら、それもあそこで精密な人類を形成しておいて」



 何かしらの意図があるのか、はたまた作りだすのが目的だったのか。



「そこまでは俺の思考が及ぶ領域じゃない。俺はそいつじゃないからな」



 犯人は首を振りながら答えた。どうやら目的は本人から聞きだすのが最善の策の様だな。



「何がしたいのかはわからん、だが非常に危険な人物なのは確かだ、だから神が事前に策を打って出たんだろう」



 目的が分からないが危険、確かに安全策をとるのが最善の手ではあるか。



 俺はそんな感じで思考をまとめると、一気に紅茶を飲みほした。



「これで俺の疑問は解決した、あとは自分で考える」



「ほう、それなら、もうひとついいことを教えてやる」



 犯人は口元をゆがめてそう言った。



「オルガ・メニシュを見つけろ、それがお前に出来る今の最善だ」



「オルガを?」



 犯人はそれから先は言わなかった。おそらく何かにつながるってことなんだろうが。



「親切にどうも、もとよりそのつもりだ」



 俺はそれだけ言うとポヘの方へと目で合図を送る。




「それじゃ、また」



「おう、ここは話し相手がいなくて暇だからな、いつでも歓迎する」



 黒い影はそれだけ言うと紅茶とクッキーを食べ始めた。これから優雅なティータイムですかっての。



「それじゃ【還元】」



――

――――

――――――


ーーーーーー

ーーーー

ーー



「戻ってこれたみたいね」



「そのようですね」



 先ほど俺たちが立っていた場所に戻ってきていた。辺りに人はおらず、極めて静かだった。



「授業始まっているみたいだな」



「そうみたいね」



 時間的にも雰囲気的にもおそらく始まっているだろう。



「どうするよ、この時間」



 俺が困り果てて、ミナに話を振ると、平然とした様子で答えた。



「このままサボタージュで構わないでしょう、今更出たところで意味ないわよ」



 意外だった。ミナのようなやつはきちんと学校に通うような性格をしているものだとばかり思っていた。



 まぁ、今回は特例と言うか、巻き込んでしまったわけで、自発的なサボタージュではないから、ノーカウントということだろうか。



「じゃあどうすんだ、この空いた時間」



 自主休講ということになったわけだが、その時間はいかにして使うのか、まぁ大体の予想はついている。



「ひとまず、オルガ君を探す。その事について話してもいいんじゃないかしら」



 ほらきた。



 内心で正解だった事にほくそ笑む。



「またあの空き教室か?」



「そうね、移動するわよ」



 ミナはそう言って校舎に向かう。あとをついて行く俺は、ひとまず、オルガよりも、犯人の言っていたこと、理から外れたものについて考えていた。



  ☆



 途中で購買を経由し、飲み物を確保した俺たちは、埃っぽい空間にいた。



 窓から差し込んだ光に、埃がキラキラと照らされていて、その光の指し示す方にある机もまた、指をおけば黒ずむほどに汚れていた。



 本棚の本も変わりなく、置き去りにされて、グレて布団でも被っているようだ。



 教室に取り残された椅子に腰掛けて、俺たちは買った飲み物を一口口に含む。



「オルガについてだったな」



 話の種火をつけたのは俺だった。おおよその時間だが、もう30分もないだろう。



 時間を無駄にはしないように、俺は早めに口を開いた。それはおそらくミナも同じで、帰ってきた言葉は、いつもの虚言が取り除かれていた。



「そうよ、あの黒い人が言っていたように、彼を探すのが一番最善だと思うわね」



 まぁ、確かにそれについては俺も同意する。だが、俺とミナの結果は一緒だとしても、過程がどうなのかは分からない。



「なぜそう思った」



 俺がそう訊くと、ミナは足を組んでから答えた。



「まず、彼もあなたと同じ属性を使えたことが気になるの」



「数魔法か」



 俺がそういうと、ミナは一度だけ頷いた。



「それから、彼の裏にいる人たちが気になるの」



 目線が厳しくなり、眼光がつよくなった気がした。疑っているというか、警戒している感じにも取れた。



「彼の仲間にはイフリートがいた、それだけでも異常事態なのに、彼の扱う召喚獣はすべて突然変異した魔物ばかり」



 そういえば、メディーナレークやギルガリオンを召喚していたが、体表の色は全く異なったものだった。



 そしてイフリート通説によればやつは死んだはずらしいのだが、普通にぴんぴんとしていた。まぁ腕は一本俺が切り落としたのだが。



「そして、彼とイフリートを回収しに来た男、あの男は何かあるわ」



「何かあるってのは?」



「魔力という魔力を一切感じなかった」



「は?あいつらは転移使ったんだから、魔力はあるだろう」



