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数学オタクが転生します  作者: 二毛作
2/55

全てがX(未知数)1

ーベアトリア西区ヤハウェの森ー



 目を開けるとそこに広がったのは一面の花畑でも無ければ白一色の世界でも無い。薄暗い中に木漏れ日が指す緑の多い森であった。



「あれ……なんでこんな所に?」



 大の字で仰向けだったため、上半身だけ起こして辺りを確認する。



 木漏れ日が指しているところから、まだ時間的には安心できるだろう。問題なのは出口である。



 何処から入ったのか、なんの目的で入ったのかも分からない。そうとなればここから抜け出すのは困難である。



「畜生、ここ何処なんだよ!」



 無意味に叫んでみたものの、その声に反応してくれるような心優しい人達はお出ででない。



 だが、森の中で叫ぶというのは非常に危険な行為だとご存知だろうか?



 獰猛な熊や猪などはその音に反応してこちらに向かってくるのだ。

 


 そして、その事に気がついても時既に遅し。後ろから腐葉土を力強く蹴りつける音が耳に届く。



 ヤバイ、逃げなきゃ……



 そう頭で理解していたとしても、その音がどの方角から来ているのかが掴めない以上、迂闊に動く事は出来ない。



「どっちだ……全方角から今俺の真っ正面から来るのは1/360……いやまてよ? 分母の値は自然数の値でしか無い……つまり無限小の値を考えれば……む、無限大!?」



 数学男子の性なのか、こんな状況でも何故か数学の確率で計算してしまう。それにそこまで細かくしなくても良いのに。



 というかあれか、人間の視覚は訳180度あるからそこまで可能性が出てくるわけがないか。



 なんだったら聴覚からの情報もあるからこの向いている方向で全巻書く神経に集中すれば、この方向を向いていても問題ないのでは?



 マルチタスクに定評のある、どうも俺です。



 これは相当焦っているぞ……



 その時だった。小枝を踏みつけた乾いた音が聞こえた。方角は右側だ。



 となればここは真逆の左へ逃げるべき、いやいや猪なら直線に来るからこのまま正面にダッシュをかけるべきか。



 そうと決まれば作戦実行である。



 俺は自らの身体能力を信じで力強く初めの一歩を踏み出した。



 するとどうであろう、信じられない事が起こったのだ。



 通常の人間がたった一歩で数十mの距離を移動してのけたのだ。



「どどどどど、どうい、どう言う事!?」



 流石の俺でも動揺する。いくらサッカー部だったからってこれは無いだろ。



『あ、あーマイクのテスト中ー、聞こえたらその場で裸になり二回廻ってワンと言いなさい』



 それも突然の出来事であった。頭の中に直接響く声。何処かで聞いた事がある覚えがある声だ。



 と言うかどう言う事だコラ。何故そんな事をせねばならん誰がするものか。



 いや、それ以前にお前誰だよ。



『おっかしいのぉ、よし音量MAXで』



 え?これに音量とかあんの?



 次の瞬間だった。頭が割れんばかりの大音量(いやこの場合は刺激と言うべきなのか)が発生した。



『あーあー!マイクのテスト中!!聞こえたらその場で裸になって逆立ちのまま二回廻ってワンと言いなさい!!』



 なんかちゃっかり難易度上がってる!?いやいや、こんなところでそんな事してみろ、誰かが来た瞬間に変な人だと思われるだろ!!



『聞こえてないのか、よしこのままアンプに繋いで……』



 ぬぉぉぉぉ!!畜生ぉぉぉぉ!!



