第一章 二人の見習い ■『足あり』との遭遇
ラザクの眠るお墓には
丈夫な鍵がついてるの
墓守さんが持っている
丈夫な鍵がついてるの
ラザクを怖がる弱虫は
大人になんかなれないの
優しい人にはなれないの
だってラザクの正体は
虫に噛まれた人たちよ
墓守さんの言うことにゃ
ラザクの目を見ちゃいけないよ
あの目は優しい目をしてる
時にはママの目をしてる
それでもラザクは這い出るの
お墓の下から這い出るの
ラザクと人は仲良しで
いつも一緒にいるものよ
仲良くなっちゃいけないのは
鍵を持ってる墓守さん
墓守さんは怖いのよ
優しい人でも怖いのよ
だってだってパパとママ
墓守さんはいつの日か
『足あり』ラザクに
なっちゃうの。
――ラザクに最も近い町『ペメルン』の童謡
第一章 二人の見習い
「盗賊ではない。私たちは、この世に蔓延る死戒虫を根絶せんと命を賭す、誇り高き墓荒らしだ」
偉大なる墓荒らしの娘『墓守見習い』ジュンシャ・レイメイ
■ 『足あり』との遭遇
その夜、少年はペメルン七番街の路地裏で命の危機に瀕していた。
夜闇の中、赤く光る不気味な点がふたつ。
少年は、その光の正体を知っていた。
あれは、怒りと悲しみを纏った、ラザクの目。
ラザク――墓の下から這い出る、死戒虫に冒された生ける屍の事を皆そう呼ぶ。
少年がラザクの存在に気づいた時にはもう光る目は姿をくらましていた。少年は焦った。ラザクがこちらの存在に気づいていたのなら、十中八九襲いかかってくるに違いない。赤い目をしているのなら、完全に凶暴化したラザクである。最悪の場合、並外れた戦闘能力を持つ『足あり』ということもあり得る。
警戒するのが遅すぎた。本来ならば、七番街に足を踏み入れる前にラザクの気配を探るべきだった。滅多なことがない限り市街地に赤目のラザクは出ない。そのような油断が今回の事態を招いた。
赤目のラザクから逃げるすべはない。
戦って倒すしか少年が生き残る道はない。
「来るなら来い」
少年は構えた。山から吹き来る風と漆黒の闇が、ラザクの気配を完全に殺している。
刹那。禍々しい夜力{やりょく}の流れが、少年に向けられた。
一瞬の内にラザクに詰め寄られ、少年は衝撃と共に勢い良く吹っ飛んだ。
「何が起きた? 俺は……まだ生きてるのか」
「ギィ、ギィ……」
辺りには不気味な音が鳴り渡っていた。鈍く重い、金属を擦りあわせたような音が。
少年はこの特徴的な音に覚えがあった。
それは、管理局の資格試験で勉強した時に、教本の一番最初に出てくる――
恐怖の象徴『足ありラザク』の鳴き声だ。
ペメルン七番街。人通り、という言葉さえ似つかないこの荒廃した地区で言葉を発するものといえば、体に管理印を刻んだ灰色装束の『執行者』、もしくはそれに準ずる管理局直属の『墓守』。そのどちらかである。
今この瞬間、『足あり』のラザクに首をもがれそうになった少年は、麓の町でも特に危険指数の高いペメルン七番街に立ち入った、墓守の見習いであった。
見習いとはいえ、ラトは一般的な学生の中では専門知識も学力も優れているほうだ。
墓守の候補学校に入るには、難関と言われるいくつもの筆記試験と実技試験をクリアした後、最終項目である「特殊戦闘技能」のテストに合格する必要がある。
限られた業種にしか許されていない特殊戦闘技能の認定証を持つ人間はエリート中のエリートと言われている。軍隊や警察関係の組織から引っ張りだこだ。
努力だけでは到達できない領域にあるこの認定証が必要な『墓守見習い』は、多くの人間から尊敬の目で見られているのである。
この少年――ラト・スイセンも、そんなエリートの一人。この春から夜力管理局の候補学校への入学が決まっている、選ばれし者だ。
そのラトが、剣を抜くこともできずに吹っ飛ばされた。
