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エピローグ 終曲 Cat's Eye

 終曲 Cat's Eye


 私はくろあしねこ。

 名前は、ククリ。

 まっくらいなかで、お母さんがかえってきて、おっぱいをのませてくれるのを待ってたの。

 でもお母さんはかえってこなかったの。

 まっくらで、おのどがかわいて、おなかがすいて、あつくて、さむくて、アリがいっぱいで、とても苦しかったの。

 そしたらゲントがきて

「おまえもひとりなのか」ってきくから

 うんって。

「いっしょにすむか」ってきくから

 うんって。

 そしたらおうちに連れていってくれて、くすり臭いけどあったかいミルクたくさんのませてくれたの。

 さいしょは甘いミルクをたくさんくれたけどぜんぶ吐いちゃったの。だからゲントはこのくすり臭いミルクを探してきて、のませてくれたの。

 こんどはウンチが出なくなってお腹痛くて泣いたの。そしたらあったかいタオルでおしりを洗ってくれて、それから少しずつウンチ出てきて、なおったの。

「元気になれよ。お前が強くなるようにつよい名前を付けてやるからな」

 それから私はククリなの。

 ゲントはいっぱいおしゃべりしてくれたの。だんだんわかるようになってきたの。お月さまを指差して

「あれが月だよ。あれは僕の国からでも見えるんだ。一緒に行ってみたいかい」

 うんって。

 それからゲントといっしょにお月見するのが好きになったの。

 一緒にいられたらそれだけでとてもうれしいの。

 私がはじめて机の上からピョンしたとき、ゲントはすごく喜んでくれたの。

 だからいっぱいピョンして見せてあげたの。

 ゲントはお話しするときに、私が聞こえやすいようにいつも肩の上に乗せてくれたの。だからゲントの肩の上はいつも私の特等席。

 私がひとりでゲントの肩の上にピョンできるようになったとき、ゲントもっともっと喜んでくれたの。私もうれしい。ゲントだいすき。

 おうちのなかにねずみが出たの。おもしろいから追っかけっこしたら私が勝ったの。だから押さえつけて引っかいたら首が取れちゃったの。血がいっぱい出てきてとってもおいしそうだったからなめてみようとしたら、ゲントがあわててやって来て私を突き飛ばしたの。

 私びっくりしたけど、あれはなめちゃいけないものだったんだ。よかった。ゲントだいすき。

 おうちにゲントとちがうかっこうの、黒くて大きなひとがきたとき、その人を喜ばせようとしておもいっきりピョンしたら、そのひと泣きながらひっくりかえったの。ゲントたくさんあやまってた。それから私はゲントといっしょの部屋。