 俺は着ていたジーパンとTシャツ、カーディガンをその場に脱ぎ捨てた。



 依然として不思議な声は止まない。寧ろアンプに繋いでいる音が聞こえて来る。



 直ぐさま逆立ちを開始し、その場で自分の運動神経を超越した動きで素早く二回まわる。



 そしていざ、プライドなどハンマー投げ、いや核弾頭の如く遠くへ投げ捨てて「ワン!」と言おうとした時であった。



「へ?」



「ワ…………んんんんんんん!?」



 そこにいたのは、手に編み込まれたカゴを持ち、その中にはキノコや山菜と言った山の幸が入っていた。



 そして、綺麗なピンク色の長い髪をポニーテールのようでなんだか違う。



 詳しくいうのなら、後ろ髪は結わずに、耳にかかる髪だけを後ろで結わえているのだ。うん、ポニーテールより良い……



 そして、綺麗な赤い瞳がこちらを見ていた。



「い、いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!」



 そして、腹部への激痛を感じつつ俺の意識は冷たい土に付く前にブラックアウトして行くのだった。



 そして、頭の中で響く爆笑する声。



 ーーいつかこの声の主殺す。



――

――――

――――――



――――――

――――

――


「とりあえず殴られ乙」



 俺の目の前に長いヒゲを有し、顔じゅうにシワが刻み込まれた自称神様のオヤジがいる。



「安心しろ、お前のおかげで何もかも思い出した」



 そう、こいつが俺に第二の人生をくれた人物だとは思いたくないが同一人物らしい。



 こいつは、俺を気絶させる為だけにあんな行為をさせたらしい。あの少女が来るのも分かっていたらしい。



 確信犯とあれば話は早いとりあえず一発殴らせろ。



「殴った瞬間に貴様をミトコンドリアに変える」



 怖すぎ。



「まぁいい、で?何の用だ」



 敬語?そんなものこいつに使うものでは無い。寧ろ暴力に訴えかけない俺を褒め称えて欲しいくらいだ。怖気づいたわけじゃないぞ、決してな。



「いやさ、なんだか自分の身体能力とかについて分かってないみたいだったからさ、あと、仕事内容言ってなかったし」



 神はガラステーブルに置かれていたクッキーをカスをボロボロと零しながら言う。



 俺にも寄越せ。



「あぁ、そういうことか、あの身体能力はなんだ?異常だろ」



「あぁ、あれはね、こっちの世界では力って言う概念は魔力量と筋力に比例するんだよね」



あぁ、なんだかそんな知識があったな。



 確か、体内にある魔力量によって、人体は常時肉体強化をされており。それを故意的に行うことを身体強化と言う。



 だった様な感じがする。



 先ほど知識を入れられたばかりで全然当ている感じがしない。今の言葉mおまるでうろ覚え状態のようにはっきりとしていない。



「で?その仕事内容とやらは?」



 別にベアトリアに戻ったとしてもすることは無いのだが、何分自らの裸体を晒しながら意識を失っている。



あ!そういえば女の人いたよね!?つまり俺は今現在女の子の前で全裸で眠っていると。



 どう考えても変質者ですね分かります。



「あぁ、仕事内容はね」



 ここで神は一旦言葉を切った。雰囲気が変わったのを悟り、今は体の心配を頭の隅に追いやる。気にしたら負け、だって殴って気絶させたあの子が悪い。だって俺まだ何もしてないし。



 そして、神から告げられた言葉は信じられないものであった。



「儂の作り出した理から外れたものがベアトリアにいる。お前はそやつを探し当てて抹殺することじゃ」



 神は確かにこう言った、守る立場である筈の神は人間を殺すことを俺に仕事として与えた。



 この様な極稀で、奇々怪々な出来事に直面している俺も元を辿ってもそしてまた現在も人間である。



 同種族である人間を殺してくれと頼まれて、「はい分かりました」と答えられるほど人間をやめていない。それではまるで殺し屋だ。



「お主に拒否権などない、転生させた時点で決定事項だ」



 神は厳しい現実を突きつける。



「勝手に転生させておいてか、たいそうな御身分だな」



「勝手にとは失礼だな。きちんとおぬしの意見も聞いた筈じゃが?」



 まぁ確かに反対はしなかったけども、こんな依頼内容だなんて聞いてなかったぞ俺は。



 これは仕方が無いことか……



「一応言っておく、そやつは何人もの命を奪った人物だ、気に病むことは無かろう」



 神はそう言うとクッキーを二つ口の中に放り込み咀嚼する。



 喉仏が二、三回脈を打つ様に動いた。



「一応儂との連絡は出来るようになっている、気軽に話しかけろ、頭の中で念じるだけで通じるからの」



 それだけ言うと彼は立ち上がって指をパチンと鳴らす。



「ベアトリアに戻す。精々頑張ってくれ」



 視界は本日三度目のブラックアウトを開始した。



――

――――

――――――



――――――

――――

――



「あ!気がつい……ふ、服を着て下さい!」



 目が覚めた時に視界に広がったのは美女。



 ついに人生の勝ち組になったか、と思ったのも束の間。



 この人はさっき俺を殴りつけた人だ、まぁ俺が……いや神が悪いんだが。



 彼女は俺が目覚めたことに気がつくと、顔一面に笑顔を浮かべた。



 だが、俺が上半身だけを起こすと、彼女は突然顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。



 フラグが……フラグが立った!!



 などでは無く、すっかり忘れていたが俺は全裸である。



 彼女が顔を背けるのも無理はない。



「わ、私あっちにいるから終わったら呼んで」



 彼女は俺と一切顔を合わせずに早口で言い残すとそそくさと茂みの方へと向かっていった。



 俺は直ぐさまパンツ、ズボン、Tシャツ、カーディガンを着て彼女を呼びに行った。



「終わった……よ?」



「あ、お帰り……」



 彼女は何と、まだ太陽様が登っているにも関わらず寝袋を敷き始めた。



「本当はここからもう少し行ったところにキャンプがあるんだけど、もう夜遅いし寝るね」



 ここにキャンプがないなら一体寝袋はどこから出したんだ。と訊いてやりたいのだが、気になるフレーズがあった。



「夜遅い」



 俺が始め、この森で目が覚めた時は木漏れ日が差していた。



 この子は何を言っているのだろう。



 まさか別世界だからと言って、こんなにも早く時間が過ぎるわけがないだろう。



「あの~まだ、昼じゃ無いんですか?」



 俺がそう言うと彼女はポカンとした顔で俺を見て来た。



「いや、もう12時だけど……」



 彼女はそう言いながら立ち上がる。おそらくだが、彼女の言っている事に間違いはないだろう、戸惑ったような、それこそ「こいつ何頭湧いたこと言ってんだ」見たいな表情がそれを物語っていた。