どこからともなく現れ、軽く手を払われた程度だというのに、足ありラザクの豪腕はいとも簡単にラトの肘盾を貫き、鍛え抜かれたラトの上腕をミシリとへし折った。
化け物殺しの訓練を受けてきたラトでさえ、このときばかりは死を覚悟した。そして、この凶悪なラザクに対し、ラトたち管理局側の人間が送る最大の賛辞を述べた。
「化け物」
殺される。ラトは覚悟した。未だかつてない危険指数。全身に響き渡る生命の警鐘。音をたてて広がる骨折の痛み。そのすべてが死に直結していた。
「ギィ、ギィギィ……」
ふと、ラザクの様子がおかしいことに気づいた。
身の丈はラトと変わらない。ただ他のラザクとは違って足が生えている。ただそれだけ。もちろん、その内に秘められた殺傷能力と凶暴性は外見以上のものであるが。
「この『足あり』、片腕がない……?」
「ギィ、ギギギ……」
ラトが襲われた当初、このラザクには、確かに二本の腕があった。元は人間なのだから、何らかの事情がない限り人の形を保ったままの状態で墓から這い出るのがラザクである。ましてや『足あり』ともなれば、知能も肉体もより人間に近い形で地上に出てくる完全形。
では、このラザクの片腕はどこへいったのか。
思考力が回復してきた。ラトは痛む肩と腕に薬剤を打ち込み、すかさず武器を取った。もちろん戦うためではない。迅速かつ確実にこの場から逃れるためである。あのラザクも、自分の腕がないということにようやく気づいたようだし、この隙に出来るだけ早く逃――
「ギッ!?」
――逃げようとしたところで、ラザクが苦悶の表情を浮かべ悲鳴をあげた。
ぼとり。
叫び声と共に、何かが鈍い音を立てて地面に落ちた。
魔獣の断末魔のような叫び声だった。だがラザクは生きている。
地に落ちたのは、もう片方の腕だった。
数秒で両腕を失ったラザクは、眼前で怯えるラトを睨み付ける。
何が起こったのか分からない。だがこのままここにいては危険だ。確実に殺される。
動け。命を落とす前に、足よ動け。
一瞬とはいえその場に張り付いた足を奮い立たせて、ラトは大きく深呼吸をした。
とにかくラトはその場から走り出す。後方では、両腕を失ったラザクが痛みのあまり人間のような悲痛な叫び声をあげる。
しかしそれも長くは続かなかった。
ラザクの痛みは、やがて強烈な怒りに変わったのである。
その矛先は当然、ラザクの視界に入っているラトに向けられた。
「マジかよ」
既にラザクの前から遠ざかっていたはずのラトだが、いつの間にか先回りをして行く手を阻んだラザクの攻撃により、武器である小太刀を地面に落としてしまった。
「なんつー速さ。鎌を使うしかないか」
ラトは左腰の『鎌』を抜いた。数少ない掘り鎌の技師から譲り受けた業物だ。
大切なものなのでできれば戦闘には使いたくないのだが、命には代えられない。この鎌を使えばラザクの爪と牙も防げるはずである。
という算段のもと、ラトは鎌を眼前に構えた。
「ギィ」と口を開けて噛みつこうとしたラザクの牙に思い切り食い込んだ。やはり、恐るべき速度である。
ラトは怯まずに攻撃を続けた。受けるだけでは駄目だ。ここで一歩引いてもその隙を突かれるだけ。ラザクに弱者と見なされるため、攻撃の意思を示して強者を演じるのがよい。
まさかこれほどの強敵と戦う羽目になるとは思わなかったが、出会ってしまったのなら仕方がない。
一秒でも生きながらえるためにも、自分にできる戦いをする。臆することなどない。
二撃、三撃。激しく打ち合うラトの鎌とラザクの上顎。まるで四つ足の獣と戦っているような感覚だ。両腕を失った元人間と戦っているとは思えない。
これが、足あり(・・・)の強さ。
腕がなくとも、まだ実戦経験に乏しい墓守見習い程度、容易に圧倒できる力を持つ。
自分たちは、この絶対的な強さを、命があるうちに超えねばならないのか。ラトは、自分の宿命を改めて見つめなおし、唇を強くかみしめた。
「お前は……人間だった頃どんなラザクと戦ったんだ」
