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由貴が羅刹天から紗貴を奪還した頃、鴻儒 緋岐、天海 将、楼条院 蘭子……そして、四芝改め神々廻 槃の四名は神路山上空に到着していた。
「なんだ、あのおぞましい怨気は……」
巨大化した赤毛の猫 マリスの背に騎乗している蘭子が、眉を顰めて口を開く。
「俺、何にも見えないはずなのに……流石に背筋がゾッとするよ」
そう続けるのは、同じく巨大化した烏 レノスの背に乗る将だ。
「結界を張って、不浄で満たして、封印を無理やり破ったってか?」
流石の槃も、あまりの光景に顔を引き攣らせる。ちなみに、まるで地面に立っているように空に浮いているのだが、緋岐、将、蘭子の三人には謎でしたかない。
とにかく、今は一刻も争うのだ。疑問に思うことは、後で存分にぶつけて問正せばいいというのが、三人の見解だった。
―― だが、これはあんまりだ
神路山の洞入口を中心に、まるでの一帯を覆うかの様に……何か流出を阻むように、ドーム状の結界が貼られており、その中を怨気……妖と称されるもの達が死ぬ際に放つ気が充満しているのだ。
「あそこに、紗貴が……翠琉がいる」
それまで沈黙していた緋岐がポツリと呟く様に言う……と同時に、それまで跨っていた白虎の背から飛び降りた。
「えええ!!???」
「馬鹿か!!!ヘタレ!!!」
慌てたのは将と蘭子だ。
「強行突破するしかないけど、頭に血が上りすぎだろ!!!」
文句を言いながらもいち早く反応して緋岐の後を追うように急降下したのは槃だ。
「煉獄の扉開きて誘うは裁断の階。我が謳いを火鑽りとし斎火を招かん。招来焔炎!!」
呪詠唱と同時に炎の刃が緋岐に先立ち結界に向かって突き立てられる。
そこに綻びが生じた事を見逃すはずがなく。
「霞幻刹劫真具、弐之型 辛 鋭犀爪!!」
緋岐が短くそう呪を唱えると、数珠が鈎爪に変化する。その鈎爪を構えて、一気に攻め込んだ。
結界が砕かれると同時に、轟音と共に洞に穴が穿たれる。
(怨気が溢れますッ……お気を付けてください)
余りの出来事に茫然としていた将と蘭子の脳内に、璃庵の声が響き、一気に現実へと引き戻された。
「レノス、璃庵、援護をッ!!」
蘭子は言うなり瀞月輪を構える。
「滔々流れ、清浄し、恵み与えたる総攬。調和の轍、其の循環にて還元し、裁き、恵み与えよ。招来滔流!!」
押し込められていた怨気が、緋岐と槃が穿った割れ目から勢いよく噴き出す。その怨気をレノスの羽ばたきと璃庵が操る風とで1つにまとめ、塊となった怨気を蘭子の呪詠唱に呼応するかのように顕現した水の膜が包み込んだ。
「不浄を祓い清め天に還さん!!!」
その声に呼応するが如く、パンと音を立てて怨気を包んでいた水の膜が弾け飛ぶ。
そして、浄化された怨気と共に、まるで恵みの雨のように神路山へと降り注いだのだった。
「……あれ?璃庵は……って、もう行ってる!?」
将が驚くのも無理はない。先程まで隣にいたはずの璃庵は、いつの間にか下降して洞の中に入って行くところだ。
「蘭子さん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないのは、お前だろう?天海……」
随分な大技を放った影響で、まるでフルマラソンをした後のように息の荒い蘭子に気遣わしげに聞けば、逆に心配されて将は一瞬言葉を失った。
(なんで……)
―― なんでバレたのか……
無洞窟で出迎えた緋岐は、だけど緋岐じゃなかった。
長年苦楽を共にしてきた一番気の置けない友人のはずが、別人に見えたのだ。
先程の行動も、いつも冷静沈着な緋岐有るまじきもので。
「全部終わってからだ。天海……何もかも、洗いざらい吐かせるぞ」
通常運転の蘭子に、思わず目頭が熱くなるのを苦笑を浮かべて誤魔化す。
「敵わないなぁ、蘭子さんには……」
そんな将にフッと笑みを一瞬浮かべて、眼下にある洞穴を挑むように睨む。
「行くぞ」
「うん!」
そして、2人も洞内へと入って行ったのだった。
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