③
将と蘭子が辿り着いた瞬間、洞に響いたのは翠琉の悲痛な叫び声だった。
「しろ、がね!!!!しろがね!!嫌だッ……しろがねーーーー!!!」
パリパリと硝子の破片のように崩れていく白銀の身体を、繋ぎ止めるように、翠琉はきつく抱きしめるが、それは何も意味をなさず、その黒曜を思わせる瞳から涙がとめどなく零れ落ちる。
何が起こったのか、否が応でも理解せざるを得ない。
「酷いな……」
いつも余裕綽々な槃も、この状況は耐え難い様で顔を顰めている。
次の瞬間、殺気がすぐ隣で膨れ上がった。同時に、この惨状を作り出した諸悪の根源……梵天の名を叫びながら、緋岐が一気に仕掛けたのだった。
「あーもー!!キレてやがる!!!」
頭を抱えたのは槃だ。
「ちょっと璃庵、お前の主人止め……って、フリーダムだなッ!!!」
隣に目線を移せば、既に璃庵は白虎のいで立ちのまま、翠琉の元へと駆けて行っていた。
(まあ、予定通りだからいいんだけどさッ)
そんな言葉は飲み込んで、将と蘭子に振り返ると矢継ぎ早に言う。
「将先パイ!らん姉!!とりあえず、さき姉の保護頼む!!!」
「判った。槃、お前も気をつけろよ!!」
言うなり、槃は蕎と周の倒れている方へ、将と蘭子は紗貴の元へと駆け出した。
「蕎、おい!!蕎……しっかりしろ!!!」
多少強めに揺さぶれば、顔を顰めつつ蕎が目を覚ました。
「アカン、やられたわ……」
痛みに耐えながら身体を起こす蕎の目の前で膝をつき、槃は珍しく真面目な面持ちで蕎に問う。
「坐神の選定者……答えは出たか?」
それだけで、状況把握するには充分だった。
「これ、託すわ……あれは破壊者やない。救済者や……土御門の選定者は?」
「砂霧からはもう預かってる……なら、行くぞ?」
「ああ」
言いながら、槃は蕎から確かに何かの欠片を預かる。そのタイミングで紗貴を保護した将と蘭子が戻ってきた。
槃は慌てるでもなくそっと懐にその欠片をしまって、思わず顔を顰めた。
将と蘭子の2人の表情が、紗貴の状態を雄弁に語っていた。
※※※※※
怒りに身を任せて攻撃を仕掛けながらも、無事に将と蘭子が紗貴を保護する姿を横目に確認して、緋岐は安堵のため息を吐いた。
だからといって、怒りが収まるわけがない。
梵天は梵天で、有り得ない事態に目を見開いている。
「何故、お前がその武器をッ!!???」
だが、それには応えることなく低く唸るように言い放つ。
「良くも、紗貴を傷付けたな!!!……翠琉を泣かせたこと、万死に値する!!!」
言うなり、怒りに身を任せて再度攻撃を仕掛ける。
土気色の紗貴は、もはや生きているのかも不安な状態で、翠琉に至っては泣き叫んでいる。
(どんな罵詈雑言も、どんなに痛くても、黙って耐え忍ぶ様な子なのにッ!!!)
「お前、邪魔なんだよ!!!鎌ヤロー!!!!」
そんな声と共に羅刹天が梵天の後方に吹き飛ばされる。
そして、緋岐と同じく怒髪天を衝いた勢いの由貴が、隣りに並び立った。
「行くぞ!!」
緋岐が言うなり由貴も同時に駆け出した。
「トドメだ!!!クソ野郎!!!!!」
まさに、渾身の一撃を梵天に叩き込もうとしたその時……目に見えない何かに、緋岐と由貴は弾き飛ばされた。
咄嗟の機転で受身を取るが、踏ん張りも虚しく土埃をあげながら数メートル後退する。
「ゃっと来たか……真達羅……」
羅刹天の淡々とした声に応えるように、黒い麗人は淡く笑む。その額には第三の瞳があり、漆黒の翼を広げて佇んでいた。
「……まさか、梵天様までやられるとは……地上人にしては、上出来……だけど、ここまでだよ」
言うなり妖しく光る金の瞳で緋岐と由貴を交互に見やる。その瞬間、緋岐と由貴は、完全に身体の自由を奪われた。
口を開くことすら赦されない。
真達羅と呼ばれた男が手をかざすと、梵天と、羅刹天も共に宙へと浮く。
「これから、世界は絶望に染まる、断末魔が響き渡る日は近いだろう。お前たちはおのれの非力を嘆きながら、そこから観ているがいい」
それが、最後の言葉だった。梵天、羅刹天、そして真達羅は一瞬にして、その場から掻き消えたのだった。
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