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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第十章【激戦Ⅲ】~ 逆鱗と哀惜 ~
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忌部と激戦を繰り広げる由貴と槃を視線の隅に置きながら、全ての感覚を研ぎ澄ませた状態で緋岐が注視するのは翠琉の動向だ。


(悔しい……)


ギリッと緋岐は奥歯を噛み締めた。目の前では、筋骨隆々の二人組相手に、翠琉が猛攻を仕掛けている。


何とか隙を見て助けに入りたいものの、一寸の隙すらないのだ。


それは、明らかに実戦経験の差があることを、無言のうちに緋岐に知らしめる。


(……翠琉ッ……)


ここまで戦えるようになるまで、どんな思いで力を振るってきたのか。


こんな死闘を、いままで何度経験してきたのか。


「……いけません。このままでは翠琉が……ッ……」


隙を見つける為に、構えの姿勢を取ったまま全神経を集中させていた緋岐の耳に、璃庵のそんな声が届いて更なる緊張を孕む。


だがしかし、この状態で仕掛けても、翠琉まで攻撃の余波で傷つけてしまいそうで、おいそれと参戦できないでいた。


「良いのう!!美しいのう!!!」


嗤いながら、翠琉の攻撃を何とか凌ぐ。翠琉の攻撃には、秩序も規律も……何もあったものではなかった。


無詠唱のまま、自然の摂理を度外視した攻撃を次々と繰り出しているのだ。


『守ル、タメに……』


ノイズ混じりの声が響く。


(うるさい!!)


『奪ウのではナく、与エる存在二……』


(黙れ!!!)


だって、守ろうとどんなに足掻いても、守れたことなど1度もない。

結局は、理不尽な暴力で相手を捻じ伏せなければ、奪われてしまう。


(奪ワれル前に、奪ッテしマえ!!!)


その時、明らかに翠琉の纏う気が変質した。


「純光属性たる、光の姫巫女が闇に堕ちるか!!爽快よのう、那羅延金剛(ならえんこんごう)


那羅延金剛と呼ばれた男も愉悦の笑みを浮かべている。


「ほんに、なんと愉快なことか!!のう、密迹金剛(みっしゃくこんごう)!!」


「……もう!!何も奪わせないッ!!!!!」


それは、翠琉の心からの願いであり、決意であり、怒りだった。


心の……(うち)の底にとぐろを巻くように蠢く負の感情が、翠琉を喰らおうと牙を向く。


ユルスナ

イキドオレ

ダンザイセヨ

ホロボシテシマエ


その感情のまま、翠琉は伐折羅と呼ぶうちの一柱 密迹金剛を左右真っ二つに切断した。


瞬間……翠琉の長い黒髪が変色し始めたのだ。渦巻く黒い感情が翠琉をどんどん蝕んでいくに従い髪から色が抜けるように白くなっていく。


だが、この瞬間に生まれた僅かな隙を緋岐は見逃さなかった。


霞幻刹劫真具(かげんせつごうしんぐ) 壱之型(いちのかた) (かのえ) 闢黎念珠(びゃくれいねんじゅ)!! 縛呪(ばくじゅ)!!」


すかさず、霞幻刹劫真具を数珠の姿に変えて、翠琉の自由を奪うように捕縛する。そして、そのままキツく抱き締めた。


「はな、離してください!!私が、滅ぼす!!仇をッ……」


抵抗する翠琉を、より一層強く腕の中に閉じ込めて、背中をあやす様に擦りながら耳元で歌うように呪を詠唱する。


(すこ)やかであれ、(おだ)やかであれ、(なご)やかであれ……(いこ)い、安らぐ静寂(しじま)の揺り籠、優しく包み、微睡(まどろみ)にいざない、みちびき、招く……揺籃(ようらん)


フッと翠琉の身体から力が抜けた。それを抱き留めて、余りの軽さに顔を顰めた。白く変化しかかっていた髪は、元通りの艶やかな黒髪に戻っていて、緋岐は内心ホッと安堵の溜息を吐く。

そして、その白い頬を伝う涙に胸が痛んだ。


―― その瞬間……


「璃庵!!!」


言うなり、翠琉背に庇うように向き直ると同時に防護壁を展開する。


「翠琉を頼むッ」

「承知いたしました」


緋岐の呼び声に素早く反応した璃庵は、翠琉を抱きかかえてそっとその場から離れる。その事を確認してから、緋岐は防護壁を解いて、一気に攻撃へと転じた。


まさかの事態に、緋岐は息を飲む。


真っ二つに切断した筈の密迹金剛が、平然と立ち上がったのだ。


「邪魔だてしおって!!」

「否、待て……その武器……見覚えがあるぞ!!!」

「ほんに、見覚えがあるのう、密迹金剛!!」

「あれは、かの有名な韋駄天 雄飛の神具ではないかえ?那羅延金剛」


そんな伐折羅の会話に、緋岐は冷笑を浮かべる。


「悪いが、俺は韋駄天(いだてん) 雄飛(ゆうひ)じゃない。鴻儒 緋岐だ!!……ここからは、俺が相手だ!!!」


言うなり、緋岐は霞幻刹劫真具を構える。


「純光属性たる姫巫女を完全に闇堕ちさせる為の贄になってもらうかの、那羅延金剛」

「あと一押しだからのう。闇堕ちした姫巫女は、さぞや美しかろうて、のう?密迹金剛」


癇に障る嗤いを浮かべる伐折羅たちに、先制攻撃を仕掛けたのだった。


「お前らの思い通りには、絶対にさせない!!!」



※※※※※


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