ラトはラザクに話しかけた。
こちらの言葉は通じる。しかし、ラザクは基本的に話さない。
だが、ラトの問いかけに対し、何らかの反応を示しているのも事実だった。
なぜなら、『足あり』のラザクとは……
ラザクの正体とは――
「生前は、さぞかし名のある墓守だったのだろう。かなりの手練れだ」
――足ありのラザクとは、生前はラザクと戦った管理局員。すなわち、墓守や執行者の、なれの果てなのである。
その答えを、悲しい現実をラトに告げたのは、どこからともなく現れた一人の少女だった。
「戦闘中によそ見をするな。少年」
いつからそこにいたのだろう。少女は、ラトのすぐ側、つまりラザクの攻撃の射程範囲内に立っていた。
銀色の髪。両手に短刀。二段構えの使い手だ。
「身を伏せていろ。そして私がこいつの足を削ぐまで言葉を発するな。おとなしくしてればコイツは私しか狙わない。私が殺されない限りはな」
短刀二段構えの使い手は、やけに体格の良い、それでいて、ラトが目を奪われてしまうほどの美貌を誇る少女だった。
身長もラトよりわずかに高く、筋肉で締め上げられた体は黒衣の襟元から露わになっている女性の象徴をも目立たせない、しなやかなものだった。
そして黒衣にいっそう映える、白にも近い銀の髪が、まるで月明かりを照り返す刃のように妖しく輝いている。
ラトはしばらくの間、この少女に見とれてた。
「なぜこのような場所に『足あり』がいるのだ。山の連中はいったい何をしている」
少女は鋭く研ぎ澄まされた短刀を、それぞれ逆手一文字に構える。
「私が憎いか? 悲しき墓守の亡霊よ」
少女の問いに、ラザクは「ギィ」と低い鳴き声ひとつで返した。
「ラザクになってからそれなりの年数が経過しているな。比較的古い墓から這い出たのだろう。体術の扱い方からして一等墓守以上といったところか」
少女は『足あり』を前にしても冷静だった。こうして話しかけてるのは、ラザクの気をそらすためか、それとも単におしゃべりなだけか。
「話しかけて反応があれば隙を探れる。また私にはそれだけの余裕があるということだ。少年」
少女は長い銀髪を手持ちの紐で手早く束ね上げ、両手の短刀にしたたる黒い液体を払いのけた。
「まさか、あのラザクの腕をやったのは……」
「ああ、私がやった。いい囮がいたので奇襲が成功すると判断した。見えなかった?」
私の攻撃が見えなかったのなら、やはりそこでおとなしくしているべきだ」
「き、君は戦うというのか? 『足あり』と」
「喋るな。敵の注意が逸れるぞ」
ラトはハッと口を塞いだが、その心配は杞憂に終わった。
ラザクはラトには見向きもしていない。
相変わらず、赤い眼を銀髪の少女に向けているだけだ。
「妙だな、ラザクが静かになったぞ?」
「そろそろ活動の限界、私たちの概念で言えば死が迫っているのだ。両腕を落としたし、足を一本もげば一瞬でカタはつくだろう」
「そんなにうまく行くわけがないだろう。もしも君の言うことが本当ならそれは幸運だが」
「その言い方だとまるで私が嘘をついているかのように聞こえるのだが」
「君は本当に見習いなのか? 素性を隠しているだけで実は実戦の許可を得ている墓守なのか?」
「私の動きを見て見習いだと思ったのか?」
「見習いだとは思えないから訊いているんだ」
「私は夜力も高く、肉体だって鍛えている。おまけに発育もいい。年相応に見られたことなど一度もない。それに今の奇襲だってそれなりに良い動きをした」
「俺が気になっているのは、君の服装のことだよ。なんだよ発育って」
自信ありげに武器を構える少女は……ラトと同じ黒衣に身を包んでいた。
管理局員の主な制服として、ラトたち見習いは黒衣、墓守は茶装束、執行者は灰色装束という風に、それぞれが役割によって色分けされているのである。
しかしこの少女は一線級の実力を持ちながら真新しい黒衣を身に纏っている。