 俺がそう切り返すと、ミナは俺の方を睨むようにして見つめてきた。



「それでも感じなかったから以上だと言ってるの」



 そんな、馬鹿げた回答と共に。



 いや待て、そんな言葉は口からは出てはくれなかった。声帯が奪われてしまったのだろうか。



 魔法を使っておいて一切の魔力を感じなかった。それはこの短いベアトリアの生活でも、その異常性については容易に把握できた。



「裏の人間含めて、すべてから話を聞く。いえ吐かせるわ」



 いつもなら恐ろしい発言と罵っていただろうが、今となっては頼もしい、心強い。



「問題は、潜伏場所だけれど、これは近々吐き出させそうね」



「なんでだよ」



 俺の声帯がやっと戻ってきた。疑問をぶつけるとやや暗いトーンで帰ってきた。



「魔導祭、あれほど人が集まり、エデンランクが一堂に会するのよ?」



「一気に叩くつもりでもしてんのかよ」



「叩くかどうかは分からないわ、ただ、私ならそこで裏に細工を施すことができる、そう考えるわ」



 顎に手をやるミナの顔つきは依然無表情に近いくらいだ。しかし声からはしっかりとした警戒心が見て取れる。



「お前は姿をあらわすと思っているのか」



「えぇ、それもオルガともう一人、回収しに来た男がね」



「また何を根拠に」



 一度小さい咳払いが聞こえた。



「まず、オルガ君は顔を見られたとしても不自然ではない点、アラドラスの生徒である以上何の問題もないわ



次に回収に来た男、誰にも顔を知られていない、そして、オルガ君たちを回収しにこれるだけの活動は可能。



向こうの人数を把握できていないからわからないけれど、私が知る中で動かすならこの人数を動かすわね」



 それはちょっと確信めいたような感じに聞こえ、不思議と俺もその通りのような気がした。



「なら警戒に当たるのは、人の薄くなるところ……そういうことか?」



 俺はそう言ったが、ミナは首を振り遠くを見つめた。



「正直なところ分からないわ、向こうが何を考えているのかわからない以上、警戒すべきポイントはたくさんあるわ」



 何を仕掛けてくるのか、結果的にしたいことがわからない以上、どう言った細工を施すかわからない。



 最悪、俺よりも万能性の高い、オルガの数魔法で何かをしてくるかもしれない。



 なんせ、ポヘのクロックアップを解いたくらいだ。まだまだ能力を隠し持っていても不思議ではないし、下手をすれば、ポヘのクロックアップと似た能力で、意識する間も無く細工を施されるかもしれない。



「幸いなことに、向こうが国を潰しにかかる、あるいは攻撃を仕掛けるとは決まったわけじゃないでしょ?あくまで最悪のパターンを考えたまでよ」



 ミナにとっての最悪のパターンとは、国が滅びることなのか。



 俺の考える最悪のパターンとはまた別視点、ミナの最悪はどちらかと言えばベアトリアの人達の視点に似ていると言える。



 俺はそちらよりも危惧しているのは別。もっと身近なものだったそれがなくなるのを危惧する。



 ベアトリアを作った、そして神と人間のいいとこ取りをして、世界に干渉することができる。



 そんなの、確実じゃないか、その理から外れたものがどこから来たか。今ある材料で判断するなら出身はどこなのか。



 それを踏まえた上での仮説。結論。






 狙いが地球の方に向いていたとしたら。



 二つの星の繋がりを確信した今となっては、地球への攻撃も造作もない事だと、簡単にわかる。



 それどころか、口先一つで高火力な力を生み出す殺人兵器といっても過言ではない。



 元が地球の人間とあれば、地球での名声欲という物に駆られるというのも納得がいく。



 むしろ、それのためにベアトリアを作ったと言われても信じてしまいそうなくらいだ。



「オルガを引きずり出す手立てはないのか?」



「あなたはどこにいるのか知ってていっているのかしら」



 ですよね。まったく見当もつかないのにそんなことできるわけがないっていう。



「だよな、手がかりがなさすぎる」



「だから今回の魔導祭にかけるのよ、何もないに越したことはないけれど、出て来る可能性はあるわ」



「……随分と受け身になるんだな」



「ゴールも、攻めのルールも不明瞭な試合に積極的になれるの?」



 それはそうか。



 買った飲み物を、何かムシャクシャした気持ちと一緒に飲み込んだ。



 綺麗に消えることはなかったが、ある程度の決意は固まった気がした。



「わかった、それなら警戒に当たるよ」



「あなたの場合は注意すべき点が増えて災難ね」



 あ、忘れてた……魔法の使い方や種類増やさないと、ダミーカード作った意味がなくなるんだった。



「しまったぁ……」

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