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沙羅夢幻想~ さらむげんそう ~  作者: 梨藍
地上編 第十章【激戦Ⅲ】~ 逆鱗と哀惜 ~
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翠琉(すいる)が言ってた。


自分が一度行った事があるところなら、そんなに苦にならず道を繋げられるって。


だから、一度来たことがある忌部(きべ)の里に翠琉が道を繋げたことには、そんな驚かなかった。


知らない所じゃくて、一度行ったことがある場所なら、ちゃんとした“道”を繋げられるから、あの恐怖のコーヒーカップ超高速回転するような状況にはならないって知ってたから、むしろ余裕で……なんなら、「よし!やるぞ!」とか、気合い入れ直してたくらいだ。


だけどさぁ!!!


「何なんだよこの状況!!?」


叫んだ俺は悪くないと思うんだ!!


だってさ、着いた瞬間、既にドンパチ始まってるとか、訳わかんなくね!?


「あれか!!敵の敵は敵!!!」

「何っつーか……絶妙に今の状況言ってる感じになってるけど、「敵の敵は味方」だからな?」


隣から、(ばん)ちゃんにツッコミ入れられたけど、返事してる場合じゃないって!!


なんか筋骨隆々な双子と、忌部一族の皆さん??が、戦ってるっていうね!!

隣見てみると、緋岐先輩も同じだったみたい。俺のテストの結果を見た時と同じくらい、驚いたように顔顰めてる。


『何で、俺が教えたのに、この点数なんだよッ!!』


って、思いっきり叱られたの思い出した。


でもさ、だってさ、何だよxとyって!!

判んないんだったら、謎は謎のままでいいじゃんか!!

バチカン市国と、バカチン四国って似てるじゃん!!

もう正解でいいじゃん、バカチン四国でって言ったら、先輩から思いっきりこめかみグリグリされた……思い出しただけで、何か痛くなってきた気がする。


「お前、またロクでもないこと考えてるだろ」


視線が痛い。槃ちゃん、鋭いッ……


「何のことかな?」


「……まあいいや。このまま俺たちは、コッソリ目標達成するぞ!トンビに油揚げ作戦だ!」


槃ちゃんがなんかキメ顔で作戦名言ってるけど……なんかうどんっぽくね?油揚げって……ちなみに俺は月見うどん派だ!!


「その心は?」

「戦わずに、桜さん取り返して、ついでに目標物ゲットするぞ!」

「卑怯じゃね!?」

「戦略だ!!」


打てば響くやり取りとは、まさにこの事ッ!!槃ちゃんの応えに思わず納得しかかった、その時……


「翠琉!!待てッ!!!」


緋岐(ひき)先輩が止める声も虚しく、翠琉が動いた。


「団体行動乱すなー!!!」


って、叫んでる槃ちゃんの声も、十分過ぎるくらい、目立ってると思うんだ。



※※※※※



忌部の里に足を踏み入れた瞬間、翠琉は激しい頭痛に襲われた。

それは、グワン、グワンと鐘がなる様な痛みで。閉じられたものを、無理やりこじ開けられている様でもあり……


「翠琉……?」


いち早く、翠琉の異変に気が付いた緋岐が気遣わしげに覗き込む。


「翠琉、しっかりしろ……」

『翠琉、大丈夫だ……だから、今は忘れなさい』


誰かの声が、重なる。


「翠琉!こっちを見ろ!!」


頭の中が、掻き混ぜられる。


『ィいカい、スいる……力は、たダしく使ウんだヨ……』


『だいジょウブよ。あなタは、ワタしノ、たいせツな……』


嗤っているのは、誰?


