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嘘の世界1

配られた重さ

作者: ハル

その世界では、理想の未来は最初から配られていた。


生まれた日に、白い紙が一枚、手の中に残る。

文字は書いていないのに、誰もがそれを自分の理想の未来だと知っていた。


折ると軽く、伸ばすと少し重い。

その重さだけが内容だった。



人々は紙をなくさないように生きた。

雨の日は胸にしまい、眠るときは枕の下に置いた。

仕事も遊びも、紙が濡れない形に自然と整っていった。


紙を見せ合うことはなかった。

見せなくても、同じものを持っていると皆が思っていたからだ。



彼もその一人だった。

紙は破れていない。角も丸まっていない。

それだけで十分だと思っていた。


未来は守られている。そういう手触りがあった。


ある日、彼は紙を折り直そうとして、うまく折れないことに気づいた。


指が滑る。

折り目が逃げる。

紙が紙であることをやめたようだった。


理由は分からない。

誰に聞いても、そんなことは起きないと言われた。



その瞬間だけ、世界の重さが逆になった。

歩くと軽く、立ち止まると沈んだ。


彼は紙を落とした。

床に落ちたはずなのに、音がしなかった。

拾おうとしたが、紙は床から離れず、床の方が彼の手から離れた。



次の瞬間には元に戻っていた。

歩けば重く、止まれば軽い。紙はまた紙だった。


誰も気づいていない。


彼自身も、気づいたと言えるほどの確信はなかった。



それから彼は、紙を守ることをやめた。

しまわず、折らず、濡れても乾かさなかった。


紙は変わらなかった。重さも同じだった。

理想の未来は減りもしなかったし、増えもしなかった。


ただ一度、夜に目が覚めたとき、枕の下に何もなかった。

紙は消えていた。

慌てる気持ちは出てこなかった。


代わりに、手のひらに、あの重さだけが残っていた。


形はない。白さもない。

ただ重さだけが、どこにも置けずに残っていた。



朝になると、紙は元に戻っていた。

いつもの白い一枚だ。


彼はそれを見ていない。

見る必要がないと、なぜか分かっていた。



街では今日も、人々が紙を守って歩いている。

落とさないように、濡らさないように。


彼はその間を通り抜ける。


手のひらには、まだ重さがある。紙は軽い。


どちらが未来なのかは、確かめていない。

確かめる場所が、この世界にはなかった。


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