「あの、俺は一体どれくらい眠っていたの?」



 そうとなれば俺はかなりの間眠っていたことになる。実は神のいる間と、こことでは時間の流れが違うなんて、ファンタジーお約束のあれが起きているのかもしれないからだ。



「うーん、精々長くて十分かな、時計見れないから正確には分からないけど」



 …………おかしい。



 ならば、その他に何が考えられるのだろう、俺と彼女の時間軸の乱れの原因はなんだ。



「でも、ほんの数十分前に木漏れ日が……」



「ウソ!?どの辺り?」



 俺の意識の及んでいなかった呟きに、彼女は過剰な反応をみせた。



「どこって、ほら……あそこらへん」



 俺はそう言って、元居た場所を指差した。ここからじゃ茂みが邪魔で良く見えないが、確かにそこを指指す。



「…………」



 彼女の顔が一瞬険しくなったのを俺は見逃さなかった。



 彼女は抜き足で俺の指差した所まで行くと、唐突にこう告げた。



「ねぇ君、目を閉じていたほうがいいよ」



「え?」



 彼女はそれだけ言うと手を天に掲げた。



「シュードラ No.7【フラッシュ】」



 次の瞬間、彼女の掌から強烈な光が発光する。咄嗟の事で反応が遅れるが、直ぐさま目を覆う。



「ヤバイかもね……」



 彼女はそう呟いた。



「ヤバイって、何が?」



 目がチカチカしていて、思うように景色が認識できない。



「グギャァァアァァアアァ!!」



 何だか聞いた事のあるような声。歴史の番組などで恐竜についての内容のときに、CGによって作られた肉食恐竜。



 その時に聞くティラノサウルスの鳴き声にとてもよく似ていた。



「な……なんだあれ……」



 空から落ちて来た物体が一つ、それもかなりの大きさのもの。



 周りの樹々を薙ぎ倒して、辺りには砂煙を巻き上げた。



 その姿をはっきりと確認できない中で彼女はこう声を漏らした。



「ぎ、ギルガリオン……」



 震える声で、彼女は確かにそう呟いた。



 それが、何なのか分からないが彼女の声からは恐怖が読み取れる。



「なぁ、ギルガリオンってなんだ?」



「……全長8m~12m、体重は約3t、龍族の中で最も俊敏生に優れた種類のドラゴンランクは最高でもS-(エスマイナス)」



「…………」



 なんだか、転生後ですがもう既に死にそうです。



 魔法があれば魔物がいると言うのはお決まりのようだ。恐らく彼女は魔法を使えるのだろう。



 それも何だかSっていうやばそうな舐めを訊いた。おそらくランクの話だろうが。彼女の反応から察するに、かなりランクは高い方にあると見た。



 それこそAランクの上に位置しているであろうspecialの頭文字からきたであろうSランクなのではないかと、本能的に感じれるまである。



 だが、俺はどうだろうか。神様には魔法があると言われたが、実際に使用した事もなければ、どんな能力なのかも分からない。



 確か、数の魔法があると言ったが、その能力は未知数だ。



 接近戦闘に持ち込もうにも、平和万歳の国で育ったもやしっ子。それに魔法ありきの世界ならば接近する前に俺が死亡する可能性の方が高い。



 彼女は自らの身を守れるかもしれないが、俺は不可能だ、使い方が分からん。



 あ……神に聞けばいいじゃん!!



 やべ俺って天才かも。



 確か、念じるだけで良いって言ってたな。



『おい、神!!聞こえるか!?』



 俺は期待しつつそう念じた。



 しかし、世界は俺中心には絶対に回らないらしい。



《お念じになった念話は、現在念波ねんぱの届かない所におられるか、貴方が嫌われて意図的に無視されているため繋がりません》



 ゴミかよ。



 機械的かつ挑発的な内容の返答が帰ってきた。神は念話?と言うものに出れないらしい、つまり打つ手無し。



 俺の第二の人生はたった数時間で幕を下ろす事になりそうだ。



 いや、まてよ……いざとなればこの隣にいる奴を置き去りにしたり……



 そうだ、腹を殴られたんだからそれ位しても罰は当たらないさ!!



 よし、そうしよう。すまないな人は多くの犠牲の上で始めて成り立つのさ。

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