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数学オタクが転生します  作者: 二毛作
5/55

φ(空)の器1

「おいおい、にぃーちゃんよー、チョット面かせや」



「おまえ!!アルビレオさんとどういう関係なんだ!!」



「何処までヤったんだ?」



「ウホ!いい男、や ら な い か ?」



俺は今、自分の周囲360度厳つい男たちにぐるりと囲まれている。



口々に発せられる罵倒の……って最後のやつ!なぜお前がここにいる!!



「いや……あのですね……」



「喋ってんじゃねぇ!!お前の許される呼吸回数は大目に見ても二時間に一回だ!」



ちょ……鬼畜……。



弁解を試みようとしても誰も聞く耳を持たない。



なぜ俺がこんな事になったのか、それは数十分前に遡る。



   ☆★☆




ギルガリオンを倒した俺達は、俺が行く宛も無いと言う事なので、直ぐさまエレナの所属するギルドに帰還する事にした。



エレナと一緒来たパーティーメンバーはどうするのだと聞いたところ、先程無線で無事が確認された。



聞くところによるとパーティーメンバーは全員血眼でエレナを探していたところ、多量のモンスターと遭遇してしまい、止む無く転移をしたらしい。



そうとなれば即帰還、エレナは俺の手を取ると能力を発動する。



エレナから俺、俺からギルガリオンの頭に魔力が伝わり、俺の視界は白に包まれる。



☆★☆



次の瞬間、俺の目に飛び込んできたそれは凄まじく巨大な建造物。洋式の城をモチーフにしたようなとんがり屋根の建物。



三つの高い屋根にはそれぞれ旗が風に靡いていた。



「ここが、あたしのいるギルド《大地の翼》」



控えめに建物を指差したエレナは、それだけ言うと扉の前まで行こうとする。



だが……。



「うわ!」



歩き出そうとエレナが一歩を踏み出した瞬間のこと、エレナの体が急に縮み出したように見えた。



ただ実際には膝を折って地面にひざを付いただけだった。



「大丈夫かよ?」



俺はそう言うだけで手を貸したりしない、女性耐性の備わっていない俺は、手を貸すなどという高等技術は出来ない。



「うん、大丈夫」



エレナはそう言って立ち上がろうとする。



ーーしかし



「あ、あれ?」



一瞬立ち上がりはしたものの、直ぐさま尻餅をついてしまう。



唖然とする俺と苦笑いをするエレナ、この世界にきて間もない俺ですら予想がたつ。



「ま、魔力使いすぎちゃった……」



「はい?」



よくよく見てみると、エレナの体重を支えている腕はプルプルと震えて、今にも瞼は閉じそうであった。



転移魔法と呼ばれる中級魔法によって魔力かなり消費してしまったらしい。



さらに、ギルガリオンとの戦闘で使った三連発の上級魔法も多いに関係しているだろう。



さて、どうするか…………



このまま一人で入って行くのは気が引ける、というか出来ない。ならばどうにかしてエレナを連れていかなくては行けないのだが……。



王道ならお姫様抱っこ……



無理だぁぁぁぁぁぁぁ!!



くそう、なにか方法は無いのか!!俺の頭にインテルは入ってないのか!?



いや入ってるわけが無いわな、うん。



俺が暫く考えていると、服の袖が引っ張られる感じがした。



思考を中断して引っ張られた左腕の方へと顔を向けると、エレナがカーディガンの袖を軽くつまんでいた。



その顔は暗くてよく見えないのだが、若干赤みを帯びているように見えた。



そして次の瞬間、衝撃の一言がエレナの口から飛び出てきた。



「あの……そ、その……」



あぁ……可愛い……指をモジモジさせてる~和むなぁ~



ギルガリオンとの戦闘では頼もしかったけど、今はか弱くて可愛い女の子に大変身だ。



「お……おんぶ……して?」



「…………」



頬を赤らめて、目を潤ませて、上目遣いで、座り込みながら両手を広げる。



通常の男子ならば確実に落ちた、惚れたであろう。だがしかし俺の立たされている状況は異常、そんな事を考える余裕はない。



「へ?」



やっと口から出てきた言葉は疑問符を含めて二文字。



その俺の間抜けな反応に、エレナはより一層、頬が熟していく。



「だ、だって!……立てないんだもん!」



恥ずかしさを押し殺しながら必死に抵抗するエレナ、目の淵に溜まった涙が増えた気がする。



胸の前で細く綺麗な手を握りしめて平然を保とうとする姿は非常に可愛らしい。



あれ?さっきから可愛いしか感想述べてない?