 ゲントときどきいなくなっちゃうの。いなくなるまえに、はやく帰ってくるよ。お月さまが夜に3回出たら次の朝に帰ってくるよ

 っていうから待ってたら帰ってきたよ。そしたらごめんねってあのすごいおやつくれたの。チャチュル。

 でもとってもさびしかったから一日中特等席にいてもよかったし、ゲントが飲もうとしてたビールをひっくり返そうと手でがたがたしたの。

 ゆるしてください、ひとの心があるのならそれだけは。

 って言ってたけどガチャンしたの。おしおきだから。

 ゲントひっくり返った。動かなくなったの。あのねずみみたいに死んだのかなってにおいを嗅ぎに行ったら少し息してたから髪の毛をくわえてプチプチしたの。

 それでも動かないからもっともっとプチプチしたら

 わるかった、もうやめてって言ったからやめたの。私えらいでしょ。

 ゲントそれをたくさんほめてくれたの。えらいねって

 またいっしょにお月さまみてたの。窓の外のお月さま。そしたらゲントが


「お前は四肢もあるし九穴をもち陰陽の気をやどしている。私の言葉を理解しているし一緒に月を見てくれる。お前と私は同じ生き物だと思うんだよ。わかるかい」


 おもいっきり、うんって。


 そしたら、お昼にきた女のひとがやってきたの。

 すごく泣きそうになってたの。お母さんが帰ってこないのかな。あつくてさむいのかなって思ってみてたら、はじめてみる男のひとが入ってきたの。

 その男のひともなんだかなきそうになってたけど、ゲントが何か言ったら二人とも笑い出して、ゲントも笑ったの。

 私も嬉しかったの

 そしたらあの

 そしたら

 あのこわいひとがドシンドシンって入ってきたの

 でもその男のひとも泣きそうだったの。お母さんが帰ってこないのかな。

 そのひとは女のひとをつかまえてゲントに突き飛ばしたの。ゲント私に逃げろっていうから、窓から外にピョンしたの。

 お月さまがなかったの。

 どうして。


 それでゲントのところに帰ろうとしたらあのこわい泣きそうな男のひとが、ゲントのおなかの血を自分のかおに塗りつけて

「あのねこがやった」っていいだしたの。

 私やってないよ。

 そしたら女のひとが「ククリ、そのひとやっつけて」って叫んだけど、

 その女のひとこわい人に刺されて殺されちゃったの。

 ねずみみたいに、血がいっぱい出てた。

「私たちはみんなククリに殺される」

 女のひとはいったけど、私やってないよ。

 そしたら、さっき笑ってた男のひとも、あのこわい人に殺されちゃったの。


 あのこわい人、みんなを殺しにきたんだ。

 追っかけっこなんだ。殺されたら負けなんだ。

 私はこわい人が狙ったのと同じ、こわい人の首のところを狙って、おもいっきりピョンしたの。それで、たくさんたくさんガシガシしたの。そしたらこわい人はなぜだ、なぜだって鳴いて、階段からピョンしたけど、うまくピョンできなくて、死んだの。

 私えらいでしょ。


 それでゲントにほめてもらおうとおもって、ゲントのところに行ったら、ゲント動かないの。血がいっぱい出てた。

 負けたのかな。死ぬのかな。

 でも、私えらいからどうしたらいいか知ってるの。

 ゲントの髪の毛をプチプチしたの。

 それでも起きないからいっぱい

 いっぱいプチプチプチプチって。

 そしたら。

 そしたらゲントは。

「お前には参ったよ。大好きだよ、ククリ」ゲント起きた!

「カネのことで殺しあいになるなんて。だから人類はきらいだ。ククリ、僕はお前と同じ生き物になりたかったんだよ。だけど僕はもう死ぬんだ。人類なんて大嫌いだ」

 うんって

 ゲントもうしゃべらなくなった。

 おしゃべりして。ゲント

 行かないで

 逝かないで

 お母さんみたいにどこかに行かないで。

 ゲント、なおって。

 ペロペロペロペロ

 私はゲントの頭と目から出てくる汗や涙をいっぱいなめたの。いっぱいチューしてあげたの。だけどゲント起きないの。

 ゲント冷たくなってきたの。どうしたら治るの。

 ゲントいっぱい血が出てたの

 血はなめたらいけないものなんだけど、ゲントの傷口をきれいにしてあげないとゲント死んじゃうから。もうプチプチしても起きないから。

 だから血を。


 おいしい

 ミルクより

 カリカリより

 チャチュルより

 おいしい

 なんという甘美な味わい


 この生き物は。

 この種は。

 こんなにか弱いのに、こんなにうまい血を、肉を

 この薄皮の下に隠し持っていたのか。

「人類なんて大嫌いだ」

 ゲント、そうだったんだね

 私は、それなら、この種を食い殺すよ。

 えらいでしょ。


 翌朝未明

 14 feb 202X APF通信速報

 ナミビア共和国カサネ市カズングラ国境橋のイミグレーションで、10名が猛獣に襲われて重傷を負った。うち3名が死亡。

 地元ハンター組織が猛獣を追ったが害獣のゆくえは杳として知れない。



 ククリさまへ愛を込めて


 14 sep 2025


 KUKURI くろいあしのねこ 了

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