なぜ彼女のような実力者が、ぴかぴかの新入生が着る見習い服を着ているのだろう。
「君は、何者なんだ? ホルベル人でもないのに、きれいな言葉を話す、逆手一文字の姫よ」
「名をジュンシャという。国籍は自分でも分からない。義父に育てられた拾い子だからな」
「所属はどこなんだ?」
「それは……もちろん夜力管理局だ。私は墓守だからな」
墓守、つまり対ラザクのプロ。本職だ。
なるほどやっぱり。
ということは、この超強い戦闘系少女は、何かわけがあって『見習い』黒衣を纏っているというわけか。
それなら案ずることはない。年齢性別関係なく、現職の墓守は基本的に過去の墓守よりも強いと相場が決まっている。
なぜならラザクを倒せるということは、過去の墓守を倒せるということだからだ。
あとは、気になるのが彼女の本当の階級である。
「ちなみに、墓守としての階級は?」
「……」
なぜ黙るのか。
「……見習いだ」
「えっ?」
「墓守は墓守だが『見習い』一年目だ。今年から山の候補学校に入学する」
見習いらしからぬ動きを見せた、見習いらしからぬ態度の黒装束。
そんな彼女、ジュンシャ・レイメイは、本当に見習いだった。潜入捜査とか、特殊作戦的な意味があって見習いの象徴である黒衣を纏っていたわけではない。
一年目ということは……ラトと同期生。ぴかぴかの新入生である。
「俺と同期だと……なんてこった」
「そうか。君も一年目か。なら完全に同日同期ということになるな。私も、学生寮を目指して山を登る途中だった。そこでラザクの気配を嗅ぎ取ったから来てみた……というわけだ」
ダメだこりゃ。
ラトは大きくうなだれた。
いくら強いとは言っても、彼女はまだラトと同じ見習い一年目。
しかも、今年からの入学とあれば、真っ新の素人。それじゃあ『足あり』は倒せない。
ラトは項垂れたまま唇をかみしめた。
見習い。すなわち『足あり』に遠く及ばない未熟者。
『……』
弱っているとは言っても、ジュンシャが見習いとあっては、役者が不足している。
「心配するな少年。大丈夫だ。あのくらいなら何度も経験がある。私は飛び級試験を受けて在学中に『執行者』になるつもりでいるからな。対『足あり』の戦闘力は、現職の墓守に匹敵すると自負している。ヤツが一等墓守のラザクだとしても……私は倒せる」
ジュンシャはそう言うと、短刀を素早く目の横に構え直し、相対身をとった。
「自信はある。これは過信ではない。私を信じろ」
『ギィ、ギィ……』
足ありラザクの目が赤く光る。不気味な鳴き声を上げて、ジュンシャの瞳に宿る闘争心を打ち砕こうと息を荒立てている。
姿形は普通のラザクとは違って、人間と同じ形をしている。ただ、全身が黒くただれており、腐ったはずの眼球が不気味な光を放って復元されているという点を除けば。
「勝負は一瞬だ」
山から吹く風が、ジュンシャの長い銀髪を揺らした。
ラトは黙って勝負の行方を見守った。
これは訓練ではない。実戦だ。
ジュンシャと足ありラザクの戦いに勝負という言葉を用いるのなら。
敗者はすなわち――死者になる。
『ギィァッッッッ……!』
目をこらしていただけあって、今回はラトにも両者の動きが見えた。
ジュンシャは軸足に力を込めて、大きく踏み込んだ。
ラザクはそれを予期していたかのように口を広げた。
もしも、ラザクに両腕が残っていれば危なかった。
ジュンシャは、刹那の中でラザクの頭を掴み、驚異的な力と早さでねじ回し首の骨を折った。そしてそれだけでは足らないのか、首を百八十度反転させたラザクが反対側、山の麓に気をとられている間に、ジュンシャはもう片方の手、逆手一文字に構えた短刀をラザクの脚の付け根に当て……
ゴリッ――
渾身の力を込めて、一気に切り落とした。
