昇格=危険度大3
「なんで、とはまた不思議な質問ね」
窓際に座るミナが足を組み替える。その仕草が妙に挑発的だ。
「不思議なって……この石に魔力を流せなんて、からかってるとしか思えないぞ?」
するとミナは一瞬、驚いた表情をしたのだが、すぐに納得したように二三度頷いた。
「完全に忘れてたわ……私とした事が」
ミナはそう言うと、俺の手の中に有る石を指差した。
「その石は魔鉱石と呼ばれる物なの」
その言葉に俺は某見た目は子ども頭脳はバーローの高校生探偵さながら、頭の中で何かが繋がった。
そうだ、こういう異世界物は大抵石に魔力を流すことで、その人に一番あった武器が手に入ると言う、お決まりのイベントが。
学校ではやっていなかったから、すっかり諦めていたから、頭の片隅にも無かった。
まぁいい……つまりこれで俺にもやっとイベントが発生するわけだな。
「なるほど、つまり魔力を流せば、自分に適した武器になるのだな、なるほどなるほど」
「違うわ」
「えぇ!?」
え、違うの?決めゼリフ並みにカッコつけて言っちゃったからかなり恥ずかしいよ?
「貴方にはどうしたらそれがそんな優れた物に見えるの?」
「くっ……」
「まぁ、当たりよ」
「当たってたのかよ!なんで騙すんだよオラァ!」
「ツンデレだからよ」
激しく違う気がする。これはただの天の邪鬼だ。
「というか、知っていたなら言いなさい」
これ知ってたことになるのか?なんというか、勘に近い物があるんだが。
「いいわ、早く済ませて」
よろしいこれで俺の最強の武器を作ってやろうじゃないか。
右手に全神経を集中させる。自分の意思と同調した流れの終着点が、すべて右手のひらへと向かう。
流し込んだ魔力と比例して、俺の持つ石が脈をうつ。
「なかなか、流し方上手じゃない」
こんな事にうまいもくそもあるんだな、と無駄な思考が横切るが、すぐさま邪念を振り払う。
流し込んでから約10秒、石の脈動が収まり、淡い光が目視できるようになる。
石は更に発光を強め、やがて目を覆わなくてはならないほど強烈な光を発する。
「目が、目がぁぁぁぁ」
言わなきゃいけない気がしたんだ。石からバルスって聞こえた気がした、感じた気がしたんだ。
「潰れたりでもしたの?」
「いきなり現実に引き戻すなこの野郎」
ミナの実に現実味のあるーいや、この状況で目が潰れることは無いよな?ーセリフにより、男のロマンが崩れ去った。
果てさて、ミナに男のロマン(という名の中二病)が崩れ去るのと同時に、持っていた石の発光もどうやら収まったようだ。
俺の手にはあったはずの石は、石とは全く関係ない、黒い鞘に収まる長方形の板に変わっていた。
「……ゑ?」
いやいや、なにこれただ薄っぺらい板に包丁の柄をつけたような、戦闘には明らかに不向きである板。どう弁解しても板、清々しいほどに板。
だがしかし、まだ鞘に収まった部分とは対面していない。きっとエグい能力とかも備わているに違いない。きっとそうに決まってる。そうじゃなきゃ俺泣ける。三日間は泣ける。
柄、いや取手を掴み、鞘から一気に引き抜く、期待と不安を織り交ぜながら勢いよく引き抜いてみた。
「いや何なのこれ?もうやだこの世界嫌い……」
柄の先についているのは、まるで折れ曲がったかのように、刀身が折りたたまれたような鉄。
しかも、刃先が柄を持つと自分の方に向きやがる。これ自殺用?
何でこんなひどい扱いなんだ。俺一回死んでるんだぜ?本来なら安らかな時を送ってたはずなんだぜ?