まぁいい、大事なのはそのエレナのお願いを叶えてあげられるかどうかだ。



いや、ここは出来るか出来ないかじゃない、やるかやらないかだ!!



よし、ならばやってやろうじゃないか。女性耐性が低い?ハンッ!知った事じゃないね。



エレナの前に移動した俺は、しゃがみこんでこう言った。



「は、はは早く乗ってくれ……は、腹が減って死にそうだ」



暫く、と言ってもほんの僅かな時間。恐らく二秒も無いだろうが、音が無くなった。



顔が拝めなくても、少し唖然としてて、戸惑った表情のエレナが目に浮かぶ。



だが、重みがくるわけでもなく、感謝の言葉がくるわけでもなく、予想の斜め上どころかまったく別の方向を行く返事が帰ってきた。



「ふぇ!?で、でもでも、あた、あたし重いよ?良いの?」



知りませんよ!だったらなんでお願いしたんですか、て言うか俺の決意を無駄にするんじゃねぇ!!



「大丈夫だ、問題ない」



ーー言ってみたかっただけ。



「でもでも……うぅ~…………」



唸り声が聞こえてくる。少しイラっとしてきたので後ろを向く。



ーー睨まれた。何故?



振り向いた瞬間に飛び込んできたのは、依然顔の赤みが引かないエレナ。だが、下唇を悔しそうに噛み締めて、今にも零れ落ちそうな涙が溜まった目で俺を睨みつけていた。



ここで、何かを言わなくては行けない気がした。



結果的にはそれが最終打となった。



「とりあえずサッサとしろや」



やっぱりイライラしてました。



俺がそう言うと少しビクッとエレナの体が跳ねた。しかし直ぐさま睨みつけるような顔に変わった。



「うぅ~……お、重いとか言ったら許さないからね?」



エレナはそう言うと、勢いよく背中に乗ってきた。他から見たら抱きついてきたように見えているんじゃ無いだろうか。



勢いを殺し切れずに前へと両手をついてしまったが、さほど問題無い。



男友達の時は尻を支えるのだが、この場合は太腿の方がいいだろう。



少しばかりの配慮をして、いざ行かん。そう思った矢先、再びトラブルが俺たちの行く手を阻む。



「ひぁ!?ちょっと……ユズキ君……そ、そこは……太腿は……ダメぇ……」



まてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてぇぇぇぇい!?



いきなり耳元で発生した色っぽい声、それがエレナからだとは容易にわかる。



だが問題はそこじゃ無い。あいつの性感帯の場所だ。



確かに太腿も性感帯であるが、たかがおんぶする際に触れただけである。にも関わらずあそこまで喚かれては困る。



じゃあ一体何処で支えれば良いんだぁぁ!?



「くすぐっ……ヒァッ!?たくて……ダメぇ……は、早く……手を退……けてぇ……」



聞いているこっちが恥ずかしい!!