夥しい量の黒液があふれ出る。最近の研究で、それが血ではないことが判明しているが、じゃあ何だと聞かれて答えられる学者はいない。もっとも有力な説は、体そのものであるという説だ。
「仕舞いだな」
もうひとつの脚を切り落とし、ジュンシャは素早く短刀を腰巻きの鞘に収めた。
ごとん。
四肢を失ったラザクが黒塊となって地に落ちる。
「覚えておけ。いくら『足あり』とは言っても、生きていた頃は私たちと同じ人間だ。手足がなければ、体で覚えている戦闘力は半減どころかほとんどなくなる。だから、対『足あり』には二人以上のチーム、そして囮作戦が望ましい。注意を引きつければ片腕ずつでも落とせるからな」
そう語るジュンシャの目は、冷徹だった。
相手はラザクだ。
もちろん、もう死んでいる。
二度目の死を迎えている。
可哀相などという感情は持ち合わせてはいけない。それがあっては局員になどなれない。
だが、初めてラザクの死を見たラトは、これまでたたき込まれてきた墓守としての心構えが極端に薄れていた。
そうさせたのは、一瞬とはいえ死を覚悟して勝負を投げてしまった自分の弱さと。
悲しいくらい戦いに慣れている、ジュンシャの瞳の色だった。
「何をしている。早いところ埋葬するぞ。少年」
ラザクについての教本第一項と、墓守になる為の教本・規則集第一項の両方に書かれている基礎知識。
『活動を停止したラザクは、その場所に新たな墓を作り、丁重に埋葬せねばならない。その際、可能であれば元の墓にある鍵穴と異なる鍵を作製すること。そうすることにより、その墓に再びと死戒虫が侵入する可能性は激減する。二度三度ラザクになってしまう墓守を減らす為に、可能な限り墓鍵師を呼んで、異なるタイプの錠前を作成すること』
死戒虫とは、死んだ墓守の墓穴に侵入してラザクにしてしまう目には見えない虫の事である。
この虫がいる限り、ラザクと戦う術を持つ者は、死して埋葬された後いつかラザクになるという宿命を背負い続けるのだ。
ラトたち墓守が管理局から受けた洗礼印。これに死戒虫は寄ってくる。
墓守の『夜力』を引き出す洗礼印は、未だ施術方法がひとつしかない。
死戒虫が先か、『夜力』の発展が先か。どちらにせよ、人の死後にまで付きまとう、悲しい負の螺旋だ。
この死戒虫の再侵入を防ぐために、適切な埋葬技術を持った者が適切な埋葬をする必要があるのだ。その際、墓にかける鍵――墓鍵をどのように構築するかが明暗を分ける。
「おい少年。ぼうっとするな。石材ならその辺に転がっているだろう? できれば人目につかないうちに完成させよう」
「墓石の材料は道ばたに落ちてる、か。さすがはペメルン、といったところだな」
すでに穴を掘り始めているジュンシャをよそに、ラトは倒れたラザクの元に跪き、両手を組んだ。
「尊敬に値する、我らが墓守の師よ。この度、我ら若輩の未来を祈って再び地にお帰りいただくことを深く感謝いたします。貴殿と交わした夜力の刃は、必ず我らが子に受け継がれる強力な牙になるでしょう」
ラトは静かに目を閉じて、息絶えたラザクに言葉を送った。
「もう大丈夫だ。すぐに手伝う」
祈りを解いて、ラトはジュンシャと共に穴を掘り始めた。
墓守になるため、国を代表してここペメルンの大墓山にある管理局学校に入学するラトは、まだ門すらも叩いていないというのに、麓の町でいきなり「足あり」に遭遇した。死を覚悟し、ラザクを倒すことに集中した。
そして、初めて『足あり』が倒される瞬間を見た。元は墓守である、『足あり』が。
「ジュンシャ、君は強いんだな……」
「強さとは戦闘能力だけで計るものではない。私の場合は、ただ戦闘に慣れているだけだ」
「そうか……」
ラトは再び穴堀りを再開した。一度は埋葬された人間の、二つ目の墓穴を掘るのだ。
「俺はまだ……当分は慣れそうにないな」
ラトにとって、初めて死線をくぐったのにも関わらず、どういうわけかこの時は「生き延びた」という実感が、まるで無かったのである。