ゆう君の朝。
朝起きて、3分くらいはぼーっとする。
雛が、今何してるかなーとか、これ見てるかなーとか思うと、にやけそうになるけど、部屋の中では我慢。
とりあえず着替えて、ケータイを持ってリビングへ向かう。
朝ご飯を食べながら、きっと雛は今急いでこっちに向かってるんだろうなーって思って、今度はにやける。むしろニヤニヤする。
姉貴に茶化されて、でも雛の前で出せない顔を惜しむように、思いっきりにやける俺、かなり幼稚。
姉貴が仕事に向かった。
もう5分もすれば雛が来るはずなので、歯を磨いて顔を洗っておく。
今日も、寝癖は直らない。
インターホンが鳴る。
地味に、雛がちょっとじれるくらいのタイミングで(ここ重要)出る。
ああ、今日も可愛い彼女。
「おはよ、雛」
「おはよう、ゆう君!」
返しが早い辺りで、今日もちゃんと俺が好きだなって確認して、凄く嬉しい。
なんて思っている俺は、絶対雛に見せられない。
玄関を出て、靴をきちんと履くと、右腕にするりと組まれる細い腕。
ちゃんと食ってるのかな、華奢過ぎるんだよ、雛。
…いや、可愛いけど、可愛いけど、可愛いけど。
「ゆう君、大好き」
おや、今日は直球ストレートの日ですか。
そのちょっと照れて上目遣いなところは鼻血ものですよ、分かっているんですか、雛さん。
「ありがとう、雛。」
敢えてここまでしか言わない。
雛…悲しそうなその顔、堪らない。
「ゆう君は、あの、
…私のこと、嫌いになった?」
俺の腕を掴む力に僅かに弱くなる。
何考えているのか、丸分かり。
どうせまた、無意識に前の彼氏と俺を比較してるんだろ?
「…俺は、雛のこと、愛してるから」
俺が雛の方をにこりと笑って向くのが早いか、雛が顔を上げて笑みを見せるのが早いか。
どっちにしろ、雛が笑顔なので、まぁ良いか。
学校に到着。
靴を履き替えると、もう教室は間近。
二、三言葉を交わして、真反対の教室にそれぞれ向かう。
学校の造りが憎々しい。
雛が、振り向いたのが、なんとなく分かった。
俺は振り向かない。
俺は雛ほど、強くは無いんだ。
最近分かったことがある。
俺が不機嫌そうに佇むと、女は寄って来ない。
あれだ、雛を考えてにやけることが出来る場所が減ったんだ。それだけだ。