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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第十章【激戦Ⅲ】~ 逆鱗と哀惜 ~
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閑話休題。


都立南条高等学校 剣道部には四人のエースがいる。


鴻儒 緋岐を筆頭に、四芝 槃、天海 将、最後に瑞智 由貴が来る……のだが、緋岐、槃、将は知っている。真に一番強いのは誰なのかを。


否、剣道部部員は全員知っていた。


槃は、中学2年生の時に引っ越して来た。そして、そのまま剣道部に入部したのだが……入部したばかりの頃、腹を立てたことがあった。


『手を抜くんじゃねえよ!!馬鹿にしてるのか!?』


そんな槃の怒りが理解出来なかったのは、対戦相手の由貴だけだ。


緋岐と将は苦笑を零すだけだし、他の部員に至っては、「そうなっちゃったか」と心底可笑しそうに笑うばかり。


『勘弁してやって。由貴も悪気がある訳じゃないんだよ』


こっそり、教えてくれたのは将だ。


曰く、自分が認めた……寧ろ“憧れ”と言った方が良いだろう。自分の仲間と認識し、“憧れ”の意識を持った瞬間、由貴はその相手に勝てなくなってしまうのだという。


だからこそ、学校の部活仲間……特に先輩相手だと、ここぞという時に負ける(例えば自分の裾を踏んづけて転んだりする)事が日常茶飯事だ。

が、仲間が笑われたり、傷つけられたりすると、容赦がなくなるし、学校対抗ともなれば、負け知らずになるのが瑞智由貴という少年の紛れもない真実なのだ。


だから、槃は密かに願っていた。少しばかり、不満を抱いていたと言っても良いだろう。


一度でいいから、本気の由貴と戦ってみたい……と。


(いやいやいや!!無理だろ!!!味方でホンット良かったよ!!!)


今までの考えを覆すには十分な出来事が、今、眼前で繰り広げられていた。


「槃ちゃん!!」

「合点!!!」


由貴が薙ぎ払い、避けながら攻撃する。そのさなか、絶妙なタイミングで槃に好機が巡って来る。


恐らく、偶然ではない。


俯瞰しているのだろう。全ての状況を正しく把握し、最善の手段を本能で取捨選択している。


由貴は由貴で、内心それどころではなかったのだが。



※※※※※



ゲームでさ、RPGとかでさ、よくあるじゃん?


大勢の味方 VS. ボス


みたいなの。あれってさ、ホントに自分がされると、これ程イラッてすることないんだなって思いました!!


卑怯だろ!!こっち二人だぞ!?

なのに、あっち三人とか、人数合わせろよって心底思うッ!!!


そして、やっぱり槃ちゃんスゴい……こう、「ここぞ!」って時に、必ず欲しい一撃をくれる。だから、人数的にはこっちが不利なんだけど、ジワジワとこっちが優勢に変わってきてる。


「小癪な真似をッ……これで、お前も終わりよ!!」


言いながら、俺の右腕を此未都葵(こみずき)金剛武鞭(こんごうぶべん)が捕える。


華杞都珂些命(かきつかさのみこと)!!今よ!!!利き手は封じたわ!!」


ったく、失礼しちゃうよな!

人の事を右利きだって決めつけてさ!!


俺は、十掬剣(とつかのけん)を放り投げるとそのまま左手に持ち替えて、そのまま此未都葵の喉元に突き付ける。


同時に、ちびっ子……華杞都珂些命とか呼ばれた少年が大きく振りかぶって来た大剣を一旦避ければ、そのままよろめく。多分、俺が避けられるとはこれっぽっちも思ってなかったんだろうな。


そのまま重心を失った華杞都珂些命の大剣の柄に手を添えて、よいしょっと剣先を反転させれば、あら不思議!


華杞都珂些命の喉元を捕らえた。


これは、あれだな!敵が油断したのが悪い!!


「いいか、俺には利き手がないんだよ!!」

「それを言うなら両利きだろ!!」


槃ちゃんが相変わらず鋭いツッコミを入れて来る。その方向を見れば、丁度、槃ちゃんの方も勝負がついたようだった。


迂津至命(うつしのみこと)を跪いて、見下ろすような形で剣を喉元に向けて構えている。


「なあ、もういいだろ?俺たちの勝ちだ……だから、母さんを返してくれ。あと、槃ちゃんの捜し物も渡してくれたら嬉しいんだけど」


遠慮がちに言うと、狂ったように笑い出したのはちびっ子……華杞都珂些命だ。


ひとしきり笑ったあと、まるで恨み辛みを詰め込んだ様な視線で睨んで来た。


何だか、スゴく……胸の奥がザワつく。


「何を、ふざけた事をッ!!!」

「本当に……甘過ぎるわね……」


此未都葵が華杞都珂些命に同調する様に小馬鹿にしたように笑う。


「これは、遊戯ではない!!刃を向ける覚悟は出来ていても、貫く覚悟が出来ていなければ意味が無いッ!!!だから、貴方はいつも奪われるんだ!!!」


そんな、責めるような、泣いているような、辛そうな悲鳴のような華杞都珂些命の訴えが、俺の見えない部分を確実に捉えた。


……また、だ。


また、俺だけど俺じゃない……“彼”の記憶が俺の中に拡がる。


『俺は、もう、奪いたくはない……それでも守る為ならば、覚悟を決めねばならないのだろうな……』


だけど、俺は結局守りきれなかった。


「いや、違うッ……俺は……ッ……私は……守りきった……」


そう。奪うことでしか、守れないのなら……覚悟をするしかなかった。


だから、再び血に手を染めた。容赦なく、奪った……のは、俺だったのか……?


「俺たちには、この世界がどうなろうと、知ったことではないのです。大兄……貴方が、今度は選ぶんだ……後悔のない道を……」


華杞都珂些命が言い終わると、此未都葵が続ける。


「それが、“彼”と同調する事でも、“彼”を終わらせる事でも、私たちは構いやしない」


最後に、迂津至命が言った。


「これは、俺たちのエゴ……自ら選んだ……」

「ちょっ!!お前ッ……」


槃ちゃんの慌てる声が聞こえる。


一瞬の事だった。


「大兄、貴方に全て……お返しします……」


突きつけていた剣を伝って、生々しい感触がゾワリと身体を駆け抜ける。


赤が、支配する。

赤に、支配される。


焼け野原


浴びるは鮮血


むせ返る様な


血の、臭い……


血に塗れている。

そう、俺はかつて●●と呼ばれていた。

命を奪うことを天命とされていた。


―― そう、俺は……私は……


「由貴!!!」

『セイ……』


珍しく焦る様な槃ちゃんの声と、甘く愛しい鈴が鳴るような温かな声が、遠くで聞こえた気がした。



※※※※※


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