大切な、大切な……護りたかった……


なのに、簒奪者は嗤いながら破壊の限りを尽くす。


『ごめん、翠琉……守るには、もう、これしか……』


金糸の長い髪が、さらりと流れ落ちる。男性とは思えない美しい人が、そっと翠琉を抱き締めた。


嗤って、いる、ノハ……


場面が変わる。金髪の麗人から、濡れ羽色の艶やかな髪の……


抱き締められたまま、その背後に簒奪者を見た。


『忘れナさィ……』


抱き締められながらも、翠琉の瞳はその簒奪者を捉えて離さない。


そうダ……あレに、……あれラにすべテ……奪わレた。


「翠琉ッ!!!」


焦燥感に駆られるまま、翠琉の両頬に手を当てて力を込める。


「……ッあ……」


その、兄の声に翠琉は止めていた息を吐き出した。兄の後ろに見えるのは、紛れもなくあの日……あの場所で全てを奪い尽くした仇敵。


『翠琉、兄様達を守ってあげてね』


不意に、耳に母の声が蘇る。


「あいつがッ……とと様を……」


(今度は、奪われてたまるか!!!)


守れなかった。果たせなかった約束。


(かか様、今度こそ守ります)


その瞬間、翠琉は迷いなく駆け出したのだった。


「なっ!!?翠琉ッ!!!」


緋岐の伸ばした手が虚しく空を掴む。


伐折羅(ばさら)!!!覚悟ッ!!!」


そのまま、翠琉が攻撃を仕掛けた。


同時に苦情が緋岐に飛んで来る。


「緋岐先輩!!あの暴走娘止めろよ!!!妹だろ!?俺の作戦台無しだよ!!」


憤慨しながら言い放つのは槃だ。


「そうだよ!せっかく槃ちゃんが“きつねに油揚げ”作戦考えたのに!!」

「トンビに油揚げ作戦だよ!うどんじゃねえし!!」


由貴の援護射撃にすかさず槃がツッコミを入れる。


そんな二人のやり取りに、緋岐もやっと深呼吸することが出来て、焦る心を落ち着かせる事が出来た。


そうすると、色んな事が見えて来る。


(何で……)


つい先程まで、激しい攻防戦を繰り広げていた間に翠琉が割って入った形だ。


忌部一族の面々にしてみれば、それは予想外の出来事のはず。そうなれば、こちらに矛先が向かってもおかしくない筈なのに、動きがない。


よくよく見れば、璃庵(りあん)も固まっている。向かう視線の先にいるのは忌部一族の面々だ。


「何故、あなた方が……」


それは、思わず零れ落ちた璃庵の本音なのだろう。


だが、今はその意味を問う時間すら惜しい。

それは、忌部も同じようで、迂津至命(うつしのみこと)が一歩前に出ると口を開いた。


「約束のモノは、用意出来たのか?」

「悪いけど、一方的な約束を守る義務はないんだよ。……それに、ココにあるよな?もう一振の神剣が……渡してもらおうか」


迂津至命が問うのに、まるで挑発する様に間髪入れず言い放ったのは槃だ。


「本当に、図々しいったらないわね……神剣天定(しんけんてんじょう)すら持って来られない脆弱なお前たちに、渡すわけがないでしょう?」


そう苛立ちを隠さずに此未都葵(こみずき)は吐き捨てる。


「今生ではなかった、という事です。残念ですが……ここでお別れですね……。また、貴方の魂に巡り会えるまで……」


そう淡々とした口調で続ける背の小さな少年もまた、忌部一族の者なのだろう。身体に似合わない大剣を軽々と肩に担いでいる。


「しゃあない。交渉決裂だな、残念……ってなわけで、行くぞ由貴!!」


言いながら手を翳す槃の手の中に、炎を纏った一振の剣が現れた。


「おうよ!緋岐先輩、翠琉頼んだ!!」

「お前が言うな!翠琉は俺の妹だ!!」


緋岐の抗議が由貴に届いたかは定かではない。槃に応える様に、由貴は既に駆け出していた。その手の中には十掬剣が握られている。


こうして、忌部一族との最後の火蓋が切って落とされたのだった。



※※※※※


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