それを無理やり神とやらに酷使されてるんだぜ?もう少し待遇あってもいいじゃん……
いいだろう、こうなればやけだ、こいつを使って敵を全員撲殺だ。撲殺伝説を打ち立ててやる。
「ウヒヒ……撲殺……」
ショックのあまり俺の気がおかしくなったところ、ミナはまるで汚物を見るかのような目で言った。
「そこについてる陣はなんなの?」
「陣?んなもんどこに……」
あった。見つけてしまいました。柄の付け根部分、手のひらサイズではあるが、円を基盤とした幾何学模様。すなわち魔法陣を見つけた。
「ま、まさかこれは……」
俺はその魔法陣に触れて、魔力を流す。
すると、機械が起動するかのような緩やかなスピードで、折りたたまれていた刃先が起き上がり、本来あるべき方へ向く。
まるで折りたたみ式のおもちゃを広げるような動きだったが、一振りの剣へと変貌を遂げた。
銀色の刀身が輝くように見える。メカニックでややゴツイ剣には頼りがいがありそうだ。
二~三回剣を振ってみるが、頼りなさはそこには全く無く。程よい重さと、機動力を持っていた。
そしてその逆側には違った魔法陣が存在していた。
何と無く、予想がつき、著作権的にも危ういのではないだろうか。そんな風に考えてしまうが、まぁ致し方ない。
俺はもう片方の魔法陣に魔力を流す。すると……
「やはりか……」
先ほどと似た動きをして、先程まで剣だったそれは、パッと見デザートイーグルのグリップ以外の部分が太く、そして長くなったような形をしていた。
まぁ、刀身が銀色だったから仕方ないといえば仕方ないか。
そして俺は再び右側の魔法陣(銃の形にする際に使用した陣)に魔力を流す。
カシャカシャと、トランスフォーマーさながらの音を立てながら、初めの形へと戻る。うむ、なかなか使えるかもしれん。
「また何とも反則的な武器ね」
ミナは表情一つ変えることなくそういった。こいつ人間としての大事な部分が抜け落ちてないか?
「反則的?そんなもん知るか、これは俺への待遇だよ」
「何に対してよ?」
「そりゃあ俺がしんッ!……」
あっぶな、死んだことに対してって、魔王様も驚きの内容を話すところだった。
「しん?何のこと?」
ミナは、さほど興味もなさそうな表情と口振りで言う。興味がないならスルーしてくれよ。
「新聞配達したことに……ボランティアで」
何故倒置法を使ってまでボランティアと言う情報を伝えたかったのかは謎である。
「何がボランティアよ、その褒美を受け取った時点でそれはボランティアから仕事に成り下がるのよ」
「ごもっともで……」
どうにか上手く誤魔化せたようだ。これからはもっと注意せねば。
ーーーー
と言うような経緯をたどって、俺はこの剣を手に入れた訳なんだが……
「名前を決めなきゃなぁ……」
そう、何ともめんどくさい事に、生成された魔武器(魔鉱石によって作られた武器)は、名前を与えてやらねば能力発動してあげないんだからね! という、究極のツンデレちゃんなのだ。
あぁ、めんどくさい、武器に名前をつけるなんて、どこな世界の中二病患者だよ。
因みに、今ある最有力候補は「DXスライサー」である。
他にも「ユズキEX」や「ポヘマキシマム」などがあるが、悪ふざけにしか聞こえない。いや、DXスライサーも完璧に悪ふざけだ。
どなたか性名占いで、名前つけてくれよ、全然思いつかないよ……何ならこの際「ライト○イバー」にしちまうぞコラ。
俺はそのDXスライサー(仮)の入った鞘のベルトを腰に装着し、エデンランク昇格の際に買った(正式には買わされた)、黒基調の戦闘服に着替える。
戦闘服と言えども、どこかのサ○ヤ人の王子が着るような服ではない。
例えるなら軍人の防弾チョッキに近い。足には、手をおろした位置に来るように付けられた投げナイフ入れ。
胴体は超薄手のベスト風の防具。この防具にはダメージ軽減のための陣が彫られている。
そして、フードがついていて、膝したまで丈がある黒い羽織風のローブ。
うむ……初めて身につけたのだが、なんだかスマートな装備だな。
エデンランクの際は、この上から配布されたローブを羽織る事となる。実際、これで気づくやつも何人か居るだろう。
