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プロローグ

世界とは勝手に続いていくものだ、誰もが無意識にそう思っていた。


保障などどこにもないというのに。





舞台は異世界『ディオグレイス』と呼ばれる世界。


魔法と科学が融合した独自の文明を持つ、まさに理想郷。


人々は自分の生活を豊かにしようと目の前にある力を欲した。


結果、魔法で空が飛べて、化学でテレビを見ることが出来る便利な世界が誕生することに。


しかしそれは星のエネルギーそのものを消費する行いであった。


星の寿命と引き換えに発達したその世界は今、終わりの時を迎えようとしている。




此処はイニツィオ。小さな田舎町である。


平凡でのどかなこの町にも綻びのようなものは見て取れた。


元はぴかぴかだった石畳は大きくひび割れ、町の一部の部品が瓦礫となって飛ぶ。


ひどい所は空間の一部がごっそりと削り取られて、何もない空間と化していた。


とても経年劣化だけだとは思えない。


ただ、発光石で作られた町の燈だけが虚しく瞬いていた。


変化が大きく見られたのはここ数年のこと。


町長からは『今原因を調査しているから関係者以外は外に出るな』とお達しが出ているほどで、人の影は殆どない。


町の奧には木々に隠れて一軒の古びた店があった。


看板は壊れかけて、文字もほとんどかすれて読めない。


それでも造りと佇まいから何となく料理店なのだろうと推測できるだろう。


正確には『だった』だろうか。ドアの前のプレートはCloseの文字が下がっている。


店には人の姿があった。


プラチナブロンドに青い瞳の青年だ。ぱっと見は男か女かわからない。


名をスフレという。


彼は物憂げな表情を浮かべながら、ぼうっとウインドウから外を眺めていた。


いつからだろう、と考える。


彼が幼いころはこの辺りは人通りが多く、活気で満ちていたはず。


それが徐々にほころんで行き、気づけば今の様子だ。


町の人が。近所のおじいさんが。ロシェが、お母さんが、お父さんが消えていった。


この建物は、両親が生きていたころはそれなりに人気のあるレストランだったのだ。


今では彼が寝て、食べて、また寝る為の場所となっているが。


外に出るのはごくたまに買い出しに出るときのみ。


この生活を始めて早12年。


勿論彼とて好きで引き籠っているわけではなく、何事にも関心がもてないだけだ。


世界の終わり。

終末を想起させるような光景を見ても、彼の心は動かなかった。


まるで自分がその辺に落ちている小石にでもなったかのようだ、とスフレは考える。


いや、石にも感情はあるのかもしれないけれど。


今日もこうして、一日が終わる。


あと何回続くのだろう、いや続けなければならないのだろう。


蟠っているこの感情を抱えて生きる。


しんどい、辛い。


慣れてきたのか、最近は感じ方も変わってきた。薄くなってきた。


生きることがめんどくさい。惰性で生きてる。


そんな自分が嫌だと思ったりはするし、抜けだしたいとも思う。


でも、方法が分からなくて結局繰り返し。


「……はぁ」


物思いに耽っていた彼の口からため息がこぼれた。


見るとはなしにドアの方に目をやる。ドアノブには埃が。


よく母が洗剤をつけて磨いていたものだ。


掃除、しないとな。


彼は手を伸ばして、また戻す。


……そんなことやったって二人は現れない。


あの日から彼の心の時は止まったまま。


ふいに。コンコン、という音がした。


誰かがドアを反対側から叩いたのだ。


黙っていると再びコンコン、とドアが叩かれる。今度は少し強めに。


相手を間違っただけだったんじゃないか、という予測は外れたようだ。


だとするとスフレに用事があるということだろうか。


コンコン!

「もしもーし!誰か居ませんかー!!」


今度はノック音だけでなく声もついてきた。


まだあどけない少女の声だ。響きには切迫感がある。


ただならない様子に仕方なくスフレはドアを開けることにした。


「……はい」


埃を軽く手で払って、ドアを開ける。


「あっ、やっと出た!!もー、また間違えたのかと思ったよー。おじゃましまーす!!」


ギィ、という鈍い音がするとともにタタッと少女が店に駆け込んできた。


くりくりとしたアーモンド型の大きな瞳が印象的な少女だ。


丈が短くて、袖がやたらと大きいワンピース?のようなものを纏っている。


頭には大きな狐の耳が。獣人だ、と彼は思った。


前は珍しくもなかったが、人通りが減った今、見るのは久々だ。


「白い髪に青い瞳、左目の下の泣きホクロ……確認するけど君がスフレ?」


少女は手元のメモに視線を落としながら、彼に語り掛ける。


「そうだけど」


「いきなりなんだけどお願いごとがあるんだ」


「はぁ」


彼はすっかり面食らったまま、話が続いていく。


「一緒に世界を救って欲しいんだ!」

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