2&1
執筆中のどの長編小説とも関係無い物です、ご注意ください。
初夏の日差しを浴びながら、ミンミンと五月蠅いセミの合唱の中を一台の車が走り抜けていく。
高速の渋滞にはまった途端ご臨終されてしまったエアコンの所為で、関東に居ながら砂漠で遭難した人の気分を味わう事ができた。うん、貴重な経験だった二度とゴメンだが…。
新車で手に入れた初めての愛車も、早10年以上が経過しアチコチにガタが来ているが、不思議と手放す気にはなれなかった。
軽自動車の2人乗りという、趣味以外には不便この上ない車であり実際その所為で困った事も数え切れない程あった。何しろ自分ともう1人しか乗せられないのだ、友達連中と遊びに行くとしても足としての頭数にすら入れてもらえない。
7人乗りのワゴンタイプでワイワイと楽しそうにはしゃぐ皆を、後ろから眺める事になった同乗者には同情を禁じえなかった。うん、俺上手い事言った。
親父ギャグは置いといて、その他にも多々あった不都合を乗り越えて俺はこの車に乗り続けている。
660ccでノンターボという非力な車は、しかしその軽い車重のお陰で軽妙なコーナーリングを味わえる。上り坂では後続車に煽られ、下り坂で下手に攻めれば危うくコーナーでぶっ飛ぶ一歩手前を味わえる、実に風流である。
自然と安全運転になり、今まで無事故無違反ゴールド免許である。
いくら煽られようが節度ある程度のスピードを維持し、マイペースで走り続ける。抜きたければ抜けばいいさ、小さな車体に大きな心を乗せて俺は走り続ける。
やがて見えてくる見馴れた一軒家、白い壁に茶色い屋根、何処にでもあるような普通の家。その玄関先で待つ他に掛け替え様の無い1人の女性。
前の車で楽しそうに騒ぐ仲間の様子にも、愚痴る事無くこの車独特のオープンカーとしての楽しみを一緒に楽しんでくれた女性。
そしてその後も一番多くこの助手席を利用し、最後には「ここは私専用ね」とまで言い出した女性。
2人で暮らすために購入した新しい家に、2人を繋いだこの古い車で旅立つ。
「お待たせ」
「15分の遅刻よ」
やばい少しご機嫌を損ねてしまった、更に助手席に乗り込んだ彼女をムワっとした熱気が襲う。これは出だしからついてないとな思っていると、ガリガリと音がした送風口からブワっと冷風が噴出してきた。
空気が読めるとは流石は相棒
時代遅れの不便な車で、新しい暮らしの第1歩を今踏み出した
END
短編小説って難しいですねぇ…。
長編小説も難しいんですけどね……Orz