⑤
翠琉が言ってた。
自分が一度行った事があるところなら、そんなに苦にならず道を繋げられるって。
だから、一度来たことがある忌部の里に翠琉が道を繋げたことには、そんな驚かなかった。
知らない所じゃくて、一度行ったことがある場所なら、ちゃんとした“道”を繋げられるから、あの恐怖のコーヒーカップ超高速回転するような状況にはならないって知ってたから、むしろ余裕で……なんなら、「よし!やるぞ!」とか、気合い入れ直してたくらいだ。
だけどさぁ!!!
「何なんだよこの状況!!?」
叫んだ俺は悪くないと思うんだ!!
だってさ、着いた瞬間、既にドンパチ始まってるとか、訳わかんなくね!?
「あれか!!敵の敵は敵!!!」
「何っつーか……絶妙に今の状況言ってる感じになってるけど、「敵の敵は味方」だからな?」
隣から、槃ちゃんにツッコミ入れられたけど、返事してる場合じゃないって!!
なんか筋骨隆々な双子と、忌部一族の皆さん??が、戦ってるっていうね!!
隣見てみると、緋岐先輩も同じだったみたい。俺のテストの結果を見た時と同じくらい、驚いたように顔顰めてる。
『何で、俺が教えたのに、この点数なんだよッ!!』
って、思いっきり叱られたの思い出した。
でもさ、だってさ、何だよxとyって!!
判んないんだったら、謎は謎のままでいいじゃんか!!
バチカン市国と、バカチン四国って似てるじゃん!!
もう正解でいいじゃん、バカチン四国でって言ったら、先輩から思いっきりこめかみグリグリされた……思い出しただけで、何か痛くなってきた気がする。
「お前、またロクでもないこと考えてるだろ」
視線が痛い。槃ちゃん、鋭いッ……
「何のことかな?」
「……まあいいや。このまま俺たちは、コッソリ目標達成するぞ!トンビに油揚げ作戦だ!」
槃ちゃんがなんかキメ顔で作戦名言ってるけど……なんかうどんっぽくね?油揚げって……ちなみに俺は月見うどん派だ!!
「その心は?」
「戦わずに、桜さん取り返して、ついでに目標物ゲットするぞ!」
「卑怯じゃね!?」
「戦略だ!!」
打てば響くやり取りとは、まさにこの事ッ!!槃ちゃんの応えに思わず納得しかかった、その時……
「翠琉!!待てッ!!!」
緋岐先輩が止める声も虚しく、翠琉が動いた。
「団体行動乱すなー!!!」
って、叫んでる槃ちゃんの声も、十分過ぎるくらい、目立ってると思うんだ。
※※※※※
忌部の里に足を踏み入れた瞬間、翠琉は激しい頭痛に襲われた。
それは、グワン、グワンと鐘がなる様な痛みで。閉じられたものを、無理やりこじ開けられている様でもあり……
「翠琉……?」
いち早く、翠琉の異変に気が付いた緋岐が気遣わしげに覗き込む。
「翠琉、しっかりしろ……」
『翠琉、大丈夫だ……だから、今は忘れなさい』
誰かの声が、重なる。
「翠琉!こっちを見ろ!!」
頭の中が、掻き混ぜられる。
『ィいカい、スいる……力は、たダしく使ウんだヨ……』
『だいジょウブよ。あなタは、ワタしノ、たいせツな……』
嗤っているのは、誰?
大切な、大切な……護りたかった……
なのに、簒奪者は嗤いながら破壊の限りを尽くす。
『ごめん、翠琉……守るには、もう、これしか……』
金糸の長い髪が、さらりと流れ落ちる。男性とは思えない美しい人が、そっと翠琉を抱き締めた。
嗤って、いる、ノハ……
場面が変わる。金髪の麗人から、濡れ羽色の艶やかな髪の……
抱き締められたまま、その背後に簒奪者を見た。
『忘れナさィ……』
抱き締められながらも、翠琉の瞳はその簒奪者を捉えて離さない。
そうダ……あレに、……あれラにすべテ……奪わレた。
「翠琉ッ!!!」
焦燥感に駆られるまま、翠琉の両頬に手を当てて力を込める。
「……ッあ……」
その、兄の声に翠琉は止めていた息を吐き出した。兄の後ろに見えるのは、紛れもなくあの日……あの場所で全てを奪い尽くした仇敵。
『翠琉、兄様達を守ってあげてね』
不意に、耳に母の声が蘇る。
「あいつがッ……とと様を……」
(今度は、奪われてたまるか!!!)
守れなかった。果たせなかった約束。
(かか様、今度こそ守ります)
その瞬間、翠琉は迷いなく駆け出したのだった。
「なっ!!?翠琉ッ!!!」
緋岐の伸ばした手が虚しく空を掴む。
「伐折羅!!!覚悟ッ!!!」
そのまま、翠琉が攻撃を仕掛けた。
同時に苦情が緋岐に飛んで来る。
「緋岐先輩!!あの暴走娘止めろよ!!!妹だろ!?俺の作戦台無しだよ!!」
憤慨しながら言い放つのは槃だ。
「そうだよ!せっかく槃ちゃんが“きつねに油揚げ”作戦考えたのに!!」
「トンビに油揚げ作戦だよ!うどんじゃねえし!!」
由貴の援護射撃にすかさず槃がツッコミを入れる。
そんな二人のやり取りに、緋岐もやっと深呼吸することが出来て、焦る心を落ち着かせる事が出来た。
そうすると、色んな事が見えて来る。
(何で……)
つい先程まで、激しい攻防戦を繰り広げていた間に翠琉が割って入った形だ。
忌部一族の面々にしてみれば、それは予想外の出来事のはず。そうなれば、こちらに矛先が向かってもおかしくない筈なのに、動きがない。
よくよく見れば、璃庵も固まっている。向かう視線の先にいるのは忌部一族の面々だ。
「何故、あなた方が……」
それは、思わず零れ落ちた璃庵の本音なのだろう。
だが、今はその意味を問う時間すら惜しい。
それは、忌部も同じようで、迂津至命が一歩前に出ると口を開いた。
「約束のモノは、用意出来たのか?」
「悪いけど、一方的な約束を守る義務はないんだよ。……それに、ココにあるよな?もう一振の神剣が……渡してもらおうか」
迂津至命が問うのに、まるで挑発する様に間髪入れず言い放ったのは槃だ。
「本当に、図々しいったらないわね……神剣天定すら持って来られない脆弱なお前たちに、渡すわけがないでしょう?」
そう苛立ちを隠さずに此未都葵は吐き捨てる。
「今生ではなかった、という事です。残念ですが……ここでお別れですね……。また、貴方の魂に巡り会えるまで……」
そう淡々とした口調で続ける背の小さな少年もまた、忌部一族の者なのだろう。身体に似合わない大剣を軽々と肩に担いでいる。
「しゃあない。交渉決裂だな、残念……ってなわけで、行くぞ由貴!!」
言いながら手を翳す槃の手の中に、炎を纏った一振の剣が現れた。
「おうよ!緋岐先輩、翠琉頼んだ!!」
「お前が言うな!翠琉は俺の妹だ!!」
緋岐の抗議が由貴に届いたかは定かではない。槃に応える様に、由貴は既に駆け出していた。その手の中には十掬剣が握られている。
こうして、忌部一族との最後の火蓋が切って落とされたのだった。
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