まぁ、普通のエデンランクの人なら武器を使い分けてるらしいが、俺の場合はそうもいかない。
学校に備わっている転移用の魔方陣を使用してギルド大地の翼へと向かう。
魔力を流し込む事で淡く光を放ちながら、その陣の効力を作動させて行く。
目の前の景色が歪み、三半規管がやられ、やがて気持ち悪くなり、胃がキュウキュウ締め付け、視界が戻る頃にはーー
「おぶぅえぇぇ……」
ーーリバース
何回やっても、この転移の際の視界の歪みにはなれない、かれこれリバースは2回ほど経験値済み。
これに慣れてるエレナたちが、素晴らしい人達だとこの時だけは思える。
「いきなりきてリバースってどうなのよ?」
「が、ガルシアさん……ちわっす」
太すぎる二の腕に抱かれた樽、おそらく中には酒が入っているのだろう。
ギルド内では、あちらこちらにテーブルや椅子が配置され、飾り付けなども着々と進んでいた。
なぜ昇格しただけでここまでしてくれるのか、なんだか少し申し訳ない気持ちにもならなくも無い。
だが、考えてみれば、昼間から酒を飲み交わすような上戸ばかりだ、酒を大量に飲むチャンスなのだから当たり前と言えば当たり前か。
「ちわっす、じゃねぇよ、登場と同時にリバースするやつなんか、始めてだよ」
「す、すいません……」
「それで?なんでそんな物騒な格好してんだ?」
「これから食糧調達してくるんで」
ガルシアさんは着込んだ防具を指差しながら言った。
「食糧?なにを取りに行くんだ?」
「始祖鳥の肉とシロクダラの実です」
俺は深呼吸をして、酔いを冷ますようにする。空気を多量に取り込んで気を紛らわす作戦だ。
「始祖鳥?こりゃまたずいぶんな獲物だな……たしかSSランクのはずだろ?」
始祖鳥、始めて聞いたから分からんが、とりあえず頷いておく、適当なのは気にしちゃいかん。
一番気にすべきはそのランクである。高すぎだろ、強すぎだろ、チートだろ、ふざけるなそんなランクのモンスターなら一撃でお陀仏だ。
いくら数属性だからといっても限界があるんだぞ、俺の命を粗雑に扱わないでくれ。
「それにしても豪勢な食材だな、ま、お前なら大丈夫だろ」
お前なら大丈夫な理由がわかりません。俺は只のもやしっ子です。
「そんじゃな」
ガルシアさんはそう言って、豪快に樽を抱えて準備へと戻って行った。タフガイすぎるぜガルシアさん。
「たくましいよね、ガルシアさん」
「いつのまにいた……」
俺の右隣には、何時の間にか防具を身にまとったエレナがいた。
「今さっき来たばかりだよ」
顔の横の髪を指に絡ませながらそういった。
やはり白基調の防具。だが所々にはピンクのラインが入っている。まぁ、俺と似たように、防具というよりは制服と言った方があうのではないだろうか。
戦闘時の制服、とでもいうのだろうか、とにかく普段着と大差ないレベルなのだ。
相方が揃ったところで……
「行きますか?」
「うん、そうだね」
エレナは手を頭の上で組んで背中の筋肉を伸ばすように、大きく伸びた。それを終えると、一つ息を吐いてから言った。
「それじゃ、ビフレッド高原目指して出発!!」
一人ハイテンションのエレナ、俺は小さく「おー」と返答して、意気揚々と歩くエレナのあとをついていく。
いまから向かう、ビフレッド高原は、大まかな位置なら把握しているのだが、このギルドからの道順と言われると、そう詳しくはない。
よって俺がビフレッド高原に辿り着くには、エレナのナビゲート、道案内が無くてはならない。
「さて、転移するよー」
「えっ!?マジで?」
「うん、ビフレッドくらいなら大した消費にならないし」
引きつる俺をよそに、エレナは俺に手を差し伸べる。握れという合図だ。
そりゃ、年頃の青少年だし、異性を意識しちゃうから、エレナの手を触ることができるのは嬉しいのだが、それ以上にーー
ーーまた酔ってリバースしちゃうのか俺は……
そう思うと憂鬱でたまらない。
「ほら早く」
エレナが急かす。しかたないまた腹をくくろうではないか。
「どうにでもなれ……」
俺がエレナの手を掴むと、数秒後には、視界が歪み出していた。
どんなペースで更新していけばいいのか分からんちー
作曲とかしてたら内容薄くなって行きそうで怖い




