すべてがX(未知数)3
一斗缶を蹴り飛ばしたような衝撃が右脚に響く。空気のしびれる音も鼓膜に届いてきた。
一秒にも満たないタイムラグの後ギルガリオンが後ずさる。
ーー好機
「書き換え 酸素、水素濃度」
空中にいくつもの青白い数が浮かび上がり、黄色く変化して消えていく。
「発生確率 火花」
青白い数字。1/586400と言う文字の分母がみるみるうちに減っていき、やがて数字は1/1となり黄色く変化する。
溶け込むようにして消えた瞬間。
一つの短くて小さなオレンジ色の火花が飛び散った。
水素と酸素は火の介入によって、爆発を伴って水に化合する。
俺がやったのは詰まりそう言う事である。
結果として、その場で強烈な爆発が起きる。
「ぐ、グギャ……グギャァォ!」
巨大な火柱が一瞬だけ現れ消えていく、その爆発の中心にいたギルガリオンは途切れ途切れに声を漏らした。
水素爆発によって巻き上げられた砂煙。その中から現れたギルガリオンはすでに皮膚が剥がれており足取りも歪んでいた。
「確率 落雷」
上空に巨大な青白い数字が浮かび上がり、その分母はやがて1になる。黄色く変化した数字は例によって溶けるように消えていく。
次の瞬間、空に分厚い雲が現れて、バチバチと帯電している。
「確率 ギルガリオン落雷確率」
その言葉と同時にギルガリオンから現れた数字が減っていき1になったところで消えていく。
そして……
エレナのヘブン・ブラストとは比べものにならない光量と衝撃と音量が降り注ぐ。
巨大にして強力な電子の集合体は一瞬にしてギルガリオンの硬質な身体を焼き払った。
ギルガリオンは悲鳴すらあげる事ができずに生き絶えた。
ギルガリオンの亡骸を前に、俺はその場にへたり込んだ。
「…………ウソみてー」
無意識のうちに漏れた安堵と自嘲が混ざった言葉。
腰が抜けたという表現がピッタリの状況、目の前には焼け焦げた大地に転がる黒い塊が。
本当にどんな世界だよここ……
恐らくではあるが、この世界ではこの強力な魔法で犯罪などを犯している気がする。
いや、それが異世界もののテンプレートはある意味そこに…………いや、やっぱり犯罪はよくない。
「凄いよ!凄いよユズキ君!!」
エレナがぴょんぴょん跳ねながら何やら喜んでいるようだった。
「な、何が?」
イマイチエレナの喜んでいる理由が分からないから訊いてみる。尚も興奮の粗熱が取れないエレナは顔を真っ赤にしていた。
「あのギルガリオンを一人で倒したんだよ!?凄いよ!!」
エレナは俺の肩を掴んで前後に揺らす。
脳みそが揺れて視界が定まらない。
「わ、わかった……分かったから、揺らすのやめて」
俺がそう言うとエレナは「あ、ごめん」と謝り俺の目の前にペタンと座った。
「で、これからどうするの?」
膝の上に手を置いている?なんとも可愛らしいですハイ。
「別にこれと言って用事は……うん、無いな」
必死に頭を使ってみたものの、これからの行く宛てや用事など、これっぽっちも無い。
神様から頼まれた仕事だって、ダラダラ過ごしながらゆっくりとでいいだろう。
「そうなの?あ!じゃあさ!」
エレナが俺の返事を聞くと笑顔をより一層強めた。
俺がこのあと、どんな厄介ごとに巻き込まれるのかも知らずに。