直ぐさま手の位置を修正する、不可抗力だと言い聞かせてお尻を支える事にした。



「ハァ……」



エレナが安堵の声を漏らす。やっとこれで……



「ちょ!ユズキ君!?何処触ってるの!?お、おおお尻を触るだなんて!?」



「だぁぁ!煩ぇぇぇ!!耳元でギャーギャー喚くな、それに文句が多いんだよ糞が!あぁ!?てめぇここに捨ててくぞ!?」



怒りをぶち撒けた、そりゃあそうだ。くすぐったいから止めてと言われたから渋々お尻に手を回した。



かと思いきやそこでも文句を垂れるならどっちか我慢しやがれ。



「う……ゴメンなさい……」



俺の一喝によって大人しくなったエレナはダランと抱きつくようにして体重を預けてきた。



背中に当たる柔らかい二つの物体については今回触れない事にする。



見た目が洋風の古城であるギルド本部はその扉も大きかった。背丈も横幅も余裕にこす扉は少し無駄な気もした。



その巨大な木製の扉を引くと賑やかな雰囲気が耳から伝わってきた。



その中の一つの長机に陣取り、そこだけオーラの違う団体が一つ。



父親にこっぴどく叱られた小学生、受験に失敗したエリート学生、就職内定を取り消された大学生、イキナリ首を切られたベテランサラリーマンのように沈んでいた。



ヤケ酒だろうか、テーブルにはビールジョッキのようなものが沢山ある。



そんな異質な雰囲気を醸し出すグループの側を通ろうとした時であった。



「……アルビレオ?」



異質なグループから聞こえてきた蚊の鳴くような声、それを皮切りに一斉に顔を上げた。



「ア、アルビレオさん!」



厳つい顔と声で近寄ってくる男。恐らく、いや確信だがこの人たちがエレナの初めのパーティーだったのだろう。



「エレナ・アルビレオ、只今帰還しました!」



エレナはその人達に冗談混じりの返答をする。その直後に耳元で「ありがと、もうおろしてくれていいよ」と囁いた。



言われるがままにエレナを降ろす、エレナはそのグループへと向かっていくと屈託の無い笑みで再開を喜んでいた。



「しっかし、おめぇ見ない顔だな。アルビレオさんとなにしてやがった」



一人のチャラそうな金髪にピアスをつけた男が顔を近づけてきた。



「あ、私その人にたすけて貰ったの!」



このエレナの発言によって冒頭にもどる。



「お前アルビレオさんに手ェ出してないだろうな」



「こう言う場合は女性の裸を男が見たりするイベントがあるっす」



「な、ななな……お前、アルビレオさんの裸を!?なんてうらやま……けしからん!!」



厳つい男の後にチャラ男が余計な一言を付け足す。その勘違いのせいで男が胸倉を掴みかかってきた。



というか、裸を見たのではなく、見られたんだよな俺の場合。



「落ち着いてくださいガルシアさん!」



「これが落ち着いていられますか!?取り敢えず俺はこいつを原型をとどめていられないほどにぶん殴ってやる」



そう言うとガルシアと呼ばれた人物は拳を硬く握りしめて頭の後ろまで引いた。



こんな大男のパンチなんて食らった頬骨どころか首や鎖骨まで粉々になる!!



防がなきゃ!でもどうやって!?知らん!!



自問自答する余裕はあるらしい、だが危ないのも事実。



……は!あるでは無いか、某豆粒ドチビ錬金術師に出てきた人工的に造られた人間で強欲から産まれたヤツが!!



「書き換え 体内炭素比率カーボンステータス



炭素の量を一気に増やして更に結合の種類をダイヤモンドの結合のみに限定する。



振りかざされた拳、先程までの恐怖はなく今はただこの先に待つガルシアさんの拳に待つ哀れな運命に同情する。



「ふっははは!」



豪快に笑いながら俺の顔面目掛けてこぶしを振るう。



その瞬間に鉄格子を殴りつけたような音が鳴り響く、ニヤつきドヤ顔満点のガルシア、両手で顔を覆ったエレナ、ビールジョッキを高らかに掲げて喜びを表現するエレナのパーティー。



誠に残念ながら俺に痛みはミジンコ程も無い。



「ぐわぁぁ!?こいつ一丁前に身体強化しやがったァァ!!」



右手を抑えてのたうち回るガルシアさん、本当にゴメンなさい。でもそうでもしないと俺の骨が粉ミルクのようになってしまいます。



「が、ガルシアさん!」



エレナがフラフラと立ち上がりガルシアさんのところまで近寄る。



「うぐぐぐ……おい餓鬼!!今日はこれくらいで許してやるぜ」



ガルシアさんはまるでやられキャラのようにその言葉を吐いた。



だが従来のやられキャラとは違いその場から走って逃げる、なんてことは無く、ただその場でエレナやその他のパーティーメンバーと談義をし始めた。



エレナも何時の間にか元気になったのか、それとも気迫かあの森で会った時のように接していた。



ガルシアさんも時折右手を抑えるがそれでもエレナが無事に帰ってきたことが嬉しかったようだ。



そして俺はあの方達とは到底話し合えない気がするので早々とこのギルドを出ようとした。



しかしーー



「あ、ユズキ君ギルガリオン討伐の報酬貰わないの?」



『報酬』その単語には俺の足を止めるどころか再びあの輪の中へ入り込む勇気を与えるには十分すぎる魅力を持っていた。



いいか、世の中金なんだ。金が無くては飯を食うことも、暖かい布団で寝ることも、娯楽で楽しむことだって出来ない。



それに今の俺の状況はどうだ、無一文だぞ、コレでは三日で干からびて死ぬのが関